TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

古びた荷車を引くのは、

骨と皮だけとなった老いた馬。

手綱を引くのは、

くすんだ灰色の骸骨だった。

腰に申し訳ない程度の襤褸を巻いている。

荷車に乗っているのは、

青みがかった黒髪の青年と、

白と黒の二本の尾を持つ、

ぶち猫だった。

その一人と一匹には

立派な手枷と足枷が付けられていた。

荷車はガタゴトと悪路を走る。

走り出してからどれほどの時間が経っただろうか、

骸骨が手綱を引っ張って

老いた馬を停める。

骸骨

ほラ、着いたゾ

骸骨は手綱を離し、

己の鎖骨に引っかけていた鍵を取る。

そして、その鍵を使って

一人と一匹に付けられていた枷を外した。

白凌(ハクリョウ)

ここは……

白凌(ハクリョウ)

何処だい?

手首を回しながら

辺りをグルリと見渡す。

古びた掘っ立て小屋が並ぶ集落のようだった。

ヒトの気配はあるものの、

皆、息を潜めているのか

その姿を目で見て確認することは出来ない。

骸骨

四三三(よんさんさん)

骸骨

そウ呼ばれてル集落だ

骸骨

あの奥の屋敷に鬼女(きじょ)のオ須和(おすわ)がいる

骸骨が指差した先には、

他の掘っ立て小屋と大差無い

貧相な平屋があった。

春太

その、お須和さんは青鬼一族なんだにゃ?

骸骨

あア、そうだ

春太

それなのに

春太

お家はかなり貧相にゃ

骸骨

仕方なイさ

骸骨

他の鬼女に対して嫌がらせをするから

骸骨

こんナとこロに連れて来られちまうんだ

春太

嫌がらせって何をしたのかにゃ?

骸骨

食イ物に虫を入れたり

骸骨

布団に蛇ヲ忍び込ませたリ

骸骨

新シイ着物を着た別の鬼女に泥団子を投げつけタリ

春太

嫌がらせっていう範疇じゃないにゃ

骸骨

そういウこった

骸骨

だからこんなところに居るンダ

白凌(ハクリョウ)

それで?その問題児を斬ればいいのかい?

骸骨

んなわけねぇダロ

骸骨

腐ッテモ青鬼一族ダ

骸骨

切ってみろ

骸骨

例え白凌だろうとタダじゃ済まないゾ

白凌(ハクリョウ)

だろうね

春太

わかっててなんで言ったにゃ

白凌(ハクリョウ)

なんとなく?

骸骨

あんタニやって欲しいことハ

骸骨

そのオ須和の命を狙っている”霊鬼”を倒スことだ

春太

レイキってなんにゃ?

白凌(ハクリョウ)

死者の霊魂が恨みを持ち鬼の姿になったヤツのことさ

春太

幽霊を倒すのかにゃ?

白凌(ハクリョウ)

そういうことになるかな

白凌(ハクリョウ)

しかし、なんで”霊鬼”に命を狙われているんだい?

骸骨

そこまでオレは知らなイな

骸骨

詳しい話しはオ須和自身に聞いてくれ

白凌(ハクリョウ)

…わかったよ

骸骨

さすがノ白凌も

骸骨

手ぶらじャしんどいだロ

骸骨

ホれ、刀だ

骸骨が投げ渡してきた刀を受け取り、

鞘から抜いてみる。

春太

刃こぼれの酷い刀にゃ……

骸骨

使いたくないなラ

骸骨

置いテってモいいんだゾ?

白凌(ハクリョウ)

いやいや

白凌(ハクリョウ)

これで十分だよ

骸骨

んジャ

骸骨

行ってコい

骸骨

半日経ったラ迎えに来る

白凌(ハクリョウ)

わかった

骸骨は再び老いた馬の手綱を手に取ると、

ゆっくりとした足取りで進みだした。

荷車を見送ってから

白凌(ハクリョウ)

さて

と白凌は前を向いた。

春太

まさかこんなことになるにゃんて…

白凌(ハクリョウ)

鬼の倉庫に忍び込んだのがバレたんだ

白凌(ハクリョウ)

命があるだけまだマシだろ?

