狐の婿入り

…え？

胸が高鳴った

佐久間は、 俺に化かされてもいない 本当の気持ちで

"好き"に応えてくれたのだ

佐久間は 俺が重ねた手に そっと指を絡めて

恋人繋ぎをしてきた

あぁぁ…可愛い…

恋人ってこんなに 可愛いものなんだ…

俺は席を立って 佐久間の額に軽いキスをした

佐久間の顔が みるみる紅潮する

佐久間が指差したカウンターには あの2人の店員さんは いなかった

その言葉すらも 恥ずかしそうに言う佐久間

ほんと、初心なんだなぁ…笑

俺達は立ち上がり どちらからともなく手を繋ぎ

レジのところにお代を置いて 店を出た

俺達はキッチンの影から 立ち上がった

2人のテーブルを拭きながら 翔太は呟いた

それから 拭き掃除が終わった翔太は

雑巾を押し付けてきた

腕を掴んで引き寄せ そのほんのり赤い頬に 口づけすると

翔太は苦笑いして

と、キスを仕返してくれた

夕焼け空の下 俺達はぴったりくっついて歩く

俺の家まで ついてきた阿部ちゃんは

そう言って 俺にそっと近づき

次は唇にキスしてきた

あまりに阿部ちゃんが しゅんとするものだから

俺はぎゅっと目をつむり 引き締まった彼の唇に そっと口付けた

俺は阿部ちゃんを 路上に残して

家へ駆け込んだ

俺達の、長いようで短い 今までを説明し終わって

そっと一息つく

もう、あの高校の時から 何年も経ったんだな…

俺は目の前に座る 大介の両親に

深く深く頭を下げた

隣では大介が 固唾を呑んで見守っている

ダメ元で頼み込んだ結婚を 笑って受け入れてくれた大介

そして今日、 両親にご挨拶にきて…

了承を得ることができた

そう言って 大介の母さんは微笑んだ

大介にとてもよく似た 明るい笑顔だった

そうして俺は 佐久間の家を後にした

木漏れ日の下を2人で歩く

高校のとき、初めて ここを通った時は

すっごく緊張したなぁ…

そう呟くと 阿部ちゃんは

すると 額に冷たいものが当たった

その名前を思い出して 俺はふとひらめいた

狐の婿入りかぁ…と そのネーミングが気に入ったように 繰り返す阿部ちゃん

その後、期待を込めた視線を 俺に送ってくる彼

木々に囲まれた、澄んだ空気の中で 俺は大きく深呼吸をして

愛しく思う気持ちを込めて その名前を呼んだ

2人を祝福する天気雨は やわらかく、いつまでも 降り続けていた──

💚𝐸𝑛𝑑🩷