テラーノベルの小説コンテスト第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで

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一話完結

第17話 - おかわりさん

2020年04月29日

#恋愛

#ホラー

#短編

紅茶

俺が住む茜谷市には、ある噂がある

『おかわりさん』

それが彼女(もしくは彼)の名前だ

もうずっと前からある噂

正直、会ったことがないからよくわからない

よくわからないけど＿＿

存在してはいるんだろうな、なんて思ったりする

都市伝説なんてそんなものだ

…だからこそ、無性に会いたくなってしまったのかもしれない。

蓮夏高校　2年A組の教室にて

《キーンコーンカーンコーン》

女子生徒

ほんとだってば！

女子生徒

あたし、会ったの

女子生徒

『おかわりさん』に！

拓海

…！

女子生徒

えー、マジィ？

女子生徒

どんなだった？

女子生徒

えっとね…

女子生徒

………

女子生徒

あれ？

女子生徒

ごめん…忘れちゃった

女子生徒

なんだ、嘘なんじゃん

女子生徒

嘘じゃないよ、ほんとに…

女子生徒

『おかわりさん』に会ったの！

拓海

………

拓海

なあ、その話

女子生徒

…え？

拓海

詳しく聞かせてくれるかな？

放課後

店員

こちらお冷やです

拓海

あ、どうも

店員

ご注文お決まりになられましたら、お伺いします

店員

ごゆっくりどうぞ

拓海

はーい

女子生徒

………

拓海

神崎さん、だっけ

神崎

あ、うん

拓海

何か頼む？

神崎

大丈夫

拓海

そうか

神崎

…ねえ

拓海

ん？

神崎

高梨くん、だよね

神崎

高梨拓海くん…

拓海

そうだけど

拓海

覚えてないの？

神崎

うん

神崎

あんまり話さないし

拓海

まあ…そうか

神崎

それで、聞きたいことって

神崎

ひょっとして…

神崎

『おかわりさん』のこと？

拓海

ひょっとしなくてもそう

神崎

なんでそんなこと知りたいの…？

拓海

なんでって、そりゃ…

？

拓海！

拓海

…お、来た

神崎

？

拓海

遅いぞ、和義

和義

わり、

和義

先生に呼ばれてた

和義

…あれ？

拓海

なんだ？

和義

拓海、この子

拓海

ああ

拓海

俺と同じクラスの神崎さん

拓海

『おかわりさん』を見たっていう

和義

マジかよ

拓海

マジだよ

和義

なるほど…

和義

『おかわりさん』なのか

神崎

？

和義

…よろしくな

神崎

あ、はい

神崎

よろしくお願いします

神崎

………

《ピンポーン》

店員

はーい

拓海

すみません、水もう一杯もらっていいですか

店員

かしこまりました

店員

どうぞー

拓海

ありがとうございます

拓海

…さて、と

拓海

早速聞きたいんだけど

拓海

『おかわりさん』について

神崎

………

神崎

ねえ、その前に

神崎

この人…

和義

ん、俺？

拓海

ああ

拓海

これは尾上和義

和義

これって言うなよ

拓海

俺の親友だよ

和義

聞いてる？

和義

…まあ、ガキの頃から一緒で、小中高も全部一緒でさ

和義

俺がいなきゃ危ないんだ、こいつは

神崎

そうなんだ…

《ピンポーン》

店員

はーい

店員

ご注文お決まりですかー

和義

アイスコーヒーいいっすか？

店員

はい、コーヒーがおひとつ

拓海

あ、俺も同じやつお願いします

店員

ではおふたつですね

拓海

神崎さんは？

神崎

え、あたしは…

神崎

………

神崎

オレンジジュースがいいな

店員

はい、オレンジジュースがおひとつ

店員

ご注文は以上でよろしいですか？

拓海

はい

店員

では、少々お待ちください

拓海

ありがとうございます

拓海

…さて、

拓海

話戻すけど

神崎

あ、うん

拓海

どこでどんな風に、『それ』に会ったのか…

拓海

神崎さん、話してくれる？

神崎

………

神崎

わかった

あの日は丁度、急な補習があって…

家に帰るのはもう7時前になってた

あたし、電車通学なんだけどね

その日だけは定期券を忘れたの

