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夜の静けさが、藤の花の香りとともに屋敷を包んでいた。
胡蝶邸の廊下を歩く足音はひとつ。
しのぶ
静かに部屋の障子が開かれた。そこにいたのは胡蝶しのぶ。
カナヲは縁側で膝を抱えていた。 髪が夜風に揺れている。
しのぶ
カナヲ
言葉は少ないけど、心は確かに揺れている。 しのぶはそんなカナヲの隣に静かに 座った。
しのぶ
カナヲ
しのぶ
カナヲ
その言葉に、しのぶの目が一瞬見開かれる。 そしてふっと優しい微笑みを浮かべた。
しのぶ
カナヲの肩に、そっとしのぶの手が触れる。 藤の香りがさらに濃くなった気がした。
カナヲ
しのぶ
言葉が、視線が、夜の中で交差する。 そして、しのぶはカナヲの頬に手を伸ばし――
しのぶ
そっと唇を重ねた。 カナヲの肩がびくりと震える。でも、逃げない。 それが答えだった
――その夜、初めて感情で動いたのはカナヲだった。 涙も笑顔も、自分の意思で。