テラーノベルの小説コンテスト第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで

一覧ページ

見知らぬ本屋と12冊の呪われた絵本

第10話 - 幕間　【２】

2024年12月05日

#ミステリー

#心理戦

#デスゲーム

#推理

#第4回テノコン

日比野響

一宮が呪いの絵本を手に取り、これまでの人生が一変した激動の日より数日後。

車窓を流れる景色はオフィス街を抜け、困惑する一宮を乗せて走り続ける。

八橋

ねぇ、どういうこと？

八橋が隣にいる四ツ谷に声をかける。

四ツ谷

どういうこと――って聞かれてもな。

四ツ谷

俺もよく分からないというか。

八橋

なんで分からないのに、私達こんなリムジンみたいなのに乗せられてるのよ？

一宮

運転手の方も、随分と身なりの整った礼儀正しい人だったな。

四ツ谷

それにしても、こうしていられるのが不思議だわ。

四ツ谷

まさか、絵本を奪うために殺しもせず、しかも適当な願いを叶えさせて捕縛権まで放棄する馬鹿がいるとは思わなかった。

八橋

ある意味、負ける相手が良かったと思えば？

八橋

相手が一宮君じゃなかったら、その場で殺されるか、一生いいように使われるかのどちらかだっただろうから。

四ツ谷

まぁ、そうだけど。

四ツ谷

共に戦って欲しい――って願い事も、そこまで苦痛ってわけじゃないしな。

四ツ谷

姐さんに関しては、考え方は似てるみたいだし。

八橋

そう言えばさ、どうして四ツ谷は七星のことを姐さんって呼ぶの？

四ツ谷

いや、あの立ち振る舞いはどう考えたって姐さんだろうよ。

四ツ谷

あの人のこと、あんまり詳しくは知らないけど、あの立ち振る舞いなら、多分だけど30歳手前くらいまでいってるだろ？

四ツ谷

単純に俺より年上だし、立ち振る舞いもあって自然と姐さんって呼ぶようになったんだよ。

四ツ谷

ちなみに俺は21歳ね。

一宮

俺が25歳だから、４つ下か。

八橋

……私、永遠の17歳だから。

八橋

私は17歳ってことでいいわね？

一宮

(あ、この感じ。多分八橋が一番年上だ)

