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新藤仁希
ハンドルを握る新藤仁希が、不安そうにフロントガラスを見つめる。
山道は細うて、街灯も一個もない。
スマホの電波も「圏外」ばっかりや。
助手席の彩実寛花が、画面を見ながら小さく答えた。
彩実寛花
彩実寛花
後ろの席では、涼宮詩恩と松村千愛が毛布を膝にかけていた。
涼宮詩恩
松村千愛
千愛が笑うと、車の中の空気がちょっとだけ和らいだ。
しばらく進むと、霧の中にぼんやり灯りが見えた。
木造の建物。崩れかけた看板にはこう書かれとった。
《深山旅館》
仁希が車を止めた瞬間、ラジオが「ザザッ」と鳴った。
誰も触っとらんのに、古い女の声が混じる。
永山温季
涼宮詩恩
詩恩が眉をひそめる。
彩実寛花
寛花が首を傾げる。
新藤仁希
仁希は笑ってみせたが、顔色は悪かった。
玄関の引き戸は、すでに少し開いとった。
木の床がギィ……と鳴るたび、誰かがついてきよるような気がする。
彩実寛花
寛花が声をかけると、奥から“コツ、コツ、コツ”と足音が近づいてきた。
現れたのは、白髪混じりの女将。
肌はろうそくみたいに白うて、目だけが妙に光っとる。
永山温季
彩実寛花
永山温季
ぞわり、と背中を冷たい風が通り抜けた。
部屋に通されると、畳の匂いが鼻を刺した。
どこか懐かしかけど、落ち着かん。
外は真っ暗で、虫の声ひとつ聞こえん。
涼宮詩恩
詩恩が障子をそっと開ける。
その瞬間、白い影が横切った。
涼宮詩恩
松村千愛
そのとき、寛花のスマホが震えた。
電波は“圏外”のはずなのに、画面に通知が出とる。
《おかえり、寛花。》
……通知の送り主は、二年前に亡くなった――彩実寛花自身の名前やった。