夕日と海がきれいな場所があると。
それを聞いたときもう分かってた。
私と彼が初めて会った場所。
おしゃれなカフェが近くにあって
そこから見える景色が大好きだった。
私の前まで来て、
ガチャ、と音を立てて車の扉を開けてくれた。
冴
どーぞ、お姫様

その余裕の笑み、
性格は少し変わったけど
大人になっても変わらない優しい声、
紬
ふふっ、笑、どーも。

紬
私もすっかり大人になっちゃったね

冴
…だな

紬
冴も大人になってからすごく変わったよね〜

冴
まぁ、あのときの自分に比べたら

冴
今のが断然、紬のこと好きだからな

紬
そういうところは変わってないのね笑

紬
冴と付き合ってからそういう恥ずかしいこと

紬
ズバズバ言われて私の心臓持たなかったの覚えてる笑

冴
あの顔が一瞬でタコみてぇになっていくのは可愛かったけどな

紬
もうっ!笑

そうやって他愛のない話をして
あー、私今幸せだなって、
思ってた。
いきなり鈍い音が車内を揺らした。
なにかがぶつかった
その衝撃で私と冴は車から放り出された。
紬
ッッ、

紬
なに、今の、……

紬
……、!

紬
ッッッッ!!?

私の目に、衝撃的な光景が写りこんだ
その光景を理解するのに数分かかった
彼の頭部と腹部から赤い液体がダラダラと流れているのだ。
紬
ッッッ、

紬
いやッ、キャァァァァァッッ

仰向けになってピクリともせず
ただただ雨にうたれ、血を流している彼を見て
確認しなくても分かった。
ひどい、ひどすぎる。
12本の薔薇、
私はその意味をやっと理解した
なんで。
神様、私、なにか悪いことしましたか?
大好きな人にプロポーズされる直前に、
最大の幸せを目の前に、
彼を殺されなきゃいけないくらい悪いこと、
私、しましたか?
私は彼の隣にいれるだけでいいんです。
会社終わりに初めて会ったあの場所で、
あのときは、お互いの思いがすれ違ったりして
大変だったね、
それでも今はこうやって一緒にいれて良かったね、って。
2人で話して、休日には冴と私のあの家で
リビングでコーヒーなんか飲みながらくつろぐ。
それだけでいいんです。
それ以上はなにも求めません。
紬
う゛ッ、ぅぅ、

もう雨なのか涙なのかも分からない水が
私の頬を濡らす。
もっと彼と話をしておけばよかった、
もっと彼との時間を増やしておけばよかった、