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テラーノベル(Teller Novel)

アタシは、ヴァロさんの館に着いて、いよいよ眠ろうというところだった。

メリエン

ヴァロさん、
行っちゃうの?

ヴァロ

そこがお前の部屋だ。

ヴァロ

私の部屋は向こうだ。

ヴァロさんは不安な少女を置いて行こうとするのだ。

メリエン

だって怖いんだもん。

ヴァロ

怖いのはこっちだ。
万が一お前に私が
噛みついたらどうする。

メリエン

あ、そっか……

ヴァロさんは吸血鬼なので、生物を見ると噛みつきたくなる。

吸血鬼だからっていうのもあるけどドSだからってのも大きな理由だろう。

メリエン

分かった。

まだアタシも八つだった。本来ならばまだまだ親に甘えたい年頃で一人、街に出てきた。

だからこそ、この親代わりのような吸血鬼に甘えたいこともあるのだ。

メリエン

ねえ、ヴァロさんの
パパとママって
どんな人だったの?

ヴァロ

さあ、覚えてないな。
どちらももうかなり前に
他界してしまったから。

メリエン

タカイってなに?

ヴァロ

要するに、
死んだってことだ。

メリエン

え!?

メリエン

じゃあヴァロさんは
一人で生きて来たの。

ヴァロ

ああ。

メリエン

怖くなかった?

ヴァロ

一人の方が案外楽だ。
なんて強がるんだが、
両親を亡くして
心に傷を負わないほど
私も薄情じゃあない。

ヴァロ

私も私なりに葛藤している。

ヴァロ

お前の気持ちも
痛いほどよくわかるしな。

ヴァロさんは、アタシとおんなじなんだ。

そんな安心感があった。

メリエン

ねえアタシ、
家に戻りたいの。

ヴァロ

無理だ。

メリエン

ママに会いたいの。

ヴァロ

不可能だ。

ヴァロ

戻るな、前を向け。

メリエン

だって。

メリエン

戻りたい……

ヴァロ

それで、死んでたら
どうする?

メリエン

そんなわけ、
そんなわけないでしょ!

メリエン

アタシ、戻るから。

ヴァロ

メリエン!

メリエン

ヴァロさんなんて知らない!
最低!

真っ暗な森の中を、アタシは駆け抜けた。ヴァロさんはもう追いかけてこない。

きっと、どうでもよかったんだ。

アタシのことなんてさ。

だから、アタシは家に帰るの。

走っても走ってもファーデンの町は見えてこなかった。

ずっとずっと、闇のような森の中に風景が溶け込んで、影絵を見ている気分だった。

月明かりが、不思議なほどに不気味なの。

そして、見覚えのある道に着いた。

もしかしたら、ママとよく来た散歩道かもしれない。

そろそろ、そろそろファーデンに着くのよ!

見覚えのあるお地蔵様。そして、向こうに見えるファーデラ・ブリッジ。

アタシ、ファーデンに帰ってきたの!

メリエン

ただいま、ファーデン!

フィリア

どうしたの、
メリエンちゃん。

メリエン

あ!
フィリアおばちゃん!
久しぶり!

フィリアおばちゃんは、優しくてクッキーをよく焼いてくれる、近所のおばちゃん。

ちょっと最近ボケ気味だけど……

フィリア

久しぶり。
最近会わなかったわね。

フィリア

夜はお家に
帰らなきゃダメよ。
ママが心配するでしょ。

フィリアおばちゃんは、アタシが街に出たことも忘れてるみたいなの。

メリエン

ううん、アタシね、
この前旅に出たの。

フィリア

あら、そうだったの。
小さいのに大変ねぇ。

フィリア

ごめんねあたし
ちょっとボケてるから。
アッハッハ。

メリエン

じゃあ、おうちに帰るの。

フィリア

ええ、気をつけなさいね。

メリエン

ただいまー。

部屋に明かりがついていない。

メリエン

ねえ、ママ!ただいま!

返事が聞こえない。

部屋に入ると、誰かが横になっていたの。

メリエン

ママ?

病気なのかも。

メリエン

絶対、魔法薬つくって
持ってくるから!

メリエン

あと少し待ってて!

ママは横たわったままだった。

アタシは走り出した。薬草を探すの。

アタシは、来た道を戻りだした。

真っ暗な道だ。

ずっと歩いていくと、明かりが見えてきた。

そこを通り過ぎてアタシはリーファーへ行こうとした。

ヴァロ

何をしている!

ヴァロ

そうか……
見つけたんだね。

メリエン

だって、ママが、
ママが倒れてるんだ。

メリエン

早く薬を……

ヴァロ

もう無理だ、諦めろ。

メリエン

きっと病気なんだ。

ヴァロ

メリエン、
いい加減目を覚ませ。

メリエン

ねえ、ヴァロさん!

