俺達は、桜君がパフェを食べるまでの1ヶ月間、何事もないかの様に過ごした。 本当に今まで通り過ぎて、 自分の命のタイムリミットなんて忘れてしまいそうな程に。
小さな教室で、皆して笑って、 照れて、 怒って、 1番ボロが出そうだと思っていた桜君は、以外にも隠し事が上手いらしい。 彼は、肝心な部分を隠すのが滅法上手かった。
俺も気付かないほどに。
蘇枋
蘇枋
人が多くも少なくも無い 落ち着いた雰囲気のカフェで、 蘇枋は目を輝かせながらパフェを頬張る桜を、じっと見つめた。 自分はコーヒーだけ頼み、 少しずつ飲みこんでいる。
桜
返事をする桜の声は、 どこか明るくて、 今夜一緒に死んでしまうなんて思えない程だった。 スプーンを不格好に掴み、 次々パフェを口に詰め込んでいく。 食べるのに夢中なのか、 頬にクリームがついているのに、 それすら気にしている様子は無い。
桜
桜
蘇枋
言いかけた言葉を飲み込んで、 蘇枋は少し考える素振りをして見せた。 そんな小さな素振りでさえ、傍からみれば、とても美しく見えてしまうのは、彼の麗しい美貌の所為だろう。 流石は、容姿端麗のアルファと言ったところだ。
蘇枋
そう言い、急に伸びてきた腕に、あれほどガツガツとパフェを頬張っていた 桜は時が止まったかの様に、 動きを止めた。
桜が固まっている間に、 蘇枋は満足そうに、 ペロリと桜の頬に着いていたクリームを舐めて見せた。
桜の顔に、みるみる熱が集まってくるのを見ながら、蘇枋は北叟笑む。 最後のデートだ。 二人の時間を思う存分味わいたい。 距離も何もかも忘れてしまうくらいに。
桜
思わず声を荒らげて怒った様子の桜に、 ここお店だよ。と諭すと、 縮こまった様にパフェを貪り始めた。 本当に彼は可愛らしいなと、 蘇枋は桜の姿を眺め続ける。
最後に見るのは、 君がいいから。 だから色んな桜の姿も忘れない様に、固く目に焼き付けた。
蘇枋
桜
夜の海は、思ったよりも 風が強く、薄着で来た俺達にとったら、とても寒い物となった。 桜君がくしゃみを1つ零し、 その可愛さにクスリと小さく笑ってしまった。 今から人2人が飛び込む 事など知らない海は、 月の反射光が、ミラーボールの様にキラキラ浮かび上がっている。
蘇枋
今すぐにでも自分を置いて消えてしまいそうな程、儚げに笑う彼を少しでもつなぎ止めたくて、 こんな質問をしてしまった。 ここまで来てしまったのだから、後戻りは出来ないし、死ぬのは一緒にだ。 こんな質問した所で、意味など何一つなかった。
桜
桜
あぁ、彼は本当にかっこいい。 月明かりに照らされた彼の顔は、 眩しいくらいに綺麗で、 儚くて、 俺の心臓を一掴みするには十分すぎた。 海にどんどん浸かっていく彼を、追いかけ、俺も止めていた歩みを進めた。
腰くらいの高さまで海に浸かる。 あぁ。長かった様で短かった人生が、ここで終わる。愛しい人と一緒に。
悔いなんて何一つない。 彼と一緒に居られるのなら。
蘇枋
桜
用法量を超えた睡眠薬を、 2人して飲み込んだ。
蘇枋
桜
桜君に思い切り抱きついて、2人して海に沈みこんだ。 やっと君とくっつける。 やっと一緒にいられる。 ずっとずっと、手に入らなかったものがやっと手に入る。
海の中、酸素も何も無い中で、俺達は抱き合い、1つ触れるだけのキスをする。 ずっとずっと、 こうしたかったんだ、君と。
「桜君。俺はね君と一緒にいたい。」
最後に見た光は、月光が冷たく刺す海の中だった。
何かの声が聞こえる。 誰かが泣いているのか、 頬にぽつりぽつりと、暖かい物が落ちてきていた。
蘇枋
重い瞼を開けると、 目に入って来たのは、 白い天井と、二人の人間の顔だ。
楡井
楡井
楡井は、顔がベチャベチャになってしまう程、大粒の涙を流し泣いていた。 桐生は、どこか浮かない顔で、 俯きながらもこちらを見ている。
楡井
楡井の言葉を遮って、 蘇枋は必死に声を出す。 体が、泥沼にハマったかの様に重かった。
蘇枋
桐生
嫌な予感を感じ、普段汗など掻かない蘇枋の背筋に冷や汗がツゥっと流れた。 縋る思いで、桐生の袖を掴んだ。 どれだけ見渡しても彼の姿は無い。 桐生も楡井も、口1つ開かず、何も答えぬままだ。
蘇枋
蘇枋
蘇枋
蘇枋
言いずらそうな2人の顔に、 察してしまった。 あぁ、彼はもう、この世にはいないのだと。 本当に、一人で行ってしまったのだと。
蘇枋
目頭が熱い。 きっと俺は、泣いてしまったのだろう。 こんな泣き顔、誰にも見せたくなかったのに。
桐生
鳴き声が響き渡る病室で、 桐生が悔しそうに、 手に血が滲むかもしれない程に、固く、固く、拳を握りしめていた。
蘇枋
蘇枋
蘇枋
1番気が付きたかった彼の嘘に、 事が終わってから俺は気がついてしまった。 悔しくて、悲しくて、自分に対しての怒りも湧いてきて、 感情がぐちゃぐちゃで、
ただ、病室では、 俺達全員が声を荒らげて泣いた。
コメント
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今回も素敵なお話ありがとうございます🙇♀ 途中からなんとなくそんな予感はしていましたが、やはり分かっていても辛いものですね…、とても好きです💕 1ヶ月の間桜は一体何をしていたのでしょうか… 蘇枋くんの知らない間に色々していそうですね🫣 題名に込められた意味と伏線… 枠から外れているところの伏線が中々わかりません😵💫 次の話では何が明かされるのか… 続き楽しみにしてます✨
桜ぁ…逝かないでよ……涙 もしかしたら、というよりも本当に桜は蘇枋より嘘を付くのが上手かったんだね。そんな隠し方知らなくて良かったのに… 「蘇枋」という愛しくて大切な人に哀しくて辛い想いをさせてまで生きて欲しかったんだろうね…… なんか分かんないけど太宰治を思い出した気がするよ