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『明日、世界は滅びます』
昼食が終わった午前1時。
テレビから聞こえたのは、そんな 内容だった
淡々とした声のニュースキャスター の目に悲しみが見えた
そうか、明日世界は終わるのか
ということは、僕は今日までしか 生きられないのか
不思議だ
悲しみも後悔も浮かばない
世界が終わるなら、僕だけでなく 人類が全員が死ぬのだ
親を早くに亡くし、恋人も友人も いない
亡くなって僕が悲しむ人間は、生憎 僕の近くにはいなかった
どうせひとりなんだから
世界が明日終わろうが、僕には 関係のないことだった。
とりあえず外に出てみた
予想通り、誰かの泣いたり叫んだり する声が響く
僕はそんな人々の間を縫って、 街に出た
今日はよく晴れている
明日隕石が降ってくるとは 思えない空だった
やはり街も人々でごった返している
どこかに電話をかける人
家族や恋人と抱きしめ合う人
涙を流してうずくまる人
だけどそんな人々を見ても、僕には 他人事にしか見えなかった
ふと思った
どうせ世界が終わるなら
何をしてもいいんじゃないか?
例えば、そう
人を殺したりだとか。
ホームセンターでナイフを買った
よく切れそうだ
ターゲットはもう決めている
高校に来た
彼はここに教育実習生として 来ている
今日もきっと仕事をしてるはずだ
僕をいじめていた彼は、そんなこと とっくに忘れてるだろう
けど、僕は
被害者の僕は、忘れていなかった
ひとつの教室に彼はいた
今日で終わりか、と彼が呟いた
こちらに背を向けている
足音を殺して近づいた
彼は気づかない
僕は、彼の背中に向かってナイフを 振り下ろした。
道を走っていく
幸い服は汚れなかった
ナイフはその場に置いてきた
どうせ世界は終わるのだ
僕らごとその指紋がついた凶器も 消える
人にぶつかった
それに気づかないで、僕は 無我夢中で走った
血の匂いを思い出す
全身に駆け巡った高揚感
怖くはなかった
むしろ、楽しかった
どうせ世界は終わるのだ
人ひとり殺したところで変わらない
顔全体に笑みを浮かべて、僕は 走っていった。
ベッドに入る
全力で走ったせいか、とても 疲れていた
これで僕は死ぬ
未練も何もない
彼を殺せたならそれでいい
さよなら世界、おやすみ僕
微笑んで、僕は眠りについた。
朝になった
僕は生きていた。
「隕石は軌道を逸れました」
「世界は滅びません」
弾んだ声のニュースキャスター
僕は、呆然としてそれを見ていた
世界は滅びない?
どうして
どうして今更、それを言うんだ?
全身から汗が噴き出す
僕は昨日、何をした?
僕は昨日、何をした?
僕は昨日、何をした?
僕は___
僕は昨日、人を殺した。
ぶつり、とテレビの電源を切る
画面が暗転した
代わりに、怯えた顔の僕が映る
取り返しのつかないことを してしまった
どうせ世界は滅ぶからと
どうせ人類は死ぬのだからと
人ひとり殺したところで、変わらない からと
凶器は置いてきてしまった
凶器には指紋がついている
僕の指紋がついている
呼吸が荒くなるのを感じた
その時__
玄関のチャイムが鳴り響いた。