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暗い部屋に、男の悲鳴が響く。
？？？
も、もう許してください黒瀬先輩！
黒瀬
うるせぇな。後輩が先輩に逆らおうってのか？
黒瀬
しかも…会社の金を横領したお前が
後輩
だ、黙っててくれてることは感謝してます！
後輩
だけどこんな──
バシッ！バシィッ！！
後輩
いだい！いだいいぃいい！！！
黒瀬が、後輩を容赦なく殴る。
黒瀬
ガタガタうるさいこと言ってんなよ
黒瀬
お前は俺には逆らえない…
黒瀬
黙って俺のオモチャになってろっ！！
悲鳴は、一晩中止むことはなかった──
黒瀬
（くそっ…昨日はヤリ過ぎた…眠い…）
黒瀬の妻
あなた、大丈夫？
黒瀬
ああ、ちょっと眠いだけ。大丈夫だ。
黒瀬の息子
パパ、お仕事頑張ってね！
黒瀬
ああ、頑張るよ。いってきます！
黒瀬
（ええと、今日は客先回りからだっけ…？）
カシャンッ！
黒瀬
いけね、スマホ落とした…
黒瀬のスマホに、女が手を伸ばした。
女
これ落としました…よ…
黒瀬
あ、はい、ありがとうございます
黒瀬
（なんだこの女、人の顔見て驚いてる…？）
黒瀬
（…というか、すごい美人だな）
黒瀬
（こんな美人、10年前襲ったあの子以来──）
女
あ、あの…どうかされました？
黒瀬
え、いや、なんでもないです…
黒瀬
ちょっと、昔の知人にあなたが似てて…はは
女
そう…本当に知り合いだったらよかったのに
黒瀬
…は？えっと、どういう…
女
いえ、素敵な人だなって思ったので…ふふ
黒瀬
（…なんだこの女…初対面で馴れ馴れしい）
女
この辺りはよく通られるんですか？
黒瀬
えー…いやまあ…そうですね…
黒瀬
（こういう浮ついたこと言うやつは…）
黒瀬
（無駄にトラブル起こすんだよな…）
黒瀬
あの…急いでるんで俺はこれで…
黒瀬
スマホ、ありがとうございました…！
女
あ、あの…！
黒瀬は、女を無視してその場を後にした。
黒瀬
…ていう気持ち悪いことがあってさ
同僚
えー、でもすごい美人だったんだろ？
同僚
名前くらい聞いても損しなかったと思うぞ
黒瀬
何言ってんだよ
黒瀬
知らない人間から突然甘い言葉かけられたら…
黒瀬
相手が美人だろうが怖いよ
同僚
お前はほんと冒険しないよな…堅実っていうかさ
黒瀬
そりゃあ、一時の好奇心で動くより
黒瀬
波風立てない選択する方が間違わない
黒瀬
長い目で見たら、これでいいのさ
同僚
はー…お前の堅実で失敗しないとこ、才能だよな
同僚
その堅実な性格で、今まで出世してきたし
上司
黒瀬君、ちょっといいかな？
黒瀬
はい、なんでしょうか？
上司
この資料直すの手伝ってもらってもいいかい？
黒瀬
俺でよければ、喜んでやらせていただきます
上司
良かった、助かるよ
上司
君は何をやらせても無難にこなせるから、頼りになる
黒瀬
そのように評価して頂いて光栄です
黒瀬
（世間的にまともな男だと思われていれば…）
黒瀬
（誰も俺を疑わないし、目立つこともない）
黒瀬
（自分の裏の顔を隠し通せる）
黒瀬は、1人屋上でタバコをふかしている。
黒瀬
（あー…タバコ休憩が認められてて助かる）
黒瀬
（今日も普通の男として、仕事と家庭…）
黒瀬
（頼れる会社員、頼れる父親…）
黒瀬
（それがベストな暮らし方だ、だけど…）
黒瀬は、スマホを取り出して画面を見つめる。
黒瀬
しかたないよなあ…
黒瀬
安定した暮らしだけじゃ、俺は息が詰まるんだ…
黒瀬
夜、いつもの家に来い
後輩
は？今日もですか？
後輩
俺、さすがに体もたないんですが…
黒瀬
なに？断るの？社会的に死にたい？
黒瀬
お前が会社の金横領したのバラそうか？
後輩
後輩
すみません、いつもの家に行きます
黒瀬
20時。待たせんなよ
10年前──
安藤
最初は怖がってたのに楽しそうじゃん
黒瀬
俺…知らなかったんだもん…
黒瀬
誰かを苦しめることが、こんなに楽しいなんて…
少女
う…うう…たす…けて…
黒瀬
ま、まだ抵抗するのか！この女ぁ！！
少女
痛いぃ…やめて…お願い…！！
黒瀬は、容赦なく少女を痛めつけた。
安藤
黒瀬、それがお前の本性なんだよ
安藤
思い切り楽しめよ、な？
黒瀬
そ、そうだよね…
黒瀬
誰も見てないし、誰にも怒られない…
黒瀬
ここでは俺の好きにしていいんだ…！
黒瀬は、10年前を思い返してため息をつく。
黒瀬
あの女と出会わなけりゃ、まともでいられた
黒瀬
誰かを痛めつけたい欲求に…
黒瀬
振り回される人生にはならなかった…
仕事を終えた黒瀬は、
歩きながら後輩に電話していた。
黒瀬
おい、もうすぐそっち着くから正座して待ってろ
黒瀬
…うるせーな。文句言うなら吐くまで殴るぞ？
黒瀬は、電話に夢中で気付かなかった。
女が、黒瀬に向かって速足で近づいていることを。
ドンッ！
黒瀬
うお…なんだ…っ！
女
きゃっ…！すみません、ぶつかってしまって！
女
…あ、スーツに口紅つけちゃった…ごめんなさい！
黒瀬
（げ、これ高いんだぞ！このクソ女…）
黒瀬
あ、あれ…あんた、今朝俺のスマホ拾った人か…？
女
え…あなた今朝の…やだ、なんて偶然…
黒瀬
（朝の馴れ馴れしい女だ…めんどくせえな…）
黒瀬
あの…クリーニング代頂ければいいので…
女
ええ…でもそれだけじゃ申し訳ないわ…
女は、メモを取り出すとそこに電話番号を書き、
クリーニング代と一緒に、黒瀬に渡した。
女
私…一ノ瀬里穂って言います
里穂
今度改めて、お詫びをさせてくださいね
黒瀬
（里穂…そんな名前…どこかで…？）
黒瀬
（というかこの女、10年前のあの子に似てるな…）
黒瀬
（殴るのすごく楽しかった…あの女…）
黒瀬
（この女も…殴れたら…気持ちいいだろうな…）
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