蘇枋に嘘をついた。 初めて、一緒に死のうと言われたあの時から、俺の心は変わることなんてなかった。固く決めていたのだ。 蘇枋から離れると。 俺が理由で死んで欲しくないから。
これだけは何があっても曲げないと、 あの時に決めていたから。
俺一人だけが逝けばいい。 アイツの重荷には、 もうなりたくはないから。 人生の邪魔をしたくないから。
睡眠薬を使った自殺をすると決まった時から、俺は下準備を始めた。 薬剤は、しばらく摂取し続けると効果が薄れるらしい。 これを利用する事にした。 蘇枋の飲み物や、食べ物に睡眠薬を投入することで、蘇枋だけ睡眠薬の効気を悪くした。蘇枋が作った物に入れると勘のいいあいつの事だ。きっと何かに気づいてしまう。 だから俺が作った物や渡す飲み物だけに入れることにした。 最初はバレない為にすごく少量を。
後からどんどん量を増やして行った。 もちろん死ぬ量は入れていない。 これで死んでしまえば 本末転倒だからだ。
そして、薬を体に慣れさすために、 時間が欲しい。 だから俺は、この前ポスターに貼り出されていたパフェの事を思い出し、 それを口にした。
普段から食い意地が張っている所為か、全くといいほど疑われはしなかった。 それどころか笑われてしまった。 あまりにも笑い続けるので、 少しムスッとした顔をしたが、 今はこの笑顔を見ていたいとも 思ったので、放って置くことにした。
そして、きっと蘇枋は、自分だけが生き残ったと知れば後を追うだろう。 だから遺書を多めに書いた。 街のやつと、クラスメイト、 そして、蘇枋の分を。 睡眠薬が入った茶を取りに行った時に、 遺書を見られた時は焦ったが、 内容はよく見られていないらしく、 ホッと息を着いた。
この先、俺が居なくても、蘇枋には幸せに、楽しげに笑ってて欲しい。 そう願いながら、この1ヶ月、 何も無いかの様に全員を、蘇枋を騙し続けた。
桜
学校からの帰り道、 蘇枋と別れて帰った後、 俺は慣れないスマホで 2つ、連絡をを入れた。
呼び出したのは知り合いも少ないであろうカフェ。コーヒーがとても美味しいと有名な場所らしい。 蘇枋が話していたのをふと思い出した。
楡井
桐生
もちろんこの2人には 疑われてしまうよな。 でもこれも蘇枋を死なせない為の大事な作戦の1つなのだ。 上手く乗切るしかないだろう。 かと言って嘘は下手な方なので、 この2人、特に桐生を騙せるわけが無い。
だから俺は、できる限り正直に話すことにした。 嘘は本当のことを混ぜるから嘘可動か分からなくなるらしい。 蘇枋がよく言っていた。
桜
桜
楡井
桐生
楡井は珍しい桜からの頼みと聞いて、目をキラキラ輝かせ、 桐生は逆に、その柔らかい目線を鋭くさせた。
桜
桜
桐生
頬を染めて、言葉を詰まらせながら桜は目線を逸らした。 これなら目を見て嘘だとバレることもないし、ただ照れただけだと 思われるからだ。 頬を赤く染める時、蘇枋とのことを思い出すと、自然と赤くなった。 それにサプライズはあながち間違っては居ない。 きっと蘇枋、ビックリするだろうから。
楡井
桜
桜
これも本音だ。 いつも蘇枋には世話になっている。 だから俺からのサプライズであいつには未来をプレゼントする。
楡井
桜
桜
桐生
桐生
桜
楡井
こちらを微笑ましく見て、 協力すると笑ってくれる2人にとても申し訳なく思う。こんなことに手を貸させてしまって申し訳ない。 いたい。ずっと胸が。 アイツの事を考えると、 コイツらの事を考えると。 ずっと、いたい。
桜
桜
最後の言葉は。きっと2人には聞こえていない。 楡井と桐生は、楽しそうに目を細め、キャッキャと桜の成長を喜んでいたから。
アイツらは、怒ってくれるだろうか こんな馬鹿な計画を立てた俺を。 蘇枋は、笑ってくれるだろうか。
俺の居ない未来で。
この日がやっと来た。 とある連絡先に連絡を入れてから、 俺達は海へと浸かっていった。 蘇枋程上手く計画は立てられないだろうし、もし失敗したらその時はその時だ。 潔くこいつと墓に入ろう。 俺の計画が成功すれば 俺の勝ち。 失敗すれば、 蘇枋の勝ちだろう。 最後は結局運任せなのだ。
薬がどれくらい効果が薄れているかなんて俺には分からない。 1ヶ月は、これくらいあれば何とかなるだろうという浅はかな考えからだ。 楡井達の到着時間も、運任せ。 そこまで計算する頭は、 俺には無いから。 穴だらけの計画で、ここまで来てしまった。どうか成功して欲しい。 どうか、コイツには未来を与えてやって欲しい。
