コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
混乱しつつも頭を整理した私は ようやく “結論” に達した。
マキリ
マキリ
マキリ
正直、意味がわからない。
なんで私が異世界に? 科学的にありえるわけ?
だけど状況からして どう考えても、 ここは “現実”。
マキリ
マキリ
マキリ
マキリ
マキリ
マキリ
――瞬間、 気づいてしまった。
壁の時計の針が まもなく8:40 を指すことに――
マキリ
私は慌てて準備し、 家を飛び出したのだった。
『赤の石窯亭』
どうにか遅刻をまぬがれた私の 新たな職場は、飲食店。
案内されたキッチンには 「巨大な赤レンガ製の石窯」が 置かれていた。
マキリ
石窯亭店長(奥さん)
自慢げに胸を張るこの女性は オーナー兼店長夫婦の奥さんだ。
お店は、昼と夜の二部制で、
昼の『食堂』を奥さん店長が 夜の『酒場』を旦那さん店長が 仕切ってるんだって。
――正直なところ、
飲食店で働くってのは “不安” しかない。
高1のときの人生初バイトが ファミレスだったけど、
いい思い出が無いのよね…
…私、これから 大丈夫かなぁ…――
そんな私の不安をよそに。
勤務初日の店内は、 大歓迎のお祭り騒ぎ と化していた。
石窯亭店長(奥さん)
石窯亭店長(奥さん)
客&店員のみなさん
客も店員も全員揃って乾杯し、
“店長おごりの1杯” を グビッグビッと飲み干していく。
…ただし 全員ジュース。
石窯亭は、昼に お酒を提供してないんだって。
マキリ
マキリ
大量の不揃いな柑橘系果物を 豪快に絞ったジュースは 清々しい香りに充ちていた。
味は甘さ控えめのオレンジで、 ほんのり苦みがアクセント。
後味さっぱりで 料理にもよく合いそうだね!
石窯亭店長(奥さん)
石窯亭店長(奥さん)
石窯亭店長(奥さん)
大きなスプーンと お皿を抱えて 興奮気味の店長。
皿に山盛りな『木苺』に とろりとかかっているのは
さっき試作した 『カスタードソース』。
店長いわく “試食” らしいけど、 その割に量が多すぎない…?
石窯亭店長(奥さん)
石窯亭店長(奥さん)
石窯亭店長(奥さん)
石窯亭店長(奥さん)
石窯亭店長(奥さん)
マキリ
褒められすぎて、 照れくさいやら 恥ずかしいやら…
店長の言う通り、 エイバスの木苺に甘味は少ない。
ただし香りと酸味が強いから、 甘味を足すと良さそうだなぁと。
だから試しに 「甘めに作ったカスタードソース」 をかけてみた。
これなら牛乳・卵・砂糖だけで すぐ簡単に作れるし、 予算面でも優しいよね!
マキリ
マキリ
マキリ
石窯亭店長(奥さん)
石窯亭店長(奥さん)
マキリ
石窯亭店長(奥さん)
石窯亭店長(奥さん)
満面の笑みを浮かべる店長は、 たっぷりソースまで1滴残さず 山盛り木苺を完食したのだった。
こんなに喜ばれて 特別手当までもらえるとか…
…もしかしてこの店、
私の天職なのかも??
――実は昨日、 石窯亭に初めて来たとき
金髪の男
と紹介されていた。
その理由として、彼は
金髪の男
金髪の男
と語っていた。
その時は「夢の中の出来事だから」 と気にも止めなかったけど――
起きて、ここが現実だと 気付いてから、
すっごく心配に なったんだ。
私のお菓子作りは あくまで趣味レベル。
“菓子職人” なんて 恐れ多すぎて。
そりゃ祖母ちゃんは 「おいしいねぇ!」って笑顔で 食べてくれてたけど、
“私が孫だから” って 可能性もあるよね?