だから、歩いて帰ることにした

今思えば、切符を買えばよかったんだろうけど…。

それで、いつも通りの道を通って帰っていたの

外灯は間隔をあけて置かれていたから、結構暗くて…

だから、目の前に立つ人に気付けなかったんだ

びっくりしたよ、もちろん

だから思わず立ち止まって『どうかしましたか』って聞いた

そしたら…その人は

………

…………

……………

拓海

その人は？

神崎

………

神崎

ごめん

神崎

あたし、覚えてないの

和義

覚えてないって…

和義

昨日のことだろ

神崎

うん…でも

神崎

よくわからないけど、ぼんやりしてて

拓海

ふうん…

拓海

やっぱりみんな、見た目まではわからないんだな

神崎

ごめんなさ…

神崎

え？

神崎

みんなって、

拓海

ああ

拓海

実は、ずっと調べてたんだ

《カタッ》

神崎

ノート？

拓海

そう

和義

相変わらず癖強い字してんな

拓海

うるさいよ和義

店員

お待たせいたしました

店員

こちら、アイスコーヒーとオレンジジュースです

拓海

ありがとうございます

店員

オレンジはどなたでしょう

神崎

あたしです

店員

引き続き、ご注文ありましたらお呼びくださいね

拓海

はーい

拓海

……さてと、

拓海

…まず、これは今年6月に3年の先輩から聞いた話

拓海

この先輩は部活中に『おかわりさん』に会ったんだ

拓海

なのに、彼は…

和義

わからない…

和義

つまり、覚えていなかったのか

拓海

そう

拓海

それと、こっち

拓海

こっちは夏休み前に1年生の子に聞いた話

拓海

彼女は美術室へと行く途中、『おかわりさん』に出会っている

拓海

しかし、彼女も…

和義

覚えてないのかよ…

拓海

そう

拓海

他にも他校、商店街…

拓海

色んな人に目撃談を聞いたけど、みんな…

拓海

『おかわりさん』がどんな見た目だったのか、覚えていないんだ

神崎

そんな…

拓海

…というか、和義

拓海

俺、何回もこのノート見せてるんだけど？

拓海

ちゃんと覚えておけよ

？

悪い悪い

？

何度も見てめんどくさくてさ

拓海

…まったく

神崎

ね、ねえ

神崎

じゃあ、あたしが覚えてないのって…

神崎

『おかわりさん』は…

拓海

うん

拓海

『おかわりさん』は、不明瞭なんだ

神崎

不明瞭？

拓海

そう、不明瞭

和義

つまりどういうことだ？

拓海

………だからあ

拓海

みんな『おかわりさん』の姿を覚えてないんだよ

和義

うん

拓海

『おかわりさん』は決まった姿を持たないんだ

拓海

わかったか？

和義

あーうん、つまりアレか

和義

『おかわりさん』の姿は見えにくいってこと？

拓海

そんな感じ

神崎

でも、

神崎

この2人『人がいた』って言ってるんでしょ

神崎

他の人たちも、『人』って証言してる

神崎

あたしだって、人がいたのは覚えてるよ

神崎

ちゃんと見えてるじゃん

和義

あ、たしかに

和義

だったら、『おかわりさん』は人型なんじゃね？

和義

形あるだろ

拓海

うーん…

拓海

そこなんだよな、そこだけ俺もわからない

拓海

どうして人だとわかったのに、覚えていないのか？

拓海

そこが一番重要だと思う

和義

へえ…

拓海

あと、この部分

神崎

この文が何？

拓海

どちらも外に『おかわりさん』はいた

拓海

彼の時はテニスコートの外に

拓海

彼女の時は移動中、窓の外に

拓海

そして他にも、外

拓海

『おかわりさん』は屋外でしか会えないんじゃないかな

神崎

なら、外に行かないと

拓海

うん

和義

………

拓海

だから、和義

和義

嫌だ

拓海

和義

嫌だ！

和義

お前はどれだけ危ないことすりゃ気が済むんだ

拓海

そう言わずにさあ

神崎

危ないこと？

拓海

あ、うん

拓海

実際に会ってみようかなーって

神崎

ええ！？

和義

おかしいだろ！

和義

わざわざ好き好んで都市伝説に会いに行くとか…

拓海

今までだってそうしてきた

和義

だからってなあ…

拓海

ってか、なんで今日に限ってそんなに怒るんだよ

和義

それは…

神崎

ね、ねえ！

和義

あ？

神崎

あたしも…高梨くんの言う通りにしてみたい

