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テラーノベル(Teller Novel)

混乱しつつも頭を整理した私は ようやく “結論” に達した。

マキリ

…つまり

マキリ

昨日の
『剣と魔法の
ファンタジー』
な “夢” は

マキリ

全部 “現実”
だったの?

正直、意味がわからない。

なんで私が異世界に? 科学的にありえるわけ?

だけど状況からして どう考えても、 ここは “現実”。

マキリ

――ってことは

マキリ

お仕事を紹介して
もらったのも
“現実”ってわけか…

マキリ

…あれ?

マキリ

そういや昨日

マキリ

「さっそく
明日の朝9時から
よろしくね」

マキリ

とか言われた
ような――

――瞬間、 気づいてしまった。

壁の時計の針が まもなく8:40 を指すことに――

マキリ

やばっ!!
遅刻しちゃうッ!!!

私は慌てて準備し、 家を飛び出したのだった。

『赤の石窯亭』

どうにか遅刻をまぬがれた私の 新たな職場は、飲食店。

案内されたキッチンには 「巨大な赤レンガ製の石窯」が 置かれていた。

マキリ

わっ、
立派な石窯…!

石窯亭店長(奥さん)

だろ?
コイツが店名の
由来なのさ!

自慢げに胸を張るこの女性は  オーナー兼店長夫婦の奥さんだ。

お店は、昼と夜の二部制で、

昼の『食堂』を奥さん店長が 夜の『酒場』を旦那さん店長が 仕切ってるんだって。

――正直なところ、

飲食店で働くってのは “不安” しかない。

高1のときの人生初バイトが ファミレスだったけど、

いい思い出が無いのよね…

…私、これから 大丈夫かなぁ…――

そんな私の不安をよそに。

 勤務初日の店内は、 大歓迎のお祭り騒ぎ と化していた。

石窯亭店長(奥さん)

――それじゃ!

石窯亭店長(奥さん)

マキリちゃんが
うちに来てくれた
ことを記念しッ――

客&店員のみなさん

「「かんぱ~いッ!」」

  客も店員も全員揃って乾杯し、

“店長おごりの1杯” を グビッグビッと飲み干していく。

…ただし 全員ジュース。

石窯亭は、昼に お酒を提供してないんだって。

マキリ

あ…

マキリ

おいしい!

大量の不揃いな柑橘系果物を 豪快に絞ったジュースは 清々しい香りに充ちていた。

味は甘さ控えめのオレンジで、 ほんのり苦みがアクセント。

後味さっぱりで 料理にもよく合いそうだね!

石窯亭店長(奥さん)

ねぇ
マキリちゃん!

石窯亭店長(奥さん)

この『カスタードソース』
ってのは凄いねぇ!

石窯亭店長(奥さん)

ちょっとかけただけで
果物がこんなに
美味くなっちまうのかい!

大きなスプーンと お皿を抱えて 興奮気味の店長。

皿に山盛りな『木苺』に とろりとかかっているのは

さっき試作した 『カスタードソース』。

店長いわく “試食” らしいけど、 その割に量が多すぎない…?

石窯亭店長(奥さん)

ほら! 木苺は
エイバスの街の
特産だろ?

石窯亭店長(奥さん)

だから
凄く安くは
買えるんだけど

石窯亭店長(奥さん)

甘くないし、そのまま
食べても味気ないから

石窯亭店長(奥さん)

デザートにするのは
諦めてたのに――

石窯亭店長(奥さん)

こんな最高に
仕上がるなんてねっ!

マキリ

喜んでいただけて
良かったです…!

褒められすぎて、 照れくさいやら 恥ずかしいやら…

店長の言う通り、 エイバスの木苺に甘味は少ない。

ただし香りと酸味が強いから、 甘味を足すと良さそうだなぁと。

だから試しに 「甘めに作ったカスタードソース」 をかけてみた。

 これなら牛乳・卵・砂糖だけで すぐ簡単に作れるし、 予算面でも優しいよね!

マキリ

ちなみに
カスタードソースは

マキリ

果物と一緒に
パンケーキやタルトとかに
かけるのもオススメですよ

マキリ

とろっと食感と
果物の酸味が
スイーツを
グレードアップ
するんです…!

石窯亭店長(奥さん)

やだァ
美味しそう…!

石窯亭店長(奥さん)

今度お店で
出してもらっても
いいかい?