春太

そうだけど、にゃ…

春太

にゃんでオイラまで…

白凌(ハクリョウ)

そもそも

白凌(ハクリョウ)

春太(ハルタ)のせいじゃないか

白凌(ハクリョウ)

なんで私の刀を鬼になんか売ったんだい

春太

それは白凌が悪いにゃ

春太

オイラの大事な髭を抜いて売りさばくにゃんて

春太

それこそ鬼の所業にゃ

白凌(ハクリョウ)

髭なんて幾らでも生えてくるじゃないか

春太

んにゃっ!

春太

オイラの髭は幸運をもたらすにゃ!

春太

そこいらに転がってる猫又と一緒にしないで欲しいにゃ!

白凌(ハクリョウ)

だからと言って刀を売らなくてもいいだろ?

春太

腹いせだにゃ!

白凌(ハクリョウ)

はっきり言うなぁ…

春太

オイラはまだ白凌のこと許してないからにゃ

白凌(ハクリョウ)

じゃあ、ここで待ってるかい?

春太

それは嫌にゃ

白凌(ハクリョウ)

え~…

春太

ここに一匹で居たら…

姿は見えないが、

多くの視線を感じる。

酷く飢えた視線だ。

春太

猫鍋にされそうにゃ

白凌(ハクリョウ)

まったく

白凌(ハクリョウ)

我儘な猫又だなぁ

そんな会話をしながら

集落の中を歩く。

春太

でも……

白凌(ハクリョウ)

なんだい?

春太

幽霊なんて倒せるのかにゃ?

白凌(ハクリョウ)

不可能ではないよ

春太

さすが白凌にゃ

白凌(ハクリョウ)

褒めても何も出ないよ?

春太

何か出たらそれはそれで怖いにゃ

白凌(ハクリョウ)

なんで?

春太

きっと明日は槍が降るにゃ

白凌(ハクリョウ)

なんで?

春太

それに

春太

何か欲しくて言ったわけじゃないにゃ

白凌(ハクリョウ)

春太の中の私はどういう人物なんだい?

春太

そういう人物だにゃ

白凌(ハクリョウ)

やれやれ…

白凌(ハクリョウ)

でも、少し気になることがあるんだ

春太

なんにゃ?

白凌(ハクリョウ)

さっきも言ったけど

白凌(ハクリョウ)

”霊鬼”は霊魂の集合体だ

白凌(ハクリョウ)

それが誰か一人を恨んで襲い掛かるのは

白凌(ハクリョウ)

よほど彼女を恨んで亡くなったモノたちか

白凌(ハクリョウ)

誰かが”霊鬼”を操って

白凌(ハクリョウ)

彼女にけしかけているのか

白凌(ハクリョウ)

そのどちらかだと思うんだよね

春太

”霊鬼”を操るにゃんて……

春太

そんなこと出来るのかにゃ?

白凌(ハクリョウ)

霊魂を操るのが得意な妖(あやかし)なら出来るだろうね

春太

そんな妖術(ようじゅつ)もあるんだにゃぁ

白凌(ハクリョウ)

かなり高度な術だけどね

春太

誰かが操ってるのにゃら

春太

今回倒したところでまた襲われる可能性があるってことにゃ?

白凌(ハクリョウ)

そういうことだね

白凌(ハクリョウ)

そうは言っても今回は”霊鬼”の退治だけだからね

白凌(ハクリョウ)

それ以上のことはするつもりは無いよ

春太

なんだかそれも薄情な感じがするにゃ

白凌(ハクリョウ)

そこまでする義理は無いってことだよ

白凌(ハクリョウ)

それにこれは彼女の嫌がらせを受けたヒトの仕返しだろ?

春太

たぶんそうだにゃ

春太

つまり、これは身から出た錆びだって言いたいんだにゃ?

