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葵 アオイ

昼食食いに行きませんか?

沙羅 サラ

…え?

貴方はふんわりと自然に私に向けて言葉を放った

だけれどあまりにも唐突過ぎて 脳の理解が追い付かず

私は 持っていた花瓶を落としてしまった

「がしゃんっ」という音と共に彼は すぐに私の元へ走ってきて 足元を見てから尋ねてきた

葵 アオイ

っ?!だ、大丈夫ですか?
お嬢様!?

沙羅 サラ

…えぇ…わ、私は大丈夫よ

葵 アオイ

…怪我は ないようですね

葵 アオイ

安心しました

そう言いながら胸を撫で下ろしながら 割れてしまった花瓶を片付ける彼を見て 昔の淡くて懐かしい色褪せた記憶が彼と重なった

沙羅 サラ

沙羅 サラ

(…もう
あの頃には戻れない…)

胸の中に一つのざわっとした感情が広がっていく

沙羅 サラ

…確か 昼食を食べに行こうと言う話だったわね

葵 アオイ

え…ぁ…はい

彼は私を真っ直ぐと見詰めながら

何処か不安そうに 微かに何かを期待しているかの様に

私の返答を静かに待っていた

沙羅 サラ

…行きましょうか

葵 アオイ

え……?

葵 アオイ

…す、凄く…
…お洒落なお店ですね

沙羅 サラ

そうね

私達が来たのは 至ってシンプルな''庶民''のレストラン

だけど 私にはこの空間や雰囲気が落ち着く

それもそうだろう 元々私は気を使わないで良い場所が好きなのだから

だけれど 黒瀬家に住んでいた頃は 誰に対しても気を使わなければいけなかった為

基本は 自室に引きこもり読書を堪能していた

私はそっとメニューを手に取り一通り目を通してから

ふぅっと息を吐いてから物事を発した

沙羅 サラ

…食事の種類ってこんなにあるのね…

葵 アオイ

ですね…俺も驚きました

黒瀬家に居た頃の食事は 質のいい食材を使用した料理を毎日食卓に出され 無理矢理食べさせられた

沙羅 サラ

……でも……そうね
矢張りこれにしようかしら

葵 アオイ

では…俺はこれで…

注文を済ませた後の空気は想像以上にしんみりしていて

周りの空気と私達の周りの空気だけは 明らかに温度が異なっていた

沙羅 サラ

葵 アオイ

…あの…

その沈黙に耐えられなくなった葵が 居心地が悪そうに話を持ち出す

沙羅 サラ

何かしら?

葵 アオイ

お嬢様……は

葵 アオイ

昔…俺と一緒に…花畑に花を摘みに行った事…覚えてますか?

沙羅 サラ

(花を摘みに_)

何故急にそんな事を聞いてきたのか疑問に思ったけれど

テーブルの上に置かれていた一輪の綺麗な 造花の赤薔薇を見て納得した

沙羅 サラ

しっかりと覚えているけれど

今の関係性を考えて この話は「忘れたわ」と答えた方が良さそうね

沙羅 サラ

…御免なさい
覚えていないわ

私がそう返事をすると"一瞬"だけ

ほんの一瞬だけ 葵が泣きそうな顔をした

葵 アオイ

…っ……そう…ですか

沙羅 サラ

(嗚呼……やっぱり)

嘘なんてつくんじゃなかった

正直に「覚えているわ」と言えば

葵にこんな顔はさせなかっただろうに

沙羅 サラ

(…やっぱり…私は馬鹿ね)

沙羅 サラ

(どうして…)

嘘なんてついてしまったのかしら

後悔するには遅過ぎる

だって時は戻らない

時は止まらない

時はいつも人の気持ちを傍観するだけだから

お待たせ致しました~!

御注文された
ハンバーグセットとビーフシチューセットになります!

それでは
ごゆっくりどうぞ!

