セイヤ
(