その時、オボロさんと私の間に巨大な手が立ちふさがった。
赤ん坊
ダメ
オボロ
あ?
赤ん坊
ナツキには手を出しちゃダメ
オボロ
どけ
赤ん坊
ダメ
赤ん坊
パパに言いつけるよ?
オボロ
なんだと?
赤ん坊
ナツキは特別な存在なんだ
オボロ
…………
オボロ
ヒヒヒ
オボロ
そういうことかぁ!
オボロ
それは面白い…
オボロ
やっぱお前は面白いなァ!ナツキィ!
ナツキ
え、何!?どういうこと?
赤ん坊
ナツキは関係ない話だよ
ナツキ
いやいや!
ナツキ
普通に私の名前出てたし!
ナツキ
関係ないことはないでしょ!
赤ん坊
いずれ分かるよ
オボロ
そうだなぁ
オボロ
いずれ分かるだろうなぁ
オボロ
ヒヒヒ…
じゃあまたなぁ、ナツキ
じゃあまたなぁ、ナツキ
オボロさんは愉快そうに笑いながら、 部屋を出ていった。
赤ん坊
大丈夫かい、ナツキ?
ナツキ
あ、うん…
赤ん坊
これからどうするの?
ナツキ
私、ハウスキーパーさんを探しに39Fに行くの
ナツキ
ヨミさんに頼まれて…
赤ん坊
ヨミさん
ナツキ
知ってる?
赤ん坊
うん
赤ん坊
大丈夫だよナツキ
赤ん坊
彼なら安心だ
赤ん坊
信頼すると良い
不意にヨミさんの姿が脳裏をよぎる。
私が初めて会ったコンシェルジュで
このホテルのことが大好きで、
私の意見を尊重してくれて、
そして…私を殺したがる。
なのに、そばにいると不思議と安心した。
ナツキ
(変な関係…)
赤ん坊
ナツキ
赤ん坊
もともと自分がいた世界に戻りたい?
ナツキ
え?
ナツキ
…うん、そうだね
ナツキ
妹のサツキも待っているし…
私、早く戻らなきゃ
私、早く戻らなきゃ
ナツキ
(そのためにはまず、ハウスキーパーさんを呼んできて)
ナツキ
(ドアマンさんと、マスターキーの争いを止める)
ナツキ
(その隙にどうにかホテルの外に出れたら良いんだけど…)
ナツキ
あ、ねえ!
赤ん坊
どうしたの?
ナツキ
このホテルの外って何があるの?
赤ん坊
外はわからないな
赤ん坊
僕は外に出たことがないからね
ナツキ
そう…
赤ん坊
でもホテルの外に出て、
赤ん坊
現世に戻った人はいるよ
ナツキ
そうなの!?
赤ん坊
僕のパパがそうだからね
ナツキ
え!?
ナツキ
あなたのパパは、生きているの?
赤ん坊
そうだよ
赤ん坊
パパは生きていて
赤ん坊
このホテルと現世を行ったり来たりしている
ナツキ
(そんなこともできるんだ…?)
ナツキ
あなたのパパってどこで会える!?
赤ん坊
さぁ
赤ん坊
パパはいつ帰ってくるかわからないから
赤ん坊
だから僕はここで待っているんだよ
ナツキ
そっかぁ…
赤ん坊
でも大丈夫
赤ん坊
近いうちにパパは君の前に姿を見せる
ナツキ
そうなの…?
赤ん坊
うん
ナツキ
わかった…
ナツキ
(とにかく外に出てみたら何か分かるかも)
ナツキ
じゃあ私、行くね
赤ん坊
じゃあね、ナツキ
ナツキ
(ふう…)
ナツキ
(オボロさんはいないみたい…)
私はエレベーターに乗りながら、 紳士と夫人の会話を思い出してみた。
夫人
生きていた頃、私たちは色々なものに囚われていました
夫人
肉体に囚われ、
夫人
そして愚かな考えに囚われていた
紳士
死はそれらの鎖を
紳士
断ち切ってくれるのです
ナツキ
(…ヨミさんは)
ナツキ
(魂になることを「解放」って言っていた)
ナツキ
(…生きている人間よりも)
ナツキ
(魂になった方が偉いってこと?)
チン
そんなことを考えているうちに、
エレベーターは39Fに到着する。
ナツキ
(…ん?)
ナツキ
(なにあれ?)
廊下の先にあるそれを見て、私は眉をひそめた。
ここから私は、
さらに不思議な従業員たちと出会うことになる──