余命１０年

礼子は、この日旅立った。天国と言う名の、誰も知らない場所に。

茉莉は、礼子と同じ病気を体に宿していた。

余命は、10年。この病気になって発病から10年以上生き延びた者は居ない。

茉莉の病気が発病したとき、家族は絶望的な顔をしていた。まぁ当たり前の事だろう。姉の桔梗（ききょう）は、自分のことのように悲しんでいた。

その中でただ一人笑っている者がいた。それが茉莉だ。その場を明るくしたい、というよりは、自分の不安を笑顔で打ち消そうと言う感じである。

茉莉は自宅で調べたその病気の資料を医者や家族に突きつけた。まるで10年後自分が死ぬ現実を突きつけるように。

その時も、茉莉は笑顔だった。満々の笑みを浮かべて、資料を読みはじめた。

茉莉の家族は皆泣いていた。発病以来、どれほど家族を泣かせただろう。

茉莉は、家族をもう泣かせないと決心した。

それから一年。ようやく病気の容態が良くなったため、茉莉は退院した。