テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
最初に感じた音の圧は薄れて、代わりに、一定のリズムが体に馴染んできていた。 あれほど押し潰されそうだと感じたのに、今はもう人の波が怖くない。
hr
思うままに口に出す。
ur
hr
ur
平然と人を避けながら、うりはカウンターに寄った。 改めて、慣れているんだと感心してしまう。
ur
そう言って、何かを注文する。 うりが去ってから、ヒロはその場で周りを見渡してみた。 笑っている人。 ふらついている人。 肌が触れ合った状態で話している人。 あまりにも自分がいた世界とかけ離れていて、現実じゃないみたいな空間だった。 ふと視線をずらす。テーブルの端に、小さな袋のようなものが見えた。 一瞬だけ目に入って、すぐに誰かがその袋を手で覆う。
hr
そう思ったけど、深く考えないことにした。ヒロには関係のないことだ。 それに、考えない方がいいことも、世の中には存在する。
ur
声をかけられて、振り向いた。 うりが両手にグラスを持ち、その片方をヒロに差し出していた。
ur
透明な液体に、氷が揺れている。静かに泡が弾けては、また新しいものがぷくぷくと上昇する。
hr
一瞬、言葉に詰まる。
hr
ur
呆気なくうりが頷いた。
hr
言いかけて、また口を閉じた。 未成年だから、ダメだって。 そんなこと、分かってる。 でも。
ur
そういううりの口調には真剣味というものが一切感じられなかった。周りを見渡し、宥めるように甘い声になる。
ur
周囲に視線を走らせる。確かに、誰も気にしていなさそうだ。
ur
うりはヒロに渡すはずだったグラスを唇につけ、中身を口にした。 酒が好きなのかもしれない。随分と美味しそうに飲む。
hr
選ばない選択肢もあったはずなのに、気づいた時には言葉に出していた。 うりが楽しそうに笑う。
ur
ヒロが少量しか飲まないと思ったのか、単に自分が多い方を飲みたいだけなのか、うりは自分が口に付けた方のグラスを渡した。 一瞬躊躇して、だけど受け取る。 ひんやりとして冷たかった。 緊張して、顎が僅かにしか開かない。
ur
興味がないような、だけど優しい口調で言われ、ヒロは小さく頷いた。 ほんの少しだけ口をつける。
hr
最初に来たのは、苦さ。 喉を通ると、じんわりと熱が残る。
ur
hr
正直に答えると、うりが笑った。
ur
それからもう一口。 もう顎は震えない。さっきよりも、ずっと自然に飲めた。
hr
いつの間に身体の感覚が変わっていた。 頭がふわふわしていて、とても軽い。数日間付き纏っていた倦怠感が消え、だけどあまり力が入らない。 さっきよりも、音と光が近く感じる。
hr
ur
うりがくすっと笑った。
ur
そう言ううりの頬も、ほんのりと赤くなっていた。呂律が回っていない。 飲んだ量はうりの方が多いだろうが、人のことを言えないくらいには彼も弱いだろう。
hr
ぽつりと出た言葉に、自分でも少し驚いた。 さっきまで意識してばかりだったこの場所が、今は全く気にならなかった。他のものが邪魔する余地もないくらい、思考が狭くなっている。 うりが目を細めた。
ur
うりは覚束ない足取りで、踊るようにヒロの傍に寄った。肩が触れ、彼の体重が自分にもかかる。 ヒロは離れなかった。 嫌じゃなかった。 むしろ、自分を助けたこの人が隣にいることに、不思議な安心感を感じていた。
ur
名前を呼ばれる。 さっきよりも、ずっと近い距離のまま。
hr
顔を向ける。 華奢な身体だと、初めて会った時思った。こうして近くまで来てみると、自分より数センチ身長が低いのが分かる。 陶器みたいなすべすべな肌の上で、大きな猫目が大袈裟に瞬く。
ur
問いかけでも確認でもないように、その言葉は独りごちていた。
hr
何も考えずに、ヒロは正直に答えた。 幸福みたいな気持ちだった。 気分が高揚して、ヒロは声を上げて笑った。 身体からも頭からも力が抜けていて、うりに僅かに体重を預ける。 うりはそれを見て、満足そうに笑った。