じいちゃんのタイムマシーン

俺は約束を破った

約束を破って事故のことを母ちゃんに話してしまった

本当は話すつもりなんてなかったけど

母ちゃんは自分が死ぬんじゃないかと誤解していたから

どうしてもその誤解だけは解いておきたくて

母ちゃんは凄く驚いていたし

かなりショックを受けている様子だった

だから母ちゃんのために

俺のことを諦めてもらおうとした

そうすれば母ちゃんが助かると思った

でも母ちゃんは

俺のことを大切に思ってくれていた

それが何よりも嬉しくて

俺は何度も祈った

未来を変えてほしい

母ちゃんが事故に遭わずに幸せになれるように

やっと父ちゃんと結婚するんだ

父ちゃんからのプロポーズを受けて

母ちゃんは今が一番、幸せな時なんだから

神様……

いつものようにリモコンを装着してヘルメットを被る

ギュィィィィィィン！！

俺が飛んだのは2012年7月21日

母ちゃんの部屋にあった荷物がほとんどなくなっていて

唯一残っていた机の上に卓上のカレンダーが置かれていた

そのカレンダーをよく見ると

14日に丸い印と引っ越しの文字が記載されている

母ちゃんは父ちゃんと入籍して今の家に引っ越した

居間に飾ってあるいつくかの写真の中に

二人の晴れ姿を収めた写真があった

純白のドレスに身を包んだ母ちゃんと

グレーのタキシードを着た父ちゃんが写っている

高校の友達に頼んで撮ってもらった写真で

俺にとっても大切な写真だった

俺の知っている母ちゃんはいつも目を閉じて眠っていて

写真のように笑顔を見せることはなかったから

リモコンのスイッチを押した

ギュィィィィィィン！！

じいちゃんにそう聞かれて迷ったけど

タイムトラベルは意外と体力を消耗するため

体を休めるために家に戻ることにした

次からは母ちゃんの実家ではなく

この家に来ることになる

二人の幸せな姿を想像すると

それだけで幸せな気持ちになれる

そんな二人の間に生まれてくることができてよかった

そう思う反面

そんな気持ちも残っていて

この未来を変えることはできないかとずっと考えていた

近所の神社に何度もお参りをして

そうお願いしたこともあった

凄く原始的な方法かもしれないけど

そんな方法しか思い付かなかった

今だったらもっといい方法があるはず

そう思って何度も考えた

考えて考えて……

俺は一つの方法に辿り着いた

やっぱり"あれ"しかない

前にも一度、思ったことがある

でもその時はやっちゃいけないことだと自分に言い聞かせた

でももういい

今でもやっちゃいけないことだと思っている

それでも俺は母ちゃんを助けたいと思った

事故に遭う前に……

俺が母ちゃんを救う……