TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

拡散希望

一覧ページ

「拡散希望」のメインビジュアル

拡散希望

1 - 拡散希望

♥

45

2021年02月15日

シェアするシェアする
報告する

君へ

もし、これを読んだのなら

みんなに伝えて欲しい。

その動画を見つけても

絶対に再生ボタンを押してはいけない、と。

First Day

田中が僕を誘ったのは

ちょうど中間テストが終わった金曜日だった。

夏休み間近の浮き足だった教室で

田中だけが一人

冷たい目をして僕を呼び止めた。

田中

結城

田中

お前、このあと予定ある?

結城

いや

僕は短く答えてカバンを持った。

対人能力の低い僕は

いわゆる、クラスカーストの最底辺だ。

田中は僕とは違う。

カーストの上位に君臨する田中としゃべるのは

僕にとって苦痛だった。

田中

予定がないなら、つき合えよ

田中が僕の肩をつかんで

耳元でささやいた。

田中

逃げんなよ

田中

俺たち、トモダチだろ

田中

いわゆる

田中

拡散希望ってやつ

田中がおどけたジェスチャーで強調した。

見せられたスマートフォンには

画質の悪い映像が流れていた。

モニターの動画を直接カメラで撮ったのだろう。

時折、画像が乱れるのは手ぶれのせいだ。

結城

拡散希望って言われても……

田中

お前に拡散してもらおうなんて、思ってねぇよ

田中はバカにしたように鼻で笑った。

田中

お前。情報処理の成績、よかっただろ

田中

有森先生のパソコンも直したらしいじゃん

結城

あれは

結城

直したとかじゃなくて……

田中

んなもん、どっちでもいいんだよ

説明されたところで、俺には分かんねえし

田中が投げ捨てるようにそう言った。

田中

俺が知りたいのはさ

田中

この動画の続き、だ

Day2

動画に映っているのは猫だ。

たぶん、野良猫だろう。

どこかの薄暗い路地裏で

誰かが猫に餌付けをしている記録映像のようだった。

画面は終始、薄暗く

画質も荒い。

最初は警戒していた猫が、少しずつ餌に近づいてくるという

ただそれだけの動画だ。

田中

下の方に日付と再生数が出てるの、わかるか?

田中

撮ってるやつ

田中

一定の再生数を越えないと

田中

次の動画を出さないんだよ

結城

でもこれって

結城

ただのネコ動画だろ?

結城

続きが気になるほどのものでもないと思うけど

僕は、シークバーを意味もなくスライドさせた。

動画の途中に、妙な継ぎ目があるのは

撮影日が違うせいだ。

田中が言うように

もとの動画は一定の再生数に達した時点で

更新されるのだろう。

モニターの映像を撮っているカメラは

更新された動画をつなげているようだった。

結城

再生数を増やしたいから

結城

拡散希望ってこと?

田中

バカか?

田中

それ以外に何があるんだよ

結城

ご、ごめん

結城

だけどさ

結城

投稿してる人と撮影してる人

結城

絶対違うよね

結城

この動画が拡散されたとしても

結城

もとの動画の再生数は変わらないんじゃない?

田中

だからさ

田中

もとの動画がどこにあるのか

田中

それを探せって言ってんの

田中

お前、パソコン得意だろ

結城

田中は……

田中

はあ?

結城

田中はどうして

結城

動画の続きが見たいの?

Day3

田中は無言のままシークバーをスライドさせた。

野良猫に餌をやっている映像は変わらない。

ただ

変わったのは餌だ。

投稿主は餌の皿の中に、赤い色をした液体を混ぜていた。

田中

不凍液

結城

え?

田中

エンジンが凍らないように車に入れるやつ

田中

飲んだら中毒を起こして

田中

最悪の場合

田中

死ぬ

動画は

不凍液が混ぜられた餌を、猫が食べようとしたところで終わっていた。

Day4

田中

これも見てみろよ

田中は慣れた手つきで別のファイルを開いた。

結城

ちょ……!!

結城

猫は?!

田中

さあ?

田中は興味を失ったように答えた。

結城

さあって

結城

動画の続きが見たいんだろ

田中

あの動画は

田中

あれで終わりだ

結城

猫は?

田中

さあな

田中

死んだかもしれないし

田中

死んでないかもしれない

結城

そんな

田中

あれはあれで終わりってことだ

そのくらい分かるだろ

と、田中は嫌そうに付け加えた。

僕は黙ってスマホの画面に視線を向けた。

それもやはり、猫の動画だ。

さっきとは違う色の猫が映っている。

田中は僕が画面を見たことを確認し

シークバーをスライドさせた。

あからさまに設置された罠が映し出される。

田中

罠の形をした罠だ

田中は特別なことのように言った。

結城

誰が見たって、罠じゃないか

結城

餌を食べたら

結城

首が締まるような仕掛けにしか見えないよ

田中

実際そうなんだろうな

結城

どういうこと?

田中

だから

田中

罠の形をした罠だって言ってるだろ

田中

これは形だけだ

田中

猫が餌を食っても作動しない

結城

……

田中

今のところは、な

結城

それって

田中

猫が生きるか死ぬか

田中

全部

田中

再生数次第ってわけだ

Day5

結城

田中は

結城

再生数を伸ばして

結城

猫が死ぬところが見たいのか?

田中は僕に答えることなく、また別のファイルを開いた。

田中

結城はさ

田中

不安にならないのか?

結城

え?

田中

お前

田中

クラスでいつも一人だろ

田中

一人きりでさ

田中

透明人間みたいに扱われて

田中

他人から認められたいとか

田中

自分を見て欲しいとか

田中

そういうこと

田中

考えたりしないのか?

田中

田中

お前みてると

田中

イラつくんだわ

田中

自分がバカみたいに小さい人間に思えてさ

田中

猫が死ぬかどうか、そんなことより

田中

俺は

田中

動画の続きが見たいんだよ

田中が開いたそのファイルには

様々な場面にいる僕の背中が記録されていた。

only God knows the future

【拡散希望】って都市伝説があるの、知ってる?

一定の再生数になると更新される動画なんだけど

透明人間が人間になると、死んじゃうんだって。

透明人間として、誰からも気付かれることなく生き続けるのか

大勢の他人に見られながら、人間として死ぬのか

もし

そんな動画が回ってきたら

この作品はいかがでしたか?

45

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