神崎

会ってみたい、『おかわりさん』に

神崎

もう一度、確かめたいの

拓海

ほら

拓海

神崎さんもこう言ってるんだし

拓海

行くよな？和義

和義

………

和義

わかった

和義

ただし、危ないことはすんなよ

拓海

わかってるって！

午後6時55分

拓海

よーし

拓海

和義、懐中電灯持ってきた？

和義

…おう

拓海

神崎さんは

神崎

一応は

拓海

よしオッケー

拓海

昨日『おかわりさん』に合ったのは、この通りで合ってる？

神崎

うん

神崎

私、いつもここだから

神崎

このもう少し先に家があるの

拓海

そっか

拓海

で、7時まであと5分

拓海

もう少しで条件が揃うよ

和義

…拓海

拓海

ん？

和義

ちょっと来い

拓海

え、なんでだよ

和義

いいから来い！

神崎

…どうしたの？

拓海

あ、ごめん

拓海

ちょっと待ってて

神崎

え…うん

神崎

………

拓海

おまたせ

神崎

あ、うん

神崎

何話してたの？

拓海

あー、その…

和義

明日の天気

拓海

うん、それそれ

神崎

ふーん…

神崎

晴れるといいね

拓海

ああ

和義

………

和義

また親父に怒られるな…

神崎

？

拓海

まあまあ

拓海

…気を取り直して、

拓海

『おかわりさん』を見よう

拓海

もう少しだから…

午後7時30分

神崎

来ないね、『おかわりさん』

拓海

うん

神崎

場所が違うのかもよ

神崎

いつも同じところに出るんじゃないでしょ？

拓海

うん

神崎

高梨くん、尾上くん

神崎

もう今日は諦めない？

神崎

ここで待ってても無駄だし

拓海

………

和義

………

神崎

きっとまた会いに行けるよ

神崎

ね、だから…

神崎

帰ろう

拓海

神崎さん

神崎

え？

拓海

もういいよ

拓海

もう…

拓海

これ以上、神崎千里を使わないでくれ

神崎

……

神崎

何言ってるの？

神崎

何か変だよ…

和義

変なのはお前だろ？

神崎

…は？

和義

だから、お前が変なんだ

神崎

何言って…

拓海

和義の言う通りだよ

拓海

今日カフェで話した君と、今の君

拓海

性格が変わっている

神崎

何それ

神崎

私は元からこの性格だよ

拓海

それ！

神崎

え？

拓海

『私』

拓海

君の一人称、たしか…

拓海

『あたし』じゃなかった？

神崎

………

拓海

それから、これは和義が言っていたこと

神崎

…何

拓海

君…いや、君の『体』は

拓海

蓮夏高校の生徒、神崎千里さんのものだ

拓海

でも、『中身』は違う

拓海

…和義

和義

おう

和義

あのさ、お前の…

神崎

お前って言わないでよ

和義

！

拓海

………

神崎

なんなのさっきから

神崎

私は神崎よ

神崎

尾上くん、私のことちゃんと呼んでないよね

和義

呼べるわけねぇだろ！！

和義

呼べるわけがない、だって

和義

お前は、神崎千里じゃない

和義

お前＿＿

和義

何が入ってるんだ

神崎

………

拓海

和義は気付いてたよ

拓海

君が…君の『中身』が、人じゃないって

拓海

君に会った時からね

和義

いい加減下手な芝居はやめろ

和義

その子は抵抗してた、今までずっと

和義

なのにさっきからお前の気配しかない

和義

お前＿＿その子に『成り代わる』つもりだろ！！

拓海

…さて

拓海

もう隠しても無駄だよね

拓海

神崎さん＿＿いや

拓海

『おかわりさん』

神崎

………っ、

ふ、あは

そうだよ

私がこの子をもらったの

拓海

そうか

驚かないの？

拓海

うん

拓海

そんなところかなって思ってた

ふうん

拓海

貴方はいつまで、その子に成り代わる気なのかな

わかんない

いつかなぁ…？

和義

てめぇ…！

拓海

和義！

拓海

もう少し我慢しろ

和義

……チッ

拓海

で、

拓海

『おかわりさん』…貴方のことだけど

何？

拓海

貴方を見た人は、その姿を覚えていられない

拓海

それは貴方がその人に、成り代わったあとだったから

拓海

貴方はそれを気付かせないため、記憶を消した

拓海

そうだろ？

んふふ、まーね

合ってるよ

