――10日後。
――皇都の高級喫茶室。
選ばれし貴族が 社交に花を咲かせるための 格式高き場。
その片隅では、2人の令嬢が 和やかなる“火花”を 散らしていた。
クロエ
クロエ
今もなお
ウェンデッタ様に…
ウェンデッタ
ウェンデッタ
そうらしいわよ
定期的に行われる “聖女”と“悪女"の情報共有。
ごくごく最低限の情報だけを ウェンデッタが伝えると、
クロエは大げさに驚いてみせてから、 あざと可愛く笑みを浮かべた。
クロエ
アルス様って
素晴らしいわ
クロエ
深~い“愛”を
お持ちとは
クロエ
皇族の鑑ですわ★
ウェンデッタ
腹黒聖女が!)
ウェンデッタ
ご満悦でしょ?)
ウェンデッタ
押し付けられずに
済んだんだもの――)
ウェンデッタ
犠牲にしてねッ…!)
心の中で悪態をつく ウェンデッタ。
もちろん表面上は 穏やかな顔を装って。
ウェンデッタ
クロエ様
ウェンデッタ
羨ましいのなら
ウェンデッタ
代わって
差し上げてよ?
クロエ
お優しいのね
クロエ
ご遠慮します
クロエ
ようやく今世で――
クロエ
巡りあえたん
ですもの♥
ウェンデッタ
ウェンデッタ
自分本位な聖女の告白に、 軽く怒りを覚える ウェンデッタ。
ウェンデッタ
――だが瞬時に 頭を切り替えた。
ウェンデッタ
見せては負けね)
ウェンデッタ
無駄よ無駄)
ウェンデッタ
腐ってる――)
ウェンデッタ
分かり切ってるでしょ?)
ウェンデッタ
この性悪を利用しなきゃ
ならないの)
ウェンデッタ
シラヌイ家の皆が
生き残るためには)
ウェンデッタ
見え透いた“挑発”に
乗ってる暇なんか
無いんだから…!)
しっかり自分に言い聞かせ、 笑顔を貼り付けた ウェンデッタは話を続ける。
ウェンデッタ
クロエ
ウェンデッタ
その“運命の人”
とやらは
ウェンデッタ
どちら様
なのかしら?
ウェンデッタ
誰とくっつこうが
興味は無いけど…)
ウェンデッタ
情報は集めて
おかなきゃね…!)
クロエ
クロエ
ウェンデッタ
どうして?
クロエ
付き合いはじめた
ばかりだから…
クロエ
したいんです♥
ウェンデッタ
ウェンデッタ
言わないから
クロエ
ウェンデッタ
クロエ
クロエ
クロエ
わかりますよ~
ウェンデッタ
かしら?
クロエ
彼は――
クロエ
知ってる人”ですもん♪
ウェンデッタ
――同日、夕方。
――イザック恋愛相談所の 所長室。
ウェンデッタ
深刻な顔のウェンデッタ。
ダニエル
お嬢
のんきに答えるダニエル。
ウェンデッタ
ウェンデッタ
付き合ってる?
ダニエル
ダニエル
ダニエル
ウェンデッタ
ウェンデッタ
決まってるでしょ
ウェンデッタ
なんて
ダニエル
何で聞いたん
ですッ!?!?
ウェンデッタ
疲れちゃったのよ…
ウェンデッタ
笑って
はぐらかすだけで
ウェンデッタ
言わないんだもの…
ウェンデッタ
何が楽しいのかしら?
イザック
イザック
ウェンデッタ嬢が
おっしゃるので?
ノクトル
ダニエル
イザックの発言にうなずく ノクトルとダニエル。
ウェンデッタ
ウェンデッタ
クロエと違って
ウェンデッタ
振り回して楽しむ
趣味はなくってよ?
ダニエル
皇太子殿下は?
ウェンデッタ
アルスを突き放そう
としただけ!
ウェンデッタ
なんか――
イザック
あなたに夢中です
イザック
無かろうが
イザック
“幾人もの男”を
手玉にとって
翻弄している…
イザック
でしょう?
ウェンデッタ
ノクトル
ノクトル
振り回されてる
1人だし…
ノクトル
気がつくと
ノクトル
考えてるんだ
ウェンデッタ
言われても困るわよ
ノクトル
ノクトル
振り回されるのも
悪くないというか…
ノクトル
“ウェンデッタの魅力”
だよな、って
ノクトルが浮かべたのは、 不意打ちの甘い笑み。
ウェンデッタ
赤面する ウェンデッタ。
イザック
割って入ったのは、 呆れた様子のイザックだった。
イザック
それ位で良いでしょう
ノクトル
僕、遊んでるつもり
ないけど?
イザック
本題へ戻りたい、
という意味ですよ
ウェンデッタ
言うとおりね!
ウェンデッタ
こうやって皆を
集めた目的は?
ダニエル
ダニエル
ダニエル
情報を共有することと
ダニエル
話し合うことです!
ウェンデッタ
イザック
クロエ嬢のお相手に
ついての議論は
イザック
してもよいかと
ウェンデッタ
ウェンデッタ
私たちの作戦と
密接に関わるわ
ウェンデッタ
あることをふまえれば
ウェンデッタ
政治的にも
大きな意味を持つのよ?
イザック
認めましょう
イザック
あくまで『本日は
いったん保留』
という提案です
イザック
有用な情報が
少なすぎる…
イザック
議論を進めても、
かえって逆効果では?
ノクトル
ノクトル
『ウェンデッタも
知ってる人』なんだろ?
ウェンデッタ
ウェンデッタ
よれば…だけど
ノクトル
わざわざ議論
しなくても
ノクトル
見当つくんじゃ
ないの?
ウェンデッタ
ウェンデッタ
多すぎるわ…
ウェンデッタ
皇国五大貴族の誰か
だろうけど
ウェンデッタ
私が把握してるだけでも
相当な数よ
ウェンデッタ
元・平民…
ウェンデッタ
平民の可能性だって
否めないもの、はぁ…
ウェンデッタが、 ため息をついた。
クロエは もともと平民だったが、
『聖女』に選ばれたことで 皇国五大貴族ミスミ家の 養女になった。
それまでの経歴は 広く知られていないのが 現状なのである。
ウェンデッタ
主張も一理あるか)
ウェンデッタ
先入観での判断ミスも
起きやすくなるし…)
ウェンデッタ
今日のところは
保留にする
ウェンデッタ
追加の情報収集は
頼めるかしら?
イザック
荒いお人だ…
ウェンデッタ
じゃない
ウェンデッタ
任せられる人なんか
いないんだから
イザック
文句を言いながらも どこか少し 嬉しそうなイザック。
ウェンデッタ
報酬は上乗せするから
頑張ってちょうだい
イザック
イザック
少々お時間は
頂きますが
イザック
手配いたします
イザックは にこりと微笑んだ。