白凌(ハクリョウ)

お、難しい言葉知ってるんだね

春太

バカにしないで欲しいにゃ

春太

オイラは優秀な猫又にゃんだから

白凌(ハクリョウ)

あはは、そうだったね

春太

……

二人は足を止める。

春太

白凌

白凌(ハクリョウ)

なんだい?

春太

このお札は何なのにゃ?

目の前にある平屋の扉には、

無数のお札が貼りつけられていた。

白凌(ハクリョウ)

ふむ……

白凌(ハクリョウ)

悪意あるモノを弾く術…かな?

春太

ということは

春太

オイラたちは大丈夫なのかにゃ?

白凌(ハクリョウ)

…たぶんね

白凌は一歩前に出て、扉を叩いた。

程なくして、

扉が細く開き、

ギョロリとした目が

一人と一匹を見つめる。

白凌(ハクリョウ)

青鬼の頭領、厳丞(ゲンジョウ)殿の依頼で

白凌(ハクリョウ)

”霊鬼”の討伐に参りました、白凌と申します

春太

猫又の春太だにゃ

静眺

……

その言葉を聞いて

扉が開かれた。

迎えてくれたのは腰の曲がった

老いた小鬼だった。

静眺

話しは聞いております…

静眺

どうぞ……

消え入りそうなほど小さな声で言い、

二人を平屋の奥へと案内する。

お須和

……誰?

奥の部屋に居たのは、

長い青髪で顔を隠した鬼女が一人。

古びた平屋の中で、

彼女の着ている着物だけは

煌びやかで

浮いて見えた。

静眺

頭領からの依頼で

静眺

”霊鬼”を倒しに来た方々です

お須和

そう……

声には覇気が無く、

何とも弱弱しい。

白凌(ハクリョウ)

その”霊鬼”についていくつか聞きたいのですが

白凌(ハクリョウ)

宜しいですか?

お須和

ええ…

白凌(ハクリョウ)

いつから”霊鬼”が?

お須和

…三日前からでしょうか…

白凌(ハクリョウ)

何時ごろ現れるんですか?

お須和

…逢魔が時の少し前かしら

お須和

玄関を叩いてくるの

白凌(ハクリョウ)

玄関を?

白凌(ハクリョウ)

…ああ、それで玄関にお札を?

お須和

ええ、そうよ

白凌(ハクリョウ)

玄関を叩いてくるだけですか?

お須和

追い返そうとしたジジっじゃなかった

お須和

静眺(セイチョウ)が殴られたの

白凌(ハクリョウ)

え、大丈夫だったんですか?

静眺

え、あ、はぁ……

お須和

それで危ないって思って札を貼ったの

お須和

でも、あれもいつまで持つか…

お須和

だから、出来るだけ早く退治して欲しいの

白凌(ハクリョウ)

…かしこまりました

お須和

お願いね

白凌(ハクリョウ)

ちなみに

白凌(ハクリョウ)

襲われたのは貴女だけでしょうか?

白凌(ハクリョウ)

この集落にいる他のヒトは?

お須和

襲われないみたいね

お須和

そうでしょ?

静眺

は、はい…

白凌(ハクリョウ)

……

春太

……

話しを聞いた二人は、

平屋の前にある石に腰を下ろしていた。

白凌(ハクリョウ)

なぁ、春太

春太

なんにゃ?

白凌(ハクリョウ)

彼女の印象、どう感じた?

春太

うーん…

春太

嫌がらせをするようなヒトには見えなかったけどにゃ

白凌(ハクリョウ)

そうなんだよね

白凌(ハクリョウ)

声も弱弱しいし

白凌(ハクリョウ)

骸骨から聞いたようなことをするヒトには見えないけど

春太

ということは

春太

”霊鬼”が彼女を狙っているのは

春太

たまたまなのかにゃ?

