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ある日の休み時間。

千帆

はあ、最近つまんないの

友達

それなら、あいつにさ……

千帆

いいじゃん、さんせーい

千帆は後ろの席にいる地味なクラスメイトの机に、わざと飲み物をこぼした。

千帆

ごめーん、手が滑っちゃった。後片付けよろしくー

そのクラスメイトは廊下から雑巾を持ってきて、床と机を掃除し始めた。

千帆

ああ、楽し

千帆は小さく呟いて教室を後にしてトイレに行く。

千帆

あーあ、メイク崩れてんじゃん

派手なメイクを直し終え、教室へと戻る。

先生

飯島、どこで何してたんだ。授業始まってるぞ

千帆

ちょっとトイレに行ってただけじゃん、うざ

先生

まあいい、授業続けるぞ

千帆

つまんな

友達

ねえねえ、あの生物担当のクソ教師、辞めるらしいよ

千帆

えー、急に? ラッキー

友達

実は、それ私のおかげなんだよねー

千帆

は? 何それどゆこと

友達

『うわさ流し』ってサイトがあるんだけど、それが超面白くてさ。書いたことが本当になるんだよ

千帆

何、オカルト系?

友達

本当なんだって。サイトへの行き方教えてあげるから、千帆もやってみなって

サイトへの行き方は、自身のメールアドレスに 「うわさ流し」という件名でメールを送ること。

興味半分で家に帰ってやってみた千帆。 数分後、知らないアドレスからメールが届き、 それにはリンクが貼られていた。

千帆

うわ、マジじゃん

『うわさ流し』というサイトに行くことができた。

サイト

ここに噂を記入してください

サイト

ただし、『~らしい』で締めること

記入欄に適当に入力し始める千帆。

「明日の授業が全部自習になるらしい」

特に期待はせず、千帆はパソコンを閉じた。

翌日、千帆は驚きで教室前で立ち尽くしていた。

黒板には「本日自習のみ」と書かれてある。 昨日あのサイトに書き込んだことが本当になった。

千帆

マジだったんだ、何これ、最強に面白いじゃん

同じ噂は連続では流せず、 投稿自体も一日一回しかできない仕様になっている。

千帆は一日一個書き込みをするようになった。

「自販機のお釣りがしばらく残っているらしい」 「明日〇〇が○○の前で滑ってこけるらしい」 「学食が一週間タダになるらしい」

千帆

あー、次は何にしようかなー

千帆は飽き始め、 自分に有利になるような事象を交代で書き続けていたが、 最近違和感を感じるようになった。

友達

なんで私が退学なのよ!

先生

君、援助交際してるでしょ、証拠はそろってる

友達

は? そんなことしてないし!

先生

言い訳しても無駄だよ。もう決まったことなんだから

この一週間後、千帆の友達は退学処分となった。

千帆

あれ、お釣り出てこない。なんだよ、故障?

自販機で飲み物を買ったとき、お釣りが出てこないことがしばらく続いた。

千帆

きゃあ! 痛ったあ

生徒がたくさんいる中で盛大にこけてしまった。

千帆

何よ! 見世物じゃないんだけど!

それだけではない。違和感はもっと強くなっていく。

千帆

学食金額倍になってんじゃん、こんなの買えないっつーの!

学食のおばちゃん

そんなこと言われてもねえ

千帆は学食のおばちゃんに文句を言い続けるが、 もちろん軽くあしらわれてしまった。

千帆

何これ、おかしいじゃない、うちばかり不幸で……!

この憂さ晴らしにまたサイトに書き込む千帆。

「○○高校の飯島千帆以外の生徒が雨に濡れるらしい」 「掃除当番が飯島千帆に回ってこなくなるらしい」 「○○のペンが全て出なくなるらしい」

その内容は徐々にハードなものになっていった。 しかし、一か月後になるとまた不幸ばかり起こる。

千帆

急に雨降るなんて聞いてないんだけど! もうメイク台無しじゃん

メイクが崩れ、学校に着いてからメイクを直す羽目に。

クラスメイト

飯島、お前今日掃除当番だろ

千帆

そんなの知らないし、てか、昨日も今日も言ってくるのうざいんだけど!

クラスメイト

だって、しばらくは毎日お前が掃除当番のはずだろ

千帆

は? 意味わかんないんだけど

掃除当番表には千帆の名前しか載っていなかった。

千帆

こんなの書き直せば……あれ? ペン出ない……

気が付けば持っている全てのペンのインクが出なくなっていた。

千帆

おかしい、おかしい……!

おかしいことには気づき始めていた。 しかし、千帆は重要なことに気づかない。

「嫌いな奴の友情が壊れるらしい」 「○○先生が謹慎処分になるらしい」 「道端で知らない人がカツアゲに遭うらしい」

ストレスが溜まり続ける千帆。 書き込みもエスカレートしていく。

友達2

ねえ、知ってる? 『うわさ流し』っていうサイトでさ……

千帆

もしかしてあんたなの? うちを不幸にさせてんの

友達2

え、何言って……

千帆

正直に言いなさいよ!

千帆は友達と口論になった。

友達2

誤解だって、私は何も……!

千帆

うっさいなあ! この嘘つき!

友達に思いきりビンタをかました千帆。

千帆

あんたのせいだ、あんたのせいでうちが不幸になるんだよ!

友達2

やめて、やめてよ……!

うずくまる友達に、千帆は容赦なく暴力を加えていく。

先生

何やってるんだ!

先生が止めに入る。 それでも暴れ続けた千帆は一週間の自宅謹慎となった。

千帆

なんで、なんでなんだよ……!

千帆は爪を嚙みながら近くのコンビニまで歩いていた。 その時、大柄な男と肩がぶつかった。

痛ってえな、女、謝罪もねえとはいい度胸じゃねえか。治療費、払えや

千帆

そ、そんな金あるわけないでしょ!

いいから金よこせ!

千帆

何すんのよ! この泥棒!

無理やり財布を取られてしまった。 千帆はその場にへたれこむ。

千帆

何よこれ、うちばかり、おかしいじゃない……

ぶつぶつ言いながら家に帰り、部屋に引きこもった。

千帆の母

千帆、どうしたの、もう謹慎も解けたんだから学校に……

千帆

うるさいババア! 黙ってろよ!

完全に引きこもりになってしまった千帆。

千帆

こんなはずじゃなかったのに!

暗い部屋で一人、泣きながら愚痴ばかり吐く日々。

千帆

そうだ、みんなも不幸になっちゃえばいいんだ……

おもむろにパソコンを起動する。 開いたのは『うわさ流し』だった。

「飯島千帆を不幸にした奴は殺されるらしい」

千帆は勘違いしていた。 注意事項をよく読まずに書き込んでいた千帆が気づくはずもなかった。

サイト

曖昧な噂は反映されない

サイト

過去の事象を変えることは許されない

サイト

書き込んだ全ての事象は反転し繰り返される

書き込み投稿した内容は変更不可だ。

千帆

これで、うちはまた普通の生活に戻れる……

ふらっと外に出た千帆。 背伸びをしながらその辺をぶらぶらと歩いていた。

千帆

うちは、やっと……!

信号待ちをしていた千帆の背中を、誰かが押した。 勢いよく道路に飛び出した千帆は……。

周りの人

女の子がトラックに……!

周りの人

誰か救急車を!

周りが騒がしくなる。 そんな中、にこやかに千帆を送り出す者がいた。

???

これでもう、ノートを汚されずに済むよ、飯島さん

フードを深く被った何者かは、静かにその場を立ち去っていった。

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