死ぬ前に、ちょっとした雑談をした。 蘇枋に心残りはないかと聞かれた。 無いと言ったが、 本当は蘇枋が心残りだ。 蘇枋だけが、心配だ。
月明かりに照らされた蘇枋は、 迷子の子供の様な顔をしていた。 それでも、優しく微笑んで、 こちらを見つめている。 どうしてそんな顔しているのだろうか。 やはり、死ぬのが怖いのだろうか。 それなら良かった。 お前はきっと生きるよ。 生きて生きて、そして死ぬ。
どうか俺の分まで、この世界を見てきて欲しい。 どうか俺の事は、忘れて欲しい。 せめて墓参りは来て欲しいけど。
蘇枋に向かって微笑めば、 その白い腕が、キュッと服用上から心臓部分を押さえ込んだ。
キラキラと光る海は、 まるで天国への光の様だった。 これから俺だけが行く所。 いや、俺はきっと、地獄だろうな。
蘇枋
桜
用法量を超えた薬を蘇枋一人が飲み込んだ。 俺だけが飲み込むフリをした。
俺は薬に体を慣らしていない。 確実に死ぬために。 この1ヶ月、蘇枋に飲ませ続けた薬が、 効果をも足らせてくれると信じて、 ただ眠らせるだけだと信じて、 俺は次の準備にとりかかる。
蘇枋
桜
蘇枋に思い切り抱きつかれて、2人して海に沈みこんだ。 きっと薬が効いてきたのだろう。 海の中では、匂いを感じない。 どれほどくっついても、 蘇枋の顔色は、 いつもの様に青くはなかった。
海の中、酸素も何も無い中で、 俺達は抱き合い、1つ触れるだけのキスをした。 ずっとずっと、こうしたかった。 蘇枋との本当の意味で最後のキス。 これだけで俺には十分だ。 最後にいい土産をもらったそう思った。
ぎゅっと力強く握りしめてくれる体から力が段々と抜けていく。 きっと、蘇枋はもう限界だろう。
蘇枋が目を閉じ、意識を飛ばしたのを確認して、俺は沖へと泳いだ。
桜
服が水を吸い込み、 普段よりも何倍も重みは増える。 しかも意識がない人間を、海から離れた遠くに移動することなんて出来なくて、 波が少し当たる場所まで蘇枋を引き上げた。
この寒さで、楡井達の到着が遅れてしまえば、きっと蘇枋は凍死してしまうだろう。
桜
赤みがかった濡れた濡髪を 耳の方へと流してやった。 蘇枋の顔は、まるで絵にかいたかの様に綺麗だった。
桜
蘇枋の唇に、そっと自分の唇を押し当てた。これが俺からの 最後のプレゼントだ。 有難く受け取っとけよ。
桜
桜
睡眠薬を大量に飲み込んで、 一人海へと浸かった。 どんどんそこが深くなり、 あっという間に俺の腰部分にまで来てしまった。
楡井
桐生
遠くから、俺を呼ぶ声が聞こえる。 俺が何をしているか、 流石にバレてしまったのだろう。 でもきっと、桐生と楡井には届かない。 届かないからこそ、選んだのだ。 物知りの楡井には道案内として、 蘇枋の事を頼む為として、 桐生は力要因として。 濡れて重みの増した人間一人を 運ぶにはきっと楡井には難しいだろうから。 柘浦を呼ぶことも考えたが、 あの男なら、きっと俺のことも海の中から救い出してしまうだろう。 だから桐生と楡井を呼んだのだ。 本当に、この2人には申し訳ない事をした。
聞こえてくる声など無視して、 俺は海へと飛び込んだ。 睡眠薬が聞いてきたのだろう。 体に重石がついた様に重い。 まだ俺の意識があるうちに、 誰かが海に飛び込んだ。
無駄だ。桐生。お前にはもうここまで沈んでしまった俺には届かない。
海の中なのだからそんな声など届きやしない。 だから俺は、桐生に笑ってみせる。 もう俺はいいから、 蘇枋を…たのむ。
「蘇枋、俺は、お前と一緒にいてやらない。」
最後に光をみた。 蘇枋が誰かと楽しそうに笑う未来を。 想像してみた。
コメント
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だからあの時、大きめのペットボトルだったのかな…なんて思いながら読んでたけど桜よく調べたね……まずは褒めるよ()でもね桜、そんな哀しいプレゼントなんて貰っても嬉しくないッッ!!涙 本当に最後のキスは君達が"一緒"に幸せになってから、その命が尽きる頃にして欲しかったッ!これは俺の自分勝手なお願いかもしれない。でも!俺は君にも生きて欲しかった……