マキリ

もちろんです!

石窯亭店長(奥さん)

おぉっ
楽しみだねぇ!

石窯亭店長(奥さん)

じゃそのぶん
お給料に “特別手当”
のせとくよ!

満面の笑みを浮かべる店長は、 たっぷりソースまで1滴残さず 山盛り木苺を完食したのだった。

こんなに喜ばれて 特別手当までもらえるとか…

…もしかしてこの店、

私の天職なのかも??

――実は昨日、 石窯亭に初めて来たとき

金髪の男

マキリはね、
たまたま会った
“異国の菓子職人”だよ!

と紹介されていた。

その理由として、彼は

金髪の男

石窯亭は昼時のデザート
メニューのマンネリ化
に悩んでるから

金髪の男

菓子職人だと
紹介すれば、絶対に
雇ってくれるはずさ!

と語っていた。

その時は「夢の中の出来事だから」 と気にも止めなかったけど――

起きて、ここが現実だと 気付いてから、

すっごく心配に なったんだ。

私のお菓子作りは あくまで趣味レベル。

“菓子職人” なんて 恐れ多すぎて。

そりゃ祖母ちゃんは 「おいしいねぇ!」って笑顔で 食べてくれてたけど、

“私が孫だから” って 可能性もあるよね?

祖母ちゃん、私のこと すごく可愛がってくれてたからさ…

だから店長に喜んでもらえた時、

単純な嬉しさよりも、 ホッと安心する気持ちが強かった。

――…もし仮に、店長が 味を気に入らなければ

せっかく決まった職場から 放り出されてたかも しれない。

そしたら今後の生活が 金銭的に不安定になってたうえ

紹介してくれた彼らの顔を 潰してしまったんじゃないかな…

  彼らは魔物から 私を助けてくれただけでも 命の恩人なのに、

仕事に家に、 当面の生活費まで 面倒を見てくれた。

 今後、彼らに 「この恩を返せるか」どころか 「また会えるか」すら分からない…

…だけど 恩を仇で返すことだけは したくない。

店長の期待に応えられたことで、

私はようやく

小さな小さな1歩目を

踏み出せたような 気がしたんだ。

――16時、 初日勤務が終了。

 ちょっと早いけどシャワーを浴び、 どさっとベッドに倒れ込む。

マキリ

うわぁ、
外がまだ明るい

マキリ

時間通り帰れる
職場って
実在してたんだ…

勤めてたWeb制作会社では、 日が沈んでからの帰宅が当たり前。

常に仕事に追われてて サービス残業がデフォルト仕様。

納期直前ともなれば 終電退社も日常茶飯事。

マキリ

思えば
超ブラック
だったよ…

マキリ

…それでも何とか
耐えられてたのは

マキリ

やっぱ“先輩”の
おかげだな!

我が社はいつも人が足りなくて、 なのに仕事は次から次へ湧いてきて。

そんな職場を支えていたのが “先輩” だったんだ!

先輩はトラブルのたび 「ちょっと整理しよう」 と声をかけ、

慌てる私達を落ち着かせては 的確な指示で事を収めてくれた。

サイト制作やSEOの基礎… ミスの対処方法… 効率化や時短のコツ…

優しく「仕事の基礎」を 教えてくれたのも、彼女だった。

マキリ

先輩たち、今頃
ちょっと大変
かもなぁ…

Web業界は人の入れ替わりが 恐ろしく早いし、

私が消えても 会社は回る――

――それは、この5年で 嫌ってほど理解したつもり。

今回の私は引継ぎもしないで 急に行方不明になったけど

先輩たちなら、たぶん最終的に どうにかできるとは思う。

とはいえ、迷惑をかけるのは 確かだよね…

マキリ

…そりゃ不可抗力
だったとはいえ

マキリ

先輩、それに
会社のみんな…

マキリ

急にいなくなって、
ほんとにごめんね

マキリ

――それと

マキリ

やっぱ祖母ちゃん、
心配するよなぁ…

パリッと着こなす和服が トレードマークの 祖母ちゃんは

「お菓子作り」が 得意だった。

だから祖母ちゃん大好きな私も 自然とお菓子を作り始めた。

最初はクッキーの型抜きから。 見よう見まねで少しずつ覚えた。

私と祖母ちゃんとの 思い出は、

バニラやフルーツや 焼きたて菓子の 甘い香りでいっぱいだ。

マキリ

そういや最近、
祖母ちゃんに
会えてないかも…

5年前、就職した私が 遠くで1人暮らしを始めてからは

仕事が忙しすぎたこともあって、 数えるほどしか会えてない。

マキリ

それがまさか
異世界に飛ばされちゃう
なんて…

マキリ

…こんなことに
なるんだったら

マキリ

無理してでも、
もっと帰省
しとくんだった…

…やばい。

なんか…

ちょっと…

泣きそう、かも…

……

…………

マキリ

――あっ!

