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紫陽花の花

紫陽花の花

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紫陽花の花

♥

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2019年08月16日

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これはとても哀しく

とても切ない

美しい恋の物語。

ユキ

(おはようございます! )

主人

おはよう、ユキ

そういい、くしゃっとユキの頭を撫でた

そしてユキは窓の近くに行った

主人

はっはっは、ユキは窓がお気に入りなんだな!

ユキ

(うん、自然の流れを見るのが好きだから…)

主人にはこの声がきっと届いてないだろう

ユキの瞳には雨上がりの景色が映っていた。

雫がしたたる紫陽花、ゲコッゲコッと元気に鳴く蛙、どれもユキの心を奪われるものだった。

ユキ

(いつか外に出てみたいな)

ユキは、そっと窓に触れてみた。

どうせ私は外に出られない運命なんだ。

そんな事を思っていると窓の外にフラフラと歩いている少年がいた。

その少年は私に気づいたのか、窓に向かって走ってきた

少年

こんなとこで何してるの?

ユキ

こんなとこって…ここは主人が建てた立派な御屋敷よ?

少年

ふーん。楽しそうじゃないけど。

ユキ

っ…

少年

ま!僕は自由に歩き回れるけどね。

ユキ

…御屋敷の中も広くて楽しいし。

少年

ふーん。
まぁ、また明日来るね。

そういい、彼は紫陽花の茂みに消えていった。

主人

ユキー!龍之介くんが来たよー

ユキ

(はーい)

木製のドアの向こうから龍之介さんが上品に歩いてきた。

龍之介さんというのは隣の家の秋川さん一家の一人息子。 とても上品で顔立ちもよかった。

ユキ

こんにちは、龍之介さん。

龍之介

こんにちは、ユキちゃん。

龍之介さんはユキの家に来た時にいつも面白い話をしてくれた。

龍之介

そうそう、この前さー…

今日も九州一周旅行をした話、森を探検した話など、色んな話をしてくれた。

龍之介

じゃあ、もうそろそろ行くね。

ユキ

さようなら。またいつでも来てね。

龍之介さんは木製のドアの向こうへと姿を消した。

ーー翌日ーー

ユキ

(おはようございます。)

主人

おはよう、ユキ

そういい、いつものようにまた頭をくしゃっと撫でた。

そして、彼は来たのかなと窓へ向かった。

すると昨日のようにフラフラしている彼がいた。

そして、彼はこちらに気づいたのか窓の方へ走ってきた。

ユキ

本当に来たのね。

少年

言ったじゃん、昨日。

ユキ

本当に来てくれるとは思わなかったわ。

その後は他愛もない話をしていた。

好きな物の話、趣味の話、龍之介さんほどではないけど、とても楽しい一時を過ごせたと思った。

少年

んじゃ、また来るね

ユキ

ええ、待ってるわ。

そして彼はまた紫陽花の茂みへと消えていった。

それからというもの毎日毎日、2人は話していた。

でも、決して話題が無くなることはなかった。

そんなある日のこと。

少年

…君はさ、なんでここから出られないの?

ユキ

そういう運命なの。最初から。

少年

運命…ねぇー

ユキ

まるでロミオとジュリエットみたい

少年

またお得意様の物語か。

ユキ

そう、悲しくて美しい恋の物語。

少年

…ねぇ、君の家の主人よりも僕の方が面白い景色を見せてあげられると思うよ。

ユキ

ユキは、瞳に少し涙を浮かべた。

そして、紫陽花の花に目線をやり

ユキ

…あの、あの紫陽花の花が枯れて落ちたら迎えに来てくれる?

少年

…分かった。必ず迎えにいくから。
こんなとこよりもずっといい景色見せてやるから、待ってて!

ユキ

ありがとう…

そういい、紫陽花の茂みへと消えていった。

その日から彼が窓に来ることはもう無くなった。

ーー数日前ーー

龍之介

ある、恋の物語を知ってる?

ユキ

なに?

龍之介

ある男の人がずっと外に出られない女の人に会っている内に恋に落ちたんだ。だけど、女の人はその家の主人を裏切りたくなかったがために、
「紫陽花の枯れ落ちる頃にまた来て」
と言って、それから男の人は来ることがなかったんだって。

ユキ

哀しいわ。

龍之介

主人を選ぶか、愛する人を選ぶか、っていう話だね。

ーー現在ーー

ユキ

私は…私はなんてことを…

ユキ

名前とか、どこに住んでいるとか聞いておけばよかったのに…もう二度と会えない…

主人

ユキー!龍之介君が来たよー

ユキ

(はい…)

龍之介

こんにちは、ユキさん…ってどうしたの?

ユキ

うぅっ、うっ、うあぁ

龍之介さんの前でずっと我慢しておいた悲しみをぶちまけた。

龍之介

……そっか。
君は主人を選んだんだね。

龍之介の金色がかった瞳にユキの緑色の瞳が映る。

そして龍之介さんはユキを励まそうと白い毛並みをペロペロと舐めた。

ユキはペタンと耳を折り曲げる。

そして、龍之介は溢れ出すユキの涙まで舐めとった。

主人

はっはっは。猫同士とても仲が良いんだねぇ。

龍之介

にゃおん!

その言葉に龍之介は元気に反応した。

そしてユキは主人の膝に飛び乗って、背中をさすってもらった。

ユキ

(これでいいんだ。)

体全体を撫でてくれる主人に対して、ユキは甘え声でみゃお、と鳴いた。

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