マドカ
ちょっとセイヤ。
それどういうこと?
ヒメ
当たりが入っていないって……本当なの?
セイヤ
断言はできない。
でも、志賀がルールの説明をした時を思い出して欲しいんだ。
セイヤ
志賀は【黒い玉が当たり】という事実を告げたけど、その当たりがどこに行ったか知ってる?
マドカ
いや、普通に抽選箱の中じゃないの?
ツヨシ
まぁ、実際に見ていたわけじゃないけど。
セイヤ
そうなんだよ。
志賀は【黒い玉が当たり】という事実は告げたけど、それを抽選箱に入れるとは言っていないし、実際に入れたところを誰かが見たわけじゃないんだ。
ヒメ
くじ引きだって言われたら、普通は当たりが入ってるものだと思うよね。
ヒメ
でも、実際には入っていなかったってこと?
セイヤ
あくまでも、その可能性があるって話だよ。
セイヤ
例えば、さっきツヨシが一度に何個も玉を引いた時、もし当たりが入っていたとしたら、多少なりとも焦ると思うんだ。
セイヤ
でも、志賀は焦るどころか、ツヨシのやったことを笑って許した。
マドカ
待って、当たりが入っていないってことは――。
マドカ
最初から私達が当たりを引けないことは決まっていたってこと?
マドカ
そんなの、明らかにルール違反じゃない。
セイヤ
いいや、実はこの状況から、当たりを引いたとしか思えない状況を作り出すことはできるんだよ。
ツヨシ
だったら、その状況を作るようにしてみようぜ。
セイヤ
いや、それをするためには、まず抽選箱の中に確実に当たりが入っていないことを確認する必要があるんだ。
セイヤ達が相談をしている間に、淡々と……しかしテンポ良く、くじ引きは続く。
ハカセ
先生、ここで質問権を行使させて欲しいんだ。
志賀先生
おー、ハカセ達の班は質問権を使うのか。
志賀先生
いいぞ。
ハカセ
それじゃあ、先生の目的はなんですか?
志賀先生
……ハカセ。お前、どうしてもそれが気になるのか。
志賀先生
先生としては、このゲームについての質問権として設けたつもりだったんだけどなぁ。
志賀先生
まぁ、いいか。
答えてやるよ。
志賀先生
このクラスの歪み、ねじれを矯正するためだよ。
志賀先生
以上。
志賀先生
理由はそれ以上でも、それ以下でもない。
ハカセの質問は、ゲームに全く関係ない部分を突いたものだった。
マドカ
ハカセにしては珍しく間抜けな発言ね。
ヒメ
しかも、質問の答えって、本当なのか嘘なのか分からないんでしょう?
ヒメ
だったら、なにを聞いても無駄じゃない?
ツヨシ
いや、あいつのことだから、みんなの先陣を切ったつもりなんじゃないか?
ツヨシ
このままだと、淡々とくじ引きが続いて、あっという間に終わってしまう。
ツヨシ
その流れを止める意味もあったのかもしれない。
ツヨシ
言ってしまえば、時間稼ぎだな。
セイヤ
ハカセのことだから、きっと当たりが入っていない可能性には気づいているはずだ。
セイヤ
その先の対策を練るために、時間稼ぎとして質問権を利用したのかもしれない。
志賀先生
おーい、他に質問権を使う班がないなら、くじ引きに戻るぞ。
志賀先生
せっかくの質問権だから、無駄にしないようにな。
すでに抽選権を失ってしまったセイヤ達は、完全に蚊帳の外だ。
セイヤ
このペースでくじ引きが進行すると、質問権の内容を考える暇もない。
セイヤ
このままだと、本当にあっという間にくじ引きが終わるぞ。
焦るセイヤに助け舟を出したのは、他の班に入ってしまったヨウタだった。
ヨウタ
せっ、先生!
もう限界だわ!
ヨウタ
トイレ行かせてくれ。
ヨウタ
このままだと漏れるぞ!
志賀先生
……ヨウタ。お前、なんのつもりだ?
まさか時間稼ぎのつもりか?
ヨウタ
時間稼ぎもへったくれもあるか!
ヨウタ
いいのか?
ヨウタ
本当に漏らすぞ。なぁ、漏らしちまうぞ!
ヨウタの主張が、時間稼ぎのための嘘なのか、それとも本当のことなのか。
志賀先生
仕方ない。ちょっと待ってろ。
担任はそう言うとスマホを取り出し、どこかに連絡をしているようだった。
志賀先生
一度仲間が戻る。
そうしたら、トイレに行って来ていい。
ヨウタ
早めに頼むぜ……。
ふと見たヨウタの顔が、顔面蒼白になっていることは、あえて気づかないふりをしてやった。
こうして、フルフェイス達が戻って来て、ヨウタがトイレに向かう。
マドカ
全く、緊張感のない男よね。
ヒメ
ヨウタって顔は悪くないけど、あの性格がどうもねぇ……。
セイヤ
でも、もしかして質問権の内容をみんなが考えられるように、あえてトイレに行きたいふりをしたのかもしれ……。
マドカ
ない。
ヒメ
それは絶対にない。
セイヤ
(この2人、なんだかんだで息が合ってきたな)
ツヨシ
でもよセイヤ。
なにを質問すればいいと思う?
ツヨシ
こっちの質問に対して、担任は本当のことを答えるか、嘘のことを答えるか分からない。
ツヨシ
結局、どんな質問をしたところでよ、嘘をつかれるかもしれないんだ。
セイヤ
あぁ、だから困ってる。
セイヤ達が会話を交わしていると、ヨウタが戻ってくる。
フルフェイス達と担任は改めて教壇の前で打ち合わせらしきものをすると、フルフェイスBのほうだけが教室を出て行った。
フルフェイスAをここに残し、フルフェイスBは教室の外に出た……ということは、まだハカセの父親は見つかっていないのであろう。
志賀先生
よし、それじゃあテンポ良く行くぞ。
志賀先生
いいか?
残り1周。
お前達が当たりを引けなければ終わりだからな。
ヨウタ
せ、先生!
戻って来てすぐで悪いけど、俺達も質問権を行使する!
志賀先生
……ヨウタ。お前、いちいちタイミング悪いよな。
そんなんじゃ女にモテないぞ。
志賀先生
まぁいい。質問権はお前達に与えられた権利だからな。
ヨウタ
じゃあ聞かせてもらうぞ。
ヨウタ
その抽選箱に……本当に当たりが入ってるのか?
マドカ
えっ?
意外。
マドカ
ハカセならまだしも、ヨウタまでセイヤと同じ可能性にたどり着いているなんて。
ツヨシ
でも、あの質問のやり方じゃ、本当のことは引き出せない。
志賀先生
いい質問だな。
志賀先生
答えよう。
当たり前だが、この抽選箱には当たりが入っている。
当然だろ?
くじ引きなんだから。
担任はさも当然とばかりに答えるが、それが嘘か真かは分からない。
ヒメ
本当に意味ないよね。
ヒメ
嘘をつけるんなら、質問しても無駄じゃん。
マドカ
もういっそのこと質問してみる?
マドカ
先生は本当に嘘をつくんですか?
って……。
セイヤ
……それだ。
セイヤ
それだよ、マドカ。
マドカ
え?
セイヤ
分かったぞ。
抽選箱の中に当たりが入っているかどうか確認する方法。
セイヤ
ヨウタに続くぞ!