マキリ

『婚カツ兄貴』最終回、
配信昨日だった!

思わずベッドから 飛び起きる。

今期いちおしの アニメ 『婚カツ兄貴』。

主人公は、 年の離れた2人兄妹。

 突然両親が行方不明になって、 高校を中退した『兄貴』は トンカツ屋に就職し 『幼い妹』を育て始めた――

――それから10年。

高校生になった妹が “自分のために青春を捨てた兄貴” に彼女を作らせようとするけど、

兄貴は 「お前の大学卒業までは無理」 の一点張り。

そこへ現れたのは、 妙にフレンドリーな 『イケメン幽霊』。

妹と意気投合して結託し、 兄貴の婚活を 進めていくはずが、

謎の組織に襲われた妹が 『特殊能力』に目覚め、 強大な敵に立ち向かっていく…

…というあらすじの 「異能力バトルコメディ」 なのである。

マキリ

登場人物がさ、
敵も味方も
良いキャラばっか
なんだよね~

マキリ

ストーリーも面白いし
テンポもいいし

マキリ

声優さんも
ゲストキャラ含め
ハマり役ばっかで
最高ッ!

マキリ

――たださぁ…

マキリ

兄貴のトンカツが
飯テロすぎて

マキリ

毎回おなか
減るんだよォ…
深夜なのにっッ

わかってるよ、 画面の向こう だって。

なのに毎回演出が 超絶“神”で

フワッ…サクッ… ジュワァ…

と揚げ物の匂い&衣の歯ざわり &あふれる肉汁の “幻覚” が 口の中に飛び込んでくるんだよ…

マキリ

キャラも背景も全編
作画が超絶良いんだけど

マキリ

毎回1番の
神作画は『トンカツ』
って

マキリ

力の入れ方
おかしくない??

マキリ

キャッチフレーズは
一応「婚活×トンカツ
×異能力バトル?!」
のはずなのに

マキリ

トンカツ要素が
強すぎなんだよ

マキリ

まぁ、それも含めて
好きなんだけどッッ

マキリ

……あ

マキリ

そういえば昨日の2人組、
婚カツ兄貴の『幽霊』と
『兄貴』に似てたな…

彼らと “初対面” のはずなのに そんな気がしなかった。

むしろ懐かしささえ覚えたのは、 これが理由なのかも?

マキリ

――それより
最終回ッ!!

マキリ

やっぱこういう時だからこそ
好きなアニメでも観て
気分転換しなきゃだよね

マキリ

え~っと、
スマホスマホ……

『婚カツ兄貴』は全12話。

先週の11話が良い所で終わったし 昨日は最終回最速配信&放送だから SNSは今頃ネタバレ祭りだろうな…

マキリ

今期アニメの中でも
勢いあったし

マキリ

最終回と同時に
サプライズ発表で

マキリ

「第2期 or
映画制作決定!!」

マキリ

――とか来ても
おかしくない勢い
なんだよねぇ♪

マキリ

あ~~

マキリ

ネタバレくらう前に
早く観たいのに

マキリ

なんでスマホが
見当たらないんだよっ

マキリ

……ん?

――ふと、 我に返る。

マキリ

ス マ ホ ?

嫌な胸騒ぎ。

マキリ

――まって

マキリ

ここは

“ 異 世 界 ”

だよね?

  ってことは、 つまり――

マキリ

ネット
繋がんねえ
よぉぉおォッ!!!

……そう。

この世界には インターネット が存在しない。

マキリ

ネットも
スマホも
無いんじゃ

マキリ

アニメの最終回配信
なんか観られるわけ
ないじゃん…

がっくりと 座り込んだ私は、

ただただ呆然と

明後日の方向を 見つめることしか できなかった。

黎明のスラピュータ~おやつ係と異世界幼女のスライムなインターネット構築計画

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