白凌(ハクリョウ)

うーん…それも無いと思うんだよねぇ

白凌(ハクリョウ)

他の家を襲わずに

白凌(ハクリョウ)

真っ直ぐここに向かって来るってことは

白凌(ハクリョウ)

やっぱり、狙いは彼女だと思うし

春太

あと、あのおじいさんが言ってたんだけどにゃ

白凌(ハクリョウ)

え?いつ?

春太

部屋を出てここに来るまでにゃ

白凌(ハクリョウ)

え、喋ってたの?

春太

そうにゃ

春太

小さい声だから白凌には聞こえて無かったんだにゃ

白凌(ハクリョウ)

それなりに耳が良い方だとは思ってたけど…

春太

猫又にも劣るにゃ

白凌(ハクリョウ)

…まぁこればっかりは争っても意味無いか

白凌(ハクリョウ)

で?あのおじいさん、何て言ってたんだい?

春太

”霊鬼”は扉を叩くだけじゃなくって

春太

すごい暴言を喚き散らしていくらしいにゃ

白凌(ハクリョウ)

近所迷惑だね

春太

そうにゃ

春太

このアバズレ!とか

春太

能無しの鬼!とか

春太

不細工!とか

白凌(ハクリョウ)

……

春太

真面目にやってるのが

春太

ちょっと馬鹿らしいなって思ってるにゃ

白凌(ハクリョウ)

ヒトの心を読まないで欲しいなぁ

春太

顔に書いてあるにゃ

春太

そういうのはわかりやすいにゃ

白凌(ハクリョウ)

……

春太

”霊鬼”は大きな鬼だから

春太

いつか扉をぶち破って入って来ないか

春太

あのおじいさんは毎日ビクビクしているらしいにゃ

白凌(ハクリョウ)

なるほどねぇ

白凌(ハクリョウ)

まぁ倒さないことには刀も返してもらえないし

白凌(ハクリョウ)

きちんとやるけど……

春太

……

白凌(ハクリョウ)

……

春太

……

白凌(ハクリョウ)

……

春太

早く帰って”麓桜堂(ろくおうどう)”のみたらし団子が食べたいにゃ

白凌(ハクリョウ)

私は”七月(ななつき)酒造”の”寒映え(かんばえ)”が飲みたいよ

春太

白凌はお酒のことばっかりにゃ

白凌(ハクリョウ)

春太も甘味のことばっかりじゃないか

春太

甘味は心の栄養だにゃ

白凌(ハクリョウ)

酒は心どころか身体の栄養だよ

春太

飲み過ぎは毒だにゃ

白凌(ハクリョウ)

適量なら薬になるって話しだろ?

春太

そう言って毎回飲み過ぎてるにゃ

白凌(ハクリョウ)

まさか

白凌(ハクリョウ)

心配してくれてるのかい?

春太

もちろんだにゃ

春太

酔っぱらってまた柳の木を口説いたらどうしようかと

白凌(ハクリョウ)

それ、いい加減忘れてくれないかい?

春太

イヤにゃ

白凌(ハクリョウ)

なんで

春太

青ざめた顔で小豆洗いの平八(へいはち)がオイラを呼びに来たこと

春太

昨日のように思い出されるにゃ

春太

平八に案内された場所にいた白凌は

春太

オイラが今まで一度も見たことがないほど楽しそうな顔をして

春太

柳の木に話しかけてたにゃ

白凌(ハクリョウ)

はいはい

白凌(ハクリョウ)

その話しはもういいから

白凌(ハクリョウ)

君もあんまり甘いモノばかり食べてたら

白凌(ハクリョウ)

誰かが食べたくなるような

白凌(ハクリョウ)

丸々と太った美味しそうな猫又になってしまうよ?

春太

うにゃ…

春太

猫は少し太ってるぐらいが可愛いのにゃ

白凌(ハクリョウ)

春太は大切な人を守りたいんだろ?

白凌(ハクリョウ)

可愛さって必要なのかい?

