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※クロメア。
※直接的な表現は無いですが、一応背後注意。
ぎぃ。
ブランコに座ると、軋んだ音色が小さく響いた。
木製の硬い感触が伝わる。
塗られた塗装は、外気に晒され冷えきっていた。
冬場はこうした物なども冷えきっている。
繋ぎ止めるように長く伸びる鉄製の白に手を伸ばす。そして、優しく握った。
不思議なことに、冷たさを感じることはない。
「久々だな。随分と。」
一人言かの如く、しかし相手に語りかけるように言葉を呟いた。
「こんな子供じみたことするなんて。」
貴方にしては珍しい、と彼は口元まで覆うハイネックをずらした。
「俺からしてみればお前の方が子供じみている。」
悪戯げに口角を上げながら、しかし冷淡に言い放つ。
紛れもない事実だった為、白の瞳が横に泳いだ。泳いだ瞳を紛らすようにぎこちなく表情筋が上がる。
「クロス。」
柔らかく、優しい声色で彼を呼ぶ。白の瞳が不思議そうに俺を見た。
わざとらしく足を揺らすと、意味が伝わったようだ。
クロスは支柱に手を添えていた手を離し、俺の後ろに回った。
「揺らしますよ。」
背中に手があてがわれ、優しく押された。
ぎぃ。
ぎぃ。
ブランコが大人しく風に揺れて、控えめにメロディを奏でた。
動きは随分とゆったりであった。
手が触れる度、そこから体温が伝わった。彼の体温が鮮明にわかる程、彼の手つきはぎこちない。
きっと、慣れていないのだろう。一目してわかってしまった。
地面に足を滑らせ、動きを止めた。
「……不器用な奴。」
「貴方だから仕方がない。」
なんて言い訳をされてしまい。
すかさず振り向き、おでこにデコピンする。意外にも痛かったのか、クロスはおでこを抑えた。
「気障ったらしい事を言うな。」
ぼかすように言葉を吐き捨てる。しかし彼は気づくことなく、生返事をした。
かと思えば、穏やかな音色が聞こえ始めた。
ぎこちなさの中に、どこか優しさが包まれているような感じがする。
それに気づいてしまうなんて、きっと俺は彼の言葉に捕らわれてしまったのだろう。あるいわ、彼自身に。
こうもどうしようもない情に浸ってしまようになってしまったのは、いつからだろうか。
思い返してみるが、わからなかった。嗚呼、俺はもう手遅れなのかもしれない。
彼に全てを許しているのだと、改めてわかってしまったから。
なんて考えを傍らに、ふと、靴が目に入った。
ブランコの振動に続き、足元も揺れていた。揺れる足元を見て、悪戯心が走る。
実行せずにはいられなかった。
わざと靴を脱ぎ、そのまま落とさないよう、ましてや気づかれぬようにとかかとを踏む。
ブランコは未だ揺れている。
タイミングを見計らい、ブランコが後方に揺れた瞬間に狙いを定めた。
そして、いざ足を振りあげようとした時。
ブランコが止まった。
詳しく言うと、止められた。
己を抱き止めるその右腕に。
予想通りの反応に、笑みが隠しきれない。
そのままクロスを見やった。しかし、至近距離に映し出されるクロスの表情は、予想とは違うものであり。
「……好きです。」
耳元で真っ直ぐな愛を囁かれる。
まるで、絵画のようにはならないでとでも言うかのように。
隠しきれない不安は、負の感情のガーディアンの俺の前では露骨であった。
その姿が随分と滑稽に見えて、思わずふっと吹いてしまう。
筋違いな最悪の事態を想定して、怖がっているクロスは実に愉快だ。
クロスはそんな俺を見てキョトンとした。
余程俺が笑ったことは珍しかったのだろうか。それとも、何故俺が笑うのかがわからなかったのだろうか。
返事の代わりにキスを落とす。
すぐに離れ、彼の不安を一蹴した。
「俺にはお前しかいない。」
俺からすれば、言わずと知れた言葉のつもりであった。
しかし、クロスはその言葉を耳にすると、頬を緩ませてキスを返した。
「……愛している。」
溢れる程の愛が、重く軋んだ。
愛に返事をするかの如く、頬に左手を添えられた。
今宵の冬夜はきっと長い。