主
らっだぁ目線
俺は勢い良く美術室を 飛び出し、そのまま ひたすらに走った 廊下を走り、階段を 飛び降りるように下って また走る
蝉の声は大きくなる ばかりだった まるで耳元で鳴かれている かのように、頭の中で 響いて、轟いた 煩いなぁ、少し
ついに誰にも見えなくなった 俺のこの姿は誰の目にも 映らなくなったんだ ……ぺいんとにも
俺の役目は終わったんだ
……やった
やった、やった、やった!
聞いたかぺいんとの 言葉を!
心の底から幸せだって
俺が何年も、いや 何百年も望んでいたことだ
ぺいんとが幸せになること 心の底から幸せと思わせること
俺はそれを成し遂げたんだ
だから、ぺいんとは 俺の姿を捉えなくなったんだ
こんなに嬉しいことがあるか!
こんなに、こんなに 嬉しいことが……
???
誰にも見えなくなったはずの 俺の腕を、誰かが掴んだ
幽霊のような白い肌に 綺麗な緑色の目
緑色
緑色目線
らっだぁ
俺を見て驚いている らっだぁさんの顔は元の色より 更に青ざめていた 一か八かで伸ばした腕は らっだぁさんの冷たい冷たい 腕を掴むことが出来た
この世のものではない (と俺は推測する) らっだぁさんさんの腕を 生きている俺が掴めることが 出来たと言うことは 彼は余程の強い思いがあり この世界にとどまっているのだ
それを俺が知ることは出来ない 彼が口を割らない限り でも、ぺいんとさんが 何か関わっていることは 容易に想像出来た
らっだぁ、さんは笑った 引きつった笑顔で
らっだぁ
らっだぁ
らっだぁさんはやや乱暴に 俺の手を振り払うと 距離を取り、そっぽを 向いた
緑色
らっだぁ
緑色
俺のその言葉で らっだぁさんの動きが止まる 彼は俺に触られた 左の手首をさすった
緑色
あれは事故 車に轢かれた あれ、トラックだっけ 正直、そこら辺は どうでもいいし 親も思い出したくないのか 詳しく話してくれない
とにかく、俺は幼い頃に 交通事故に合い死の淵を さまよったことは事実だ
緑色
らっだぁ
らっだぁ
優しいらっだぁさんの声 表情は見えない
緑色
ここは廊下のど真ん中 通りかかった1年の生徒が 不振な顔をしながら 去っていくのが見えた
それでも、構わず喋る
緑色
緑色
それだけ言って口を閉じる 俺はらっだぁさんの 返事を待つ
らっだぁ
らっだぁさんはそう言うと こちらを向いて笑った それから俺に軽く手を振り 風のように消えてしまった
俺は、広い廊下に 取り残される
役目を果たした
緑色
しにがみ
そう言った僕の言葉に 頼ましい彼の、親友の 返答はなかった
しにがみ
少し強めに呼びかけると ぺいんとさんは キョロキョロと辺りを 見回りながら言った
ぺいんと
え、と言いながら僕も 辺りを見回そうとしてやめる らっだぁさんの姿は ぺいんとさんにしか 見えないんだから
しにがみ
ぺいんと
心配そうに眉を下げる ぺいんとさん もう一度美術室を見回したあと 仕方なさそうにリュックを 背負った
しにがみ
ぺいんと
しにがみ
なんて自由なんだ、と 思ったが、思えば 昔からあの人はそうだったな
まぁ、でも……
しにがみ
ぺいんと
ぺいんとさんは 目を丸くしている きっと、僕がらっだぁさんの ことを親しげに語ったことに 驚いているんだろう
しにがみ
ぺいんと
ぺいんとさんは笑った 僕は、僕の罪はこの笑顔に 許されているんだ
とっぷり夕陽に浸かった 校舎に、最終下校時刻を 告げるチャイムが響き渡る
やばいやばい、と 僕たちは早歩きで校門を出た
ぺいんと
しにがみ
ぺいんと
僕は一瞬だけ歩みを止める 影は僕の倍くらいの長さに 伸びていた
しにがみ
ぺいんと
しにがみ
僕たちは再び歩き出す 7月、夕方 穏やかな帰り道だ
ぺいんと
伺うようにこっちを見る ぺいんとさん 多分、同じことを らっだぁさんにも 聞いたんだろう
らっだぁさんは前世のこと 多分話さなかったんだ きっと適当に はぐらかしたんだろうな あの人のことだもん
さて、どう答えようか
しにがみ
今まで規則正しく 聞こえてた足音が止まった 振り返ると、ぺいんとさんは 目を見開いていた
しまった、答えを 間違えたか
ぺいんと
彼は小さく呟いて 走り出した
主
主
主
主
主
主
主
主
主
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