八橋

はい決定。

八橋

私は17歳ってことで決定ね。

八橋

それを認めない奴は絵本に喰われる。

四ツ谷

怖っ！

四ツ谷

絵本が文句言うんじゃね？

一宮

そう言えば、これは俺だけかもしれないが、最近絵本がだんまりを決めているというか、以前みたいに話をする機会がなくなったんだが。

四ツ谷

あー、それ多分だけど同化したからじゃない？

一宮

同化？

八橋

説明が難しいけど、それぞれ別々の意思だったものが、ひとつになるというか――。

八橋

例えば、四ツ谷君達とやり合った時、なんとなくチーム分けの定義が頭に浮かんだでしょ？

一宮

確かに、捕縛関係にある者がチームとしてみなされるんじゃないか――みたいな漠然とした考えが浮かんだな。

八橋

それ、多分絵本と同化したから。

八橋

桃太郎の知識が、漠然とした形で出てきた結果だと思う。

八橋

私がこのことを知っているのも、絵本と同化して得た知識があるからよ。

八橋

同化してしまえば、会話をする必要もない。

八橋

絵本が持ち主のところに現れるのは、同化するまでの短い間。

八橋

絵本に認められた――って考えるといいかも。

一宮

ふーん、もっと色々と話を聞きたかったんだけどなぁ。

四ツ谷

あんな奴、出てこなくていいわ。

四ツ谷

金太郎なんて、話もそこそこに俺と力比べしたがって大変だったから。

八橋

私の場合、目の前で北風と太陽がガチで喧嘩を始めてね。

八橋

なんだか情けなくなったわ。

一宮

そう考えると、桃太郎は随分まともだったんだな……。

３人の会話もそこそこに、リムジンは急に止まる。

車は見上げるほどの豪邸の前で停車。

わざわざ運転手が外から回り込み、ドアを開けてくれた。

運転手

到着でございます。
こちらへどうぞ。

運転手に促されるままリムジンを降りると、豪邸を見て四ツ谷が一言。

四ツ谷

おいおい、いきなりここで、呪いの絵本トーナメントとか始まらないだろうな。

八橋

なによ、それ。

四ツ谷

少年漫画とかで展開が詰まったら始まるやつ。

四ツ谷

とりあえず大会開いておけ的な。

一宮

まさか、そんなことはないだろ。

一宮

大体、絵本の所有者同士は、なにもしなくとも出会うことになるんだろ？

一宮

だったら、こんなことする必要はない。

四ツ谷

そうだけど……その時期を少しでも早めたいとか。

運転手

こちらでございます。

運転手に案内されるまま、３人は豪邸の中へ。

八橋

ちょっと、なにこれ。

八橋

エントランスってやつ？

吹き抜けのエントランスが３人を出迎えた。

運転手

それでは、こちらでお待ちください。

運転手

お嬢様をお呼びして参ります。

四ツ谷

ん……お嬢様？

一宮

そう言うことか。

一宮

確かに、立ち振る舞いには品があるようには見えたけど。

一足先に一宮は理解した。

つまり、彼女はここのお嬢様というわけだ。

運転手が姿を消してからしばらく、廊下の奥のほうから足音が聞こえ、制服姿の女性が姿を現した。

グレイのブレザーに、膝よりやや丈上のスカート。ニーハイソックスと呼ばれるものだったと思う。随分と長い黒ソックス。胸元のピンクのリボンが特に印象的だった。

七星

急に呼び立ててすまなかったな。

七星

生徒会の会合が少し長引いたせいで着替える時間がなかった。

七星

こんな格好だが許してくれ。

その様子に驚きの声をあげたのは、八橋と四ツ谷だった。

八橋

えーーーー！
あんた女子高生だったの？

四ツ谷

あ、姐さん……。

四ツ谷

俺、姐さんより年下だと思っていたのに。

七星

そうだが？

七星

しかし、絵本の所有者に学生も社会人もあるまい。

七星はそう言うと、長い髪に手櫛を通した。

七星

さて、早速で申し訳ないが、本題に入ろう。

七星

とりあえず、私が調べた情報を共有しておきたいと思ってな。

七星

こんなところで立ち話というのもなんだから、客間で話をしよう。

七星はそう言うと、近くにいた運転手の男性へと声をかける。

七星

爺、お茶の準備をお願いできる？

運転手

はい、ただいま。

七星

よし、それじゃこっちだ。

先導して廊下の向こう側に消えた七星の後ろ姿を見て、八橋が恨み言のようなことを呟く。

八橋

あの子……こうやってみるとスタイルも完璧じゃない。

八橋

私も永遠の17歳なのに……。

八橋を慰めるつもりなのか、それともからかったつもりなのか。四ツ谷が八橋の肩を叩く。

四ツ谷

まぁ、あれには敵わんな。おばさ……。

四ツ谷が最後まで言い切る前に八橋の鉄拳制裁がくだされた。

八橋

私まだ29歳だもん！

八橋

ピッチピチだもん！

誰も後をついてこないから戻ってきてくれたのだろう。

七星

どうした？
なにかあったか？

四ツ谷

い、いや……。

四ツ谷

大丈夫だ。

七星

そうか、それならいいんだが。

改めて廊下の奥へと消える七星。

八橋

ねぇ、一宮君もなんか言ってよ。

八橋

私、なんだか敗北感が凄いんだけど。

一宮

あぁ、分かった。

どんな言葉をかけてやろうか。少し考えた挙げ句、一宮は素直な言葉を口にした。

一宮

ほら、良く言うじゃないか……。

四ツ谷がやったように、八橋の肩を優しく叩いてやる。

一宮

肉は腐りかけが美味い。

八橋の鉄拳が飛んでくるのに、さほど時間はかからなかった。

見知らぬ本屋と12冊の呪われた絵本

作品ページ

次の話を読む

この作品はいかがでしたか？

0件

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう！

日比野響

プロフィール

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい！がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

見知らぬ本屋と12冊の呪われた絵本

第10話 - 幕間　【２】

作者の他の作品すべて見る

#ミステリーの新着小説
一覧

関連するタグ

見知らぬ本屋と12冊の呪われた絵本

第10話 - 幕間 【２】

作者の他の作品すべて見る

#ミステリーの新着小説一覧

関連するタグ

第10話 - 幕間　【２】

#ミステリーの新着小説
一覧