店員は領収書をそっとテーブルに 置いてから静かにその場を去っていった

私は注文した品をじっと見つめてから言葉を発した

沙羅 サラ

…矢張り ハンバーグを頼んだのね

葵はその発言を聞くと 少しだけ恥ずかしそうに首を縦にふった

葵 アオイ

…はい

葵 アオイ

そういうお嬢様も
矢張り ビーフシチューをお頼みになられたのですね

沙羅 サラ

ええ そうよ

沙羅 サラ

"大好きだから"

その言葉は嘘ではなく 本心だった

昔 私と葵が幼なじみというまだ平和な関係だった頃

葵 アオイ

お~~い!沙羅!

葵 アオイ

今から飯食いに行こうぜ!

沙羅 サラ

ぇ…今から?

沙羅 サラ

さっき……お昼食べたばかりじゃないの

葵 アオイ

いいんだよ!

葵 アオイ

ぁ…
でも母さんには内緒な!

沙羅 サラ

…仕方がないわね

あの頃は…まだ 自由があった

葵 アオイ

うんまっ!なんだこれッ!

沙羅 サラ

…さっき……お昼を食べたばかりなのに…このスープ…凄く食べやすいわ…

葵 アオイ

それはシチューだよ!
ビーフシチュー!

沙羅 サラ

ビーフシチュー…?
この茶色のスープが?

葵 アオイ

そうだよッ!

沙羅 サラ

ビーフって事は…牛肉を使用しているみたいね

沙羅 サラ

コクがあって
…凄く美味しいわ

葵 アオイ

だろ?!

沙羅 サラ

ええ

だから 笑いあったり

葵 アオイ

お~い!沙羅!此方の花すげえ綺麗だッ!

沙羅 サラ

まぁ……本当ね
凄く…綺麗だわ

葵 アオイ

おい!沙羅!俺の花冠捨てるなよッ!

沙羅 サラ

捨ててないでしょう!?

互いに怒りあったり

葵 アオイ

うぅっ……母さんにこの間夜中にこっそり冷蔵庫の中探ってた事バレちまった…

沙羅 サラ

自業自得ね

葵 アオイ

おい!そこは慰めろよ!

沙羅 サラ

はいはい…仕方がないわね

馬鹿みたいな事で呆れたり

葵 アオイ

俺!将来ぜってぇに!お前の婿になる!

沙羅 サラ

ぇ……?冗談はよしなさい

葵 アオイ

冗談じゃねぇってば!

あの告白だって 大して胸には響かなかった

でも…やっぱり今は

嬢と家来という関係が互いを縛る鎖の様だ

だから…

だから___

今くらいは

"監視"がない今は

昔のように…戻りたい

笑いあったり

互いに怒りあったり

馬鹿みたいな事で呆れたり

告白の真意だって…知りたい

でも…私にその事を持ち出せる勇気なんてない

だって…私は 黒瀬家の長女だから

そんな事でへこたれていては駄目だから

沙羅 サラ

…ッ……(やっぱり…美味しい)

暖かくて

優しくて

懐かしくて

何かを包容しているような味

これだけは嫌いになれない

葵 アオイ

…お嬢様

私はゆっくり 葵を見つめる

葵 アオイ

やっぱり…美味しいですね

私は

私は…

沙羅 サラ

…ッ……そうね

沙羅 サラ

美味しいわね

葵 アオイ

……お嬢様…いや

葵 アオイ

"沙羅"

沙羅 サラ

っ…!

葵 アオイ

花を摘みに行った思い出…忘れてないんだろ?

沙羅 サラ

…ッ…流石は 私の幼なじみ

沙羅 サラ

そうよ 覚えてる

沙羅 サラ

あの頃が懐かしいわね

葵 アオイ

…そうだな

葵 アオイ

…なぁ 沙羅

沙羅 サラ

何かしら?

葵 アオイ

俺はぜってぇ…お前の婿になるからなッ!

沙羅 サラ

…!…ふふっ
…勝手にしなさい

葵 アオイ

え?!良いのか?!

葵 アオイ

っしゃッ!

嗚呼良かった

葵は忘れていなかった

昔の鮮やかで爽やかな思い出を

忘れていなくてよかった

今はそれだけで充分

ここから先は……未来の私が何とかしてくれる

きっとそうだ

そう思っていれば…叶う筈だから

この作品はいかがでしたか?

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