春太

白凌は猫じゃないからわからないにゃ

春太

オイラはカッコいいも言われたいけど

春太

可愛いも言われたいのにゃ

白凌(ハクリョウ)

我儘な猫又だなぁ

春太

白凌はそればっかりだにゃ

春太

物だった白凌が愛を理解するには

春太

まだまだ時間がかかりそうだにゃぁ

白凌(ハクリョウ)

ちょっ!酷いこと言うなぁ

白凌(ハクリョウ)

私だってね

白凌(ハクリョウ)

誰かを愛することぐらい

春太

あるにゃ?

白凌(ハクリョウ)

ないにゃ

春太

知ってるにゃ

春太

でも、オイラがいるにゃ

春太

だから寂しくないにゃ

白凌(ハクリョウ)

……ま、そうだね

春太

ふふん

春太

撫でても良いにゃよ

白凌(ハクリョウ)

それはお断りします

春太

にゃんでっ

白凌(ハクリョウ)

負けた気がする

春太

どういうことにゃ

ピクリと春太の耳が反応するのと

白凌が立ち上がったのはほぼ同時だった。

白凌(ハクリョウ)

そっちか!

一人と一匹は飛んで屋根まで上がると

屋根を蹴って広い庭に降り立った。

お須和

なにすんのよ!!

ドスの利いた声がして

障子が弾け飛び、

部屋から転がり出てきたのは

ボロボロの甲冑を纏ったモノ。

その輪郭は朧気ではっきりとしない。

春太

あれが”霊鬼”にゃのかにゃ?

白凌(ハクリョウ)

そのようだね

春太

いきなり部屋の中から現れたにゃ

白凌(ハクリョウ)

玄関を叩くんじゃなかったのか

お須和

何ごちゃごちゃ言ってんのよ!

春太

!!

お須和

あれが”霊鬼”よ!

お須和

さっさと倒しなさい!

春太

さっきとは雰囲気が全然違うにゃ…

白凌(ハクリョウ)

猫を被ってたってことか

春太

可愛くにゃい猫にゃ…

お須和

あ゙ぁ゙?

お須和

なんか言った!?

春太

何も言ってないにゃ

春太はサッと白凌の背後に隠れる。

庭に倒れていた”霊鬼”がゆっくりと起き上がった。

お須和

ほら!早く!

白凌(ハクリョウ)

はいはい

白凌(ハクリョウ)

かしこまりました

白凌は刀を鞘から抜き取ったが、

刀身はところどころ錆び付き、

遠目からでも酷い刃こぼれをしているのが見て取れた。

お須和

え、あんな刀で勝てるわけないじゃん

春太

そうでもないにゃ

春太

白凌はそこそこ強いから大丈夫にゃ

お須和

あ、あんたいつの間に

気がつけば春太はお須和の隣に立っていた。

春太

きっとすぐ終わるにゃ

お須和

そうならいいんだけど

お須和に向かって一直線に走ってくる”霊鬼”。

白凌が素早く足払いをするも

脛から下が揺らめくだけで

何の意味もなさなかった。

お須和

馬鹿なの!?

お須和

”霊鬼”には妖術しか通用しないのよ!

言いながら懐から札(フダ)を取り出すお須和。

その眼前で

”霊鬼”の頭が宙を舞った。

お須和

え……?

刎ねたのは

白凌が持っている

あの錆び付いた刀だった。

───ゴトンッ

良い音を立てて縁側に落ちた頭は、

頭部を失い

動きを止めた胴体を見つめる。

”霊鬼”はゆっくりと腕を伸ばし、

頭を掴み

振り返ると

青白い炎渦巻く瞳に

さらに斬りかかって来る

白凌の姿が映った。

しかし、

振り下ろされた刀は、

パキンッ

と軽い音を立てて

呆気なく折れてしまった。

白凌(ハクリョウ)

いやぁ

白凌(ハクリョウ)

やっぱり二度は無理か

白凌は苦笑いを浮べる。

お須和

何を悠長なこと言ってんの!?

