蛸の足音

…ん？いや、大丈夫だろ。たかだか人外の館を偵察するくらい。
それとも何か？ビビってんのか？

嫌だよ。死人に口なしなんだから物も食えねえだろ。

は？俺には酒持ってこいよ。

ひら、と手を振って、僕は
そのまま人外の館へと向かい足を運んでいった。

玄関の前で考え事をしていた僕に、ある1人の人外が玄関を開け、扉の前で佇んでいた僕に話しかけてきた。

話しかけてきた人外の顔は酷く傷だらけで、口にはカラス
を思わせる黒色のマスクをしていた。

背丈はかなり大きく、190はあるように見える。かなりの大男だ。

肉弾戦にでもなったら負けるな、僕。

あ゛~…？なんだァ？てめぇは~゛…？

オレの館の前で突っ立ってんじゃねえよ…！

その大男は鬼のような形相で僕を睨みつけ、威嚇するように怒鳴りつける。その低く
大きい怒声に少し驚き乍も、僕は単刀直入に要件を伝える。

あ゛ァ゛…？そンなの無理に決まってんだろが゛！てめぇは自分の家に見ず知らずの人間を入れんのかよ！

至極当然な事を言われてしまった。この前ならこれで通用したんだけどな…。などと
考えていたら、大男の背後からもう1人、小柄な人外が顔を覗かせた。

まあまあ''クロウ''、いいじゃないか。相手は高校生くらいの男の子なんだよ？

背後から顔を覗かせた人外の頭は、カメラだった。身体は普通の人間と何も変わりなかったが、頭だけは、一眼レンズのカメラそのものだった。

それにしても、この大男はクロウというのか、大男は『げっ。』と言うかのように顔を顰め、急いで自身の背後を
振り返った。

てめぇ゛！！勝手に名前バラしてんじゃねェよレンズ野郎！！

あはは〜。そんなに怒らないでよ〜、君に殴られでもしたらボクなんてすぐお陀仏なんだからさ？

へらへらとした口調で話すカメラ頭。それの肩を掴んで揺らす大男。…なんとも不思議な光景が、目の前に広がる。

そんな情報過多な視界から
目を逸らし、脳をリセット
するために首をふるふると
振る。

今日も大変な仕事になりそうだ、五十嵐さんにはあとで
お金請求しないと。