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残像

第1話 - 残像

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2018年10月09日

#ホラー

#短編

#不思議

#ショートショート

橙

朔

ねぇ

華

なに？

朔

最近幽体離脱よくするんだけど

華

だけど？

朔

幽体離脱って私、夜寝ているときに起こることだと思ってた

華

違うの？

朔

違うみたい

朔

私この間、渋谷のライブハウスに行ったんだけど。お酒飲んでたから何度もトイレに行ったの。弾き語りのライブだから席があってさ。何回目かな？トイレに入ろうと思ったそのときに、私が入ろうとしたトイレから、パッと誰か出てきたの

華

それが朔だったとか？？

朔

そのとおり！

朔

トイレのドアに手をかけたとき、私は足元を見てた。それで、同じスニーカーが見えた。

朔

でもそれってさ、どこの靴屋にでもあるような有名なやつで。ライブハウスにいた人の中にも何人かいたんじゃないかな？座ってみるとはいえ、大体の人がライブハウスではスニーカーでしょ？

華

まぁ私はライブには行かないからよくわからないけど。朔がいつも履いてるやつでしょ？

朔

そう！だから別にスニーカーが同じだからといって驚くことはなかったんだ。

朔

それで、ふと、顔を上げたら

朔

私がいたんだよね

華

よく似た人じゃなくて？？

朔

違う、あれはたしかに私だったの

華

じゃあ、そのもう一人の朔はどこに行ったの？

朔

わからない

朔

私はそのままトイレに入ったから。便座に座って考えてみたんだ。さっきのは一体何だったんだろう、って。

華

それで幽体離脱だと思ったってこと？

朔

そう

華

ドッペルゲンガーじゃなくて？？

朔

それは自分によく似た人を3人見ると死ぬって話？

華

そう、それ

朔

世の中には3人くらい驚くほど似てる人がいるっていうよね

華

それとは違うの？

朔

違う

朔

なんか、少しふわっとしてたんだ

華

なにが？

朔

なんて言ったらいいんだろう。存在、それ自体がって感じかな。

朔

私がぱきっとした黒なら、それは灰色、みたいな感じ。わかる？

華

わかるような、わからないような。

華

生き霊ってことは？

朔

それは近いかもしれない。

朔

私自身っていうより、わたしから抜け出た何かって気がした

華

ねぇ

華

それ、もしかしてその日に、また見た？

朔

トイレで何度か見た

華

ねぇ

朔

なに？

華

もしかして全部同じトイレ？

朔

そうだよ

朔

癖でさ、カラオケとか駅でも毎回同じトイレ入っちゃう

華

それって

朔

だからなにってば

華

それ、幽体離脱でも生き霊でもないよ

朔

え？

華

それ、幽体離脱でも生き霊でもドッペルゲンガーでもない

朔

だから、なに？

華

残像だよ

朔

残像？

朔

なに、それ

華

最近よくテレビとかネットで出てるじゃん。聞いたことない？

華

自分が一部をそこに置いてくるから、思いとか信念みたいなものが溜まって、像を結ぶんだよ

華

あんまり見すぎるとよくないって

朔

え、なにそれ、知らない

華

いろいろなところに自分の一部を置いてくると、いつか本物に取って代わるんだよ、その残像。どんどん濃くなっていくから、気をつけなよ。

朔

え？どうしたらいいの？

華

どうだっけな、同じ行動ばっか繰り返すとよくないみたいだよ。少し変えたりしないと、そこにばっかり自分を落としていくみたい。

朔

例えば？

華

なんだろう、ゲン担ぎみたいに毎日同じことしたり、同じ場所に何度も何度も行ったり、同じ車両のこの場所に乗るとか、いつもこの改札を通る、とか。

華

そういうのはやめたほうがいい。

華

最近本当に話題になってるよ？聞いたことない？

朔

ない、初めて聞いた

華

やばいって、残像に取って代わられたら、朔が、残像になるよ。残像になって、同じところをさまよって、そのうちに消えて無くなる。自分が残像になったこと、気づいてからじゃ遅いから

朔

消えるって？

華

難しいな

華

今いる自分がいなくなって。どう説明したらいいんだろう。残像だったものが実体になって、本物の朔はどんどん薄くなって、朔が残像になるの。そして、消える

華

とにかく、同じ行動を繰り返すのはやめたほうがいいよ。

朔

私が私だって、どう確かめればいいの？

華

自分が残像じゃないってことを？

朔

そう

華

わかんないな

朔

なにかあるでしょ？

華

あ、そうだ

華

噂だけど、残像には影がないんだって。普通あるでしょ？朔にも、影が

朔

あ

華

なに？

朔

ねぇ

華

なによ？

朔

私、

朔

影が

朔

ない

華

は？

朔

影、ないよ

華

朔？

朔

私にはもう、影が

朔

ないの

朔

さよなら

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