メリエン

人の親を勝手に
死んだことに
しないでくれる?

ヴァロ

いや……

メリエン

とーにーかーく!

メリエン

ヴァロさん、
薬の調達手伝って!

ヴァロ

まず寝よう。

メリエン

ヴァロさんのバカ!
もう知らない!

ヴァロ

いや、寝ないと
体に悪いよ。

メリエン

寝なくても大丈夫です。
ヴァロさんなんか
知りません。

ヴァロ

待て。

メリエン

えぇ?何?

メリエン

着いてきて
くれないんでしょ。

ヴァロ

着いていくよ。
不安だから。

そして、打ち捨てられた森に戻ってきたの。

ヴァロ

♪Ah. Ahhhhh〜

メリエン

どうしたの、
そんなあーあー言って。

メリエン

そんな超高音ボイスで
歌ったら体に悪いよ。

ヴァロ

鳥よ、獣よ、精霊よ
今日も我らは暮らす

聞き覚えのある歌。

もしかしてこれ、精霊の儀式の歌?

ヴァロ

寝待ち月を待つ人の群れ
私は起きてそれを待つ

ヴァロ

人の子の眠りし時に我は叫ぶ
誰かの救いを乞うて

ここからはアタシも完璧に覚えてる。 歌わなきゃ。

ヴァロ

雪の華の照らす朝に
祝福を

メリエン

月の照らすこの夜に
ただ光の渦を

メリエン

照らすだけで充分だ

メリエン

この祝福の歌の聞こえる
天上界のものよ
アタシにこの呪いを

メリエン

うわぁ!
ヴァロさん凄い!

ヴァロ

そうか?

メリエン

この花、確か……

ヴァロ

ヴェラ・サンデの花さ。

これは、伝説の花。

確か、どんな病でも治すという。

ヴァロ

どんな薬も死は治せぬ。

メリエン

じゃあ、早く行かないとね。

メリエン

間に合わないかもしれない。
早くしないとさ。

ヴァロ

ならば、私の指示に従え。

ヴァロ

お前は、逃げろ。

メリエン

え、なんで?

ヴァロ

いいから逃げろ!

ヴァロ

振り返るな!
メリエン!

ヴァロ

進め!

???

メリエン

ヴァロさん!

ヴァロ

いけ!

ヴァロ

この程度なら、
私だけで充分だ!

メリエン

ヴァロさん!ダメ!

ヴァロ

お前の首筋に
噛みついてもいいんだぞ。

メリエン

っ…………

ヴァロ

止まるな、追うぞ。

メリエン

…………。

???

グルるルルぅ

ヴァロ

やあ、化け物。

ヴァロ

お前の相手は私だ。

???

がルぅぅ!

化け物は私に、容赦なく牙を剥いた。

私は化け物の突進をかわすと、刃を抜いた。

200年来の錆びた刃は弱々しい光を放つ程度で強さを微塵も感じられない。

嘲るように化け物はつまずいた私を踏み潰す。

肋骨から嫌な音が聞こえた。口の中で血の味がした。

化け物は、威嚇するように咆哮を上げた。

???

がルるルルぅ!

踏みつけられた私。これで終わりか。

体を起こす力は残っていない。化け物が私を喰らおうと、ごくりと唾を飲んだ音が聞こえる。

ヴァロ

あぁあああぁあ!

途端足に電撃のような痛みが走った。

やはりこれが、私の最期か?

メリエン

えっと、
この薬とこの薬を……

メリエン

この瓶はこれだから。

メリエン

よし!もう少し!

メリエン

あれ?呪文なんだっけ。
誰なら知ってるかな。

メリエン

あ!

メリエン

フィリアおばちゃんなら
知ってるかも!

メリエン

うーーん。

メリエン

あれ?ファーデンって
こっちだよね。

メリエン

あれぇー。

???

メリエン

ん?なにこれ。

???

あぁああぁあ

メリエン

何ぃぃいい!

メリエン

お化けぇぇぇぇ!

何これ。なにこれ。骨が歩いてる。

そして、いきなりアタシに向き直ってそいつは棒切れを振りかざしたの。

メリエン

きゃああぁああ!

メリエン

不審者ぁあああ!

ヴァロ

この程度っ!

足の傷はすぐに完治した。そして、体を起き上がらせると錆びた刃で彼奴を切り裂いた。

魔物の血の香りが充満して私は理性を失った。

しかしなんだか声が聞こえてくるもので、私の理性も目覚め始めた。

ヴァロ、わたしはいいの。

ヴァロ

はぁ、まだしぶとく。

ヴァロ

さっきまで私の意識を
乗っ取っていたようだが

ヴァロ

お前は何がしたい。

ヴァロ

邪魔だ失せろ。

ヴァロ

私は早くあの精霊を。

ヴァロ。

ヴァロ

何だ。

貴方が何を考えてるかはわかる。

ヴァロ

そうだろうな、
だってお前は……

貴方は、守ってくれないの?