拓海

それはよかった

拓海

それと…

拓海

どうしてみんな貴方を『人』だと認識したのか

拓海

…貴方が成り代わっていたからだ

拓海

会うたび、貴方はその人に乗り移った

拓海

つまり、人間にしか成り代わらないんだ

すごーい、合ってる

頭いいね高梨くん

拓海

ありがとう

拓海

でも…

拓海

神崎さんは失敗したんだね

！

和義

お前が成り代わりを終える前に、拓海が声をかけたんだ

和義

珍しいと思ったんだよ

和義

こいつが数日も経たないうちに目撃者を連れてくるなんてさ

和義

だから、急いで忘れさせたんだろ

和義

でも、あの子はお前を拒もうとした

和義

違うか？

………

合ってるよ

拓海

貴方はただの都市伝説だ

拓海

貴方が存在する理由も、都市伝説だからで説明がつく

拓海

誰が流したかはわからないからね

拓海

けど…

？

拓海

その子や他の人に害を及ぼすなら、こっちも考えがある

拓海

和義

拓海

消していいよ。

和義

ああ

…何する気？

拓海

アレは持ってきてるよね？

和義

持ってきてる

和義

あー、母さんにも怒られそうだわ

拓海

その時はその時だよ

和義

そうだな

何よそれ

何持ってるの、

あんた＿＿ただの人間じゃないでしょう！

拓海

今更気付くの？

和義

『おかわりさん』は随分と鈍いんだな

和義

…さあ

和義

とっとと去れ、この化け物！

そう叫んで＿＿

《ドン！！》

………っ！

彼女はその場に蹲った

あ……ぐぅ！？

何…なんなの

札……！？

拓海

ごめん、言い忘れてたね

拓海

和義の家

拓海

拝み屋なんだよ

おが、みや…

拓海

簡単に言えば陰陽師だね

和義

つってもほぼ副業だけどな

和義

ただのサラリーマンと主婦だよ、親父も母さんも

和義

まあ…こいつを守れるくらいの力は持ってるけど

和義

無茶しやがって、毎回

拓海

あはは

っ、

私はまだこの町に

和義

なんか言ったか？

ごきん、と音が鳴った

ぁ"がっ！！

彼女の『中身』が悲鳴をあげる

拓海

そろそろその辺でいいんじゃないか

拓海

彼女も苦しむことになる

和義

……だな

彼女に手をかざす

やだ、やだ

やめて！

消えたくない、私はまだ

誰かに＿＿！

その夜＿＿

住宅街に、若い女の悲鳴が轟いた。

翌日

女子生徒

ねー、千里

女子生徒

昨日の話だけどさー

神崎

昨日？

神崎

昨日ってなんの話？

女子生徒

…は？

女子生徒

何言って、

神崎

そういえばさ！

神崎

あたし、この前かわいい子猫見つけたんだよね

神崎

首輪ついてたけど

女子生徒

そ、そっか…

拓海

………

放課後

拓海

…やっぱり

拓海

神崎さん、覚えてなかったよ

拓海

『おかわりさん』に出会ったからかな？

和義

どうだろうな

和義

あー、いってぇ

拓海

背中？

和義

おう、2発な

和義

割と強めにひっ叩かれた

和義

勝手に持ち出したし、当たり前だろうけどよ

拓海

見たかったなぁそれ

和義

あ"？

拓海

なんでもない

和義

…ところで

和義

もうアレはいないんだよな

拓海

和義がやったんだから、戻ってこれないよ

拓海

もう『おかわりさん』の噂はなくなるんじゃないかな

和義

そうか

和義

まあ…

和義

ただの都市伝説だったってことになるのか

拓海

そうかもね

拓海

これもアレだな

拓海

俺と和義が解決したってことで

和義

そんな大袈裟な

和義

俺ら、ただの凡人だぞ

拓海

凡人は能力持たないよ

拓海

……ところで和義！

和義

嫌だ

拓海

和義

嫌だ！

拓海

うちの高校に七不思議があるんだけど、興味ない？

拓海

はいかイエスで答えてね

和義

選択肢の意味！！

それからしばらくして、『おかわりさん』の噂はなくなった

代わりに…

うちの高校に、ある噂が流れ始めた

それは…

『2人の男子生徒が、変わった噂を解決してくれる』

というものだった。

一話完結

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紅茶

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