祖母ちゃん、私のこと すごく可愛がってくれてたからさ…
だから店長に喜んでもらえた時、
単純な嬉しさよりも、 ホッと安心する気持ちが強かった。
――…もし仮に、店長が 味を気に入らなければ
せっかく決まった職場から 放り出されてたかも しれない。
そしたら今後の生活が 金銭的に不安定になってたうえ
紹介してくれた彼らの顔を 潰してしまったんじゃないかな…
彼らは魔物から 私を助けてくれただけでも 命の恩人なのに、
仕事に家に、 当面の生活費まで 面倒を見てくれた。
今後、彼らに 「この恩を返せるか」どころか 「また会えるか」すら分からない…
…だけど 恩を仇で返すことだけは したくない。
店長の期待に応えられたことで、
私はようやく
小さな小さな1歩目を
踏み出せたような 気がしたんだ。
――16時、 初日勤務が終了。
ちょっと早いけどシャワーを浴び、 どさっとベッドに倒れ込む。
マキリ
マキリ
勤めてたWeb制作会社では、 日が沈んでからの帰宅が当たり前。
常に仕事に追われてて サービス残業がデフォルト仕様。
納期直前ともなれば 終電退社も日常茶飯事。
マキリ
マキリ
マキリ
我が社はいつも人が足りなくて、 なのに仕事は次から次へ湧いてきて。
そんな職場を支えていたのが “先輩” だったんだ!
先輩はトラブルのたび 「ちょっと整理しよう」 と声をかけ、
慌てる私達を落ち着かせては 的確な指示で事を収めてくれた。
サイト制作やSEOの基礎… ミスの対処方法… 効率化や時短のコツ…
優しく「仕事の基礎」を 教えてくれたのも、彼女だった。
マキリ
Web業界は人の入れ替わりが 恐ろしく早いし、
私が消えても 会社は回る――
――それは、この5年で 嫌ってほど理解したつもり。
今回の私は引継ぎもしないで 急に行方不明になったけど
先輩たちなら、たぶん最終的に どうにかできるとは思う。
とはいえ、迷惑をかけるのは 確かだよね…
マキリ
マキリ
マキリ
マキリ
マキリ
パリッと着こなす和服が トレードマークの 祖母ちゃんは
「お菓子作り」が 得意だった。
だから祖母ちゃん大好きな私も 自然とお菓子を作り始めた。
最初はクッキーの型抜きから。 見よう見まねで少しずつ覚えた。
私と祖母ちゃんとの 思い出は、
バニラやフルーツや 焼きたて菓子の 甘い香りでいっぱいだ。
マキリ
5年前、就職した私が 遠くで1人暮らしを始めてからは
仕事が忙しすぎたこともあって、 数えるほどしか会えてない。
マキリ
マキリ
マキリ
…やばい。
なんか…
ちょっと…
泣きそう、かも…
……
…………
マキリ
マキリ
思わずベッドから 飛び起きる。
今期いちおしの アニメ 『婚カツ兄貴』。
主人公は、 年の離れた2人兄妹。
突然両親が行方不明になって、 高校を中退した『兄貴』は トンカツ屋に就職し 『幼い妹』を育て始めた――
――それから10年。
高校生になった妹が “自分のために青春を捨てた兄貴” に彼女を作らせようとするけど、
兄貴は 「お前の大学卒業までは無理」 の一点張り。
そこへ現れたのは、 妙にフレンドリーな 『イケメン幽霊』。
妹と意気投合して結託し、 兄貴の婚活を 進めていくはずが、
謎の組織に襲われた妹が 『特殊能力』に目覚め、 強大な敵に立ち向かっていく…
…というあらすじの 「異能力バトルコメディ」 なのである。
マキリ
マキリ
マキリ
マキリ
マキリ
マキリ
わかってるよ、 画面の向こう だって。
なのに毎回演出が 超絶“神”で
フワッ…サクッ… ジュワァ…
と揚げ物の匂い&衣の歯ざわり &あふれる肉汁の “幻覚” が 口の中に飛び込んでくるんだよ…
マキリ
マキリ
マキリ
マキリ
マキリ
マキリ
マキリ
マキリ
彼らと “初対面” のはずなのに そんな気がしなかった。
むしろ懐かしささえ覚えたのは、 これが理由なのかも?
マキリ
マキリ
マキリ
『婚カツ兄貴』は全12話。
先週の11話が良い所で終わったし 昨日は最終回最速配信&放送だから SNSは今頃ネタバレ祭りだろうな…
マキリ
マキリ
マキリ
マキリ
マキリ
マキリ
マキリ
マキリ
――ふと、 我に返る。
マキリ
嫌な胸騒ぎ。
マキリ
マキリ
ってことは、 つまり――
マキリ
……そう。
この世界には インターネット が存在しない。
マキリ
マキリ
がっくりと 座り込んだ私は、
ただただ呆然と
明後日の方向を 見つめることしか できなかった。