白凌(ハクリョウ)

ま、この方が扱いやすい

”霊鬼”が頭を元に戻そうとしたが、

その頭と首の隙間に

白凌は折れた刀を素早く刺し込んだ。

白凌(ハクリョウ)

”霊鬼”なら

白凌(ハクリョウ)

妖術よりも

白凌(ハクリョウ)

呪(しゅ)の方が効くだろ?

”霊鬼”が何かに気が付いた時にはもう、

手遅れだった。

白凌(ハクリョウ)

”暗転(あんてん)”

白凌がそう呟いて

”霊鬼”に触れた瞬間、

それは頭部だけ残して

霧散した。

お須和

え、なに……

お須和

何が起こったの…?

春太

ほら、すぐ終わったにゃ

白凌(ハクリョウ)

なんで春太が自慢げなんだい?

折れた刀を持ったまま、

白凌は二人のもとにやってくる。

春太

強い白凌は自慢だにゃ

白凌(ハクリョウ)

そうかいそうかい

春太

でも、トドメは

お須和

カッコいい!!!

春太

んにゃ!?

お須和が春太を押し飛ばす。

お須和

びっくりした!

お須和

こんな優男が”霊鬼”を倒せるなんて

お須和

微塵も思って無かったけど!

白凌(ハクリョウ)

(酷い言われよう…)

お須和

めっちゃ強いじゃん!!

お須和

なんだよぉ!

お須和

絶対、秒で肉塊になると思ったのに!!

春太

(酷い言われようにゃ…)

お須和

凄い!カッコいい!!

白凌(ハクリョウ)

あ、はぁ…ありがとうございます

お須和

ねぇねぇ!

お須和

ワタシの用心棒になってよ

お須和

住むところもこんなんだし、

お須和

報酬もあんまりあげられないけど

お須和

ワタシの体でよかったら……

白凌(ハクリョウ)

あ、いや、その

白凌(ハクリョウ)

お、お気持ちだけで…

お須和

遠慮しなくていいってさ

ジリジリと近づいてくるお須和。

ジリジリと離れる白凌。

お須和

優しくしてあげるからさ

白凌(ハクリョウ)

いや

春太

うにゃっ!?

咄嗟に春太を抱え上げ、

白凌はお須和の前に盾のように掲げた。

お須和

え?何々?

お須和

二人で猫鍋しようっていうの?

春太

うにゃぁぁぁあ!

春太

オ、オイラは美味しくないにゃ!

お須和

え~?

お須和

良い感じに丸くて美味しいじゃん

春太

いやにゃぁぁ!

春太

食べにゃいで!!

ブスの気持ち悪い声が聞こえる

お須和

…は?

お須和

だれ?今、喋ったの

一人と一匹は勢いよく首を横に振る。

あんたに言ってんのよ

ブス!!

声は下から聞こえた。

皆が視線を落とすと、

そこには”霊鬼”の頭部があった。

お須和

誰がブスだって!?

聞こえなかった?

青鬼一族で一番不細工なお須和さん

お須和

そのクッソ腹立つ言い方

お須和

てめぇ、古慧(フルエ)か

古慧

ええ、そうよ

古慧

青鬼一族イチ可愛い古慧ちゃんよ

お須和

はっ!キモッ

お須和

自分のことちゃん付けとかして

古慧

あ゛!?

古慧

誰がキモいだって!?

お須和

てめぇだよ、古慧!

お須和

つぅか、やっぱりてめぇだったか!

お須和

”霊鬼”けしかけてきたの

古慧

当たり前でしょ!

古慧

相変わらずの悪運の強さで

古慧

生き延びることが出来たみたいだけど

古慧

次は絶対

古慧

ぶっ殺す!!

お須和

あ゙ぁ゙?やってみろよ!

苛立ったように霊鬼の頭を踏み潰すと、

ぐぇっという声をあげて消滅した。

お須和

腹立つ……

お須和

どいつもこいつも……。

お須和

ねぇ

顔を上げると、

そこには白凌と春太の姿は無かった。

お須和

……ジジイ、二人は?