ヴァロ

守らない。

ヴァロ

私はもう、消えたい。

ならば仕方がないわ。

貴方を呪ってやるの。

ヴァロ

何をする気だ。

あの子が死んだら貴方も死ぬの。

ヴァロ

何を……!

ヴァロ

いや、
ならば私は死ねるのか。

ヴァロ

あのフェニックスの
呪いから逃れられる……!

じゃあやめましょう。

あの子を守り続けることができれば、 貴方の不死鳥の呪いを解く。

これでどう?

ヴァロ

いいだろう。

ヴァロ

取引をのむ。

ありがとう。

じゃあわたしは今から邪霊になるわ。

わたしという邪霊から あの子を守って……

???

コロしてやるぅぅう!

メリエン

きゃあぁあ!

ヴァロ

メリエン!

あの約束を守るため。

あくまで呪いを解くためだが、 私は全てをかける。

ヴァロ

私に任せろ。

あの女ではなく、私が私を動かしている。ならば勝てる!

ヴァロ

喰らえ!

錆びた刃に炎のお嬢様が情熱的に踊り舞う。

それは、まるで昔の私の館の広間で舞う、あの少女を連想させた。

月明かりに吼える。

私は刃をその邪神に振りかざした。

ヴァロ

今宵だけの夢の姫君。
ムーンライト・
セニョリータ!

メリエン

カッコいい!

メリエン

ヴァロさん、今の技、
どういう意味の名前?

メリエン

今宵だけの夢の姫君。
ムーンライト・
セニョリータ!

メリエン

カッコいい!
真似していい?

ヴァロ

ダメだ。

メリエン

えぇぇぇえー。

メリエン

どーゆー意味の技?

ヴァロ

もしも当て字するなら
月夜に踊り舞う炎の……

ヴァロ

やめておこう。

メリエン

えーー。

ヴァロ

まあいいだろう。

メリエン

じゃ、ママに薬を
持っていかないと。

ヴァロ

悪いメリエン。

ヴァロ

お前の母親はもう。

メリエン

何言ってるのヴァロさん!

ヴァロ

死んだんだよ。

メリエン

もー。

メリエン

悪い夢でも
見たんじゃない?

ヴァロ

私にとっては
いい夢さ。

メリエン

はぁ?

メリエン

人の不幸喜ぶとか
最低じゃないのかぁ?

この時おどけてみせたけど、アタシ、無理してたんだと思う。

ヴァロ

それは私の真似か。

メリエン

正解!

ヴァロ

はぁ、もう。

ヴァロ

とにかく、君の母親から
遺言をきいた。

メリエン

ゆい、ごん?

ヴァロ

ヴァロ、
わたしという邪霊から、
あの子を守って……

ヴァロ

とのことだ。

メリエン

わたしという邪霊?

メリエン

ママは死んでも、
死んでも!
邪霊じゃないよ!

やっぱり、死んだのね。

現実を受け止めた途端、なんだか涙が溢れてきたの。

ヴァロ

メリエン。

ヴァロ

泣いてるのか。

優しげな声に安堵したアタシは、ヴァロさんに泣きついた。

メリエン

泣いてなんてない。

そうは言ったものの、涙は止まらなかった。

メリエン

アタシ、ヴァロさんなら
守ってくれると思う。

ヴァロ

そうか……

ヴァロ

ならば、
期待に応えないとな。

メリエン

ありがとう!

泣き笑いでアタシは言った。

もう大丈夫。ママ、心配しないで。

ヴァロ

今回の話は
わかりにくかったと思う。

ヴァロ

だから、
少しだけ解説しよう。

ヴァロ

まずな、私の能力は、
血を吸った相手の
能力をコピーすること。

ヴァロ

メリエンを
送り届けた直後の
彼女の母親の血を
すすった私は、
さまざまな能力を
手にした。

ヴァロ

しかし、彼女の意識が
私の意識の中に
入り込んできた。

ヴァロ

そして、メリエンを
救うために、彼女は
時折顔を出しては
余計なことをした。

ヴァロ

その母親は、死んだ後に
この世に留まった罰として
邪霊にされてしまう。

ヴァロ

それが最後にメリエンを
襲った魔物だ。

ヴァロ

また、その前に
私が相手した化け物は、
強くはなかったが、
その時に私の意識を
メリエンの母親が
乗っとっていたせいで
剣裁きがゴミだった。

ヴァロ

だから負けかけた。

ヴァロ

ちなみに
歌を歌うシーンは
彼女の母親の意識だった。

ヴァロ

以上だ。

ヴァロ

ん?ムーンライト・
セニョリータの正体?

ヴァロ

内緒だよ。

ヴァロ

私の昔の話なんて
どうでもいいだろ。

リーファーの薬草師

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