テラーノベル

テラーノベル

テレビCM放送中!!
テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

それからしばらくして、中原当主が中也を呼んだ。

中也は何かしてしまったのだろうかと肩をすくめて

当主の部屋へ入ったが、杞憂だった。

中原当主

お前の新しい使用人を紹介したくてね。

中原当主

……入れ

と、襖を開けて入ってきた人に、

中也は目を見開いて驚いた。

中原当主

名をアツシと言う。

中原当主

声が出ず話せぬが、街では器量の良い子だと聞いている。

中原当主

きっとお前のためになる。

ぺこりと頭を下げるのは、この間の美しい人魚の少年。

中也は驚きと嬉しさで言葉が出ず、

口をあんぐりと開けることしかできなかった。

中原当主

だらしないな、中也。

中原当主

次期当主ならば、もう少し威厳を持ってくれなくては。

中原中也

あ、も、申し訳ありません……

中原中也

もう少し、気をつけます。

中原当主

よろしい。

当主は中也に出て行けと手を払った。

中也はアツシと共に廊下へ出る。

にこりとアツシは微笑む。

中原中也

……あ、あのさ

中也はふとアツシに声をかけた。

アツシは笑顔のまま首を傾げていた。

中原中也

どっ、どうして、て、手前は、声が出ねぇんだ……?

アツシは驚いたような顔をした。

だがすぐに申し訳なさそうに微笑んで、首を横に振った。

中原中也

……言えないのか……?

首をゆっくり静かに縦に振る。

中也は拳を握った。

中原中也

じゃ、じゃあ、俺たち、前に会ったこと、あるよな……?

また、申し訳なさそうに首を横に振った。

中也は頭を鈍器で殴られたかのような衝撃を受けた。

まさか、覚えてもらえていないとは思っていなかった。

中也だけが覚えており、肝心の人魚の少年、アツシは覚えていないなんて。

まるで一人で舞い上がっていたみたいで恥ずかしかった。

悲しかった。

自分だけでなく、相手にも覚えてほしかった。

そんな気持ちがぐちゃぐちゃと音を立てて混ざり合うから、

中也はそっぽを向いて、アツシを置いて自室にこもった。

そして布団にくるまった。

中原中也

(そりゃそうだ。)

中原中也

(みんながみんな、俺のこと覚えているわけねえ。)

中原中也

(……だけど、俺もここら辺じゃあ有名なんだよ……)

……苦しい

息が、できない

苦しい

どうして?

体が重い

鉛みたいに重い

このまま死ぬのだろうか

そうしたら、透也兄様が雪也兄様が当主になるのだろうか

……また、父様に出来損ないと言われてしまうなあ……

体がだんだんと沈んでいく。

死ぬんだ。

そう悟った。

その時、ふと背中に人のぬくもりを感じた。

生きて

そんな声も聞こえた気がした。

……綺麗な髪をした

女の人だった。

この作品はいかがでしたか?

129

コメント

1

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