静眺

…先ほど、逃げるように帰られました。

お須和

チッ

春太

熾烈な女の争いにゃ…

白凌(ハクリョウ)

実にどうでもいい争いだけどね

白凌(ハクリョウ)

ああいうのは内々で解決して欲しいなぁ

春太

内々で解決できないから

春太

きっと外部に依頼してきたんだにゃ

白凌(ハクリョウ)

そういうことか……

春太

むしろ

春太

あの二人はずっとあの調子なのかもしれないにゃ…

白凌(ハクリョウ)

……

白凌(ハクリョウ)

少しだけ青鬼の頭領に同情してしまうなぁ

春太

そうだにゃぁ…

お須和

ねぇ

春太

!!!

背後から声が聞こえて

ゆっくり振り返ると、

そこには長い青髪を垂らし、

顔を隠したお須和が立っていた。

お須和

ワタシから

お須和

逃げられるとでも?

春太

にゃぁぁぁぁあああ!!

白凌(ハクリョウ)

は、春太っ

白凌が春太をヒョイッと抱き上げる。

お須和

逃がすか!!

お須和は逃がすまいと手を伸ばしたが、

その手が白凌に触れる前に、

彼の身体は春太共々霧散した。

お須和

あっ!

お須和

くそっ!

お須和

絶対逃がさないからな

お須和

白凌…

《麓桜堂(ろくおうどう)》にて

白凌(ハクリョウ)

はぁ…

白凌(ハクリョウ)

大変な目に遭った……

白凌はお猪口に入った酒を一気に飲み干す。

春太

それはこっちのセリフだにゃ

春太

危うく猫鍋にされるところだったにゃ

そう言いながらも春太はみたらし団子を口に運ぶ。

白凌(ハクリョウ)

無事、刀も返して貰ったし

白凌(ハクリョウ)

今後は無断で髭を抜かないようにするよ

春太

断りを入れても髭は取らせないにゃ

白凌(ハクリョウ)

……残念

春太

でも……

白凌(ハクリョウ)

ん?

春太

お須和さんは

春太

諦めてくれたのかにゃ?

白凌(ハクリョウ)

白凌(ハクリョウ)

怖いこと言わないでくれよ

白凌(ハクリョウ)

彼女はあの集落から出られない呪いがかかっているっていうし

白凌(ハクリョウ)

大丈夫だよ

春太

…それにゃらいいんだけど…

白凌(ハクリョウ)

そんなこと言われたら眠れなくなってしまう…

春太

白凌は、案外ビビりにゃ

白凌(ハクリョウ)

君も彼女に食べられないように気を付けてくれよ

春太

うにゃ!?

春太

ま、巻き込まないで欲しいにゃ

白凌(ハクリョウ)

丸々と太ってると美味しそうに見えるしね

春太

……

春太はジッとみたらし団子を見つめ、

そして、そっと白凌の前に押し出す。

春太

…痩せるにゃ

白凌(ハクリョウ)

それがいい

白凌は笑ってみたらし団子を口に運んだ。

『青鬼』 ─了─

この作品はいかがでしたか?

342

コメント

4

ユーザー

ピクシブから飛んできました笑 なるほどなー、2人はそういう間柄だったのか!人物それぞれが丁寧に描かれており、シーン数は少ないながらも情景や人物がイメージとして頭の中でふくらんでいくようでした! これを踏まえてつづきを読むとまた新しい読後感に触れられそうです。

ユーザー

凄い…凄く面白かったです😭民話や古典文学の世界のようです…! 白凌も春太も、台詞のやり取りだけでそれぞれの性格が読み取れて、「いつもこんなやり取りしてるんだろうなあ」と微笑ましくなす。 お話も先が気になる展開で一気に読んでしまいました。このお話の後もこの世界は続いていくんだろうなぁ続きが読みたいなぁと感じさせるラストが流石でした。本当に面白いです、書いてくださってありがとうございます!!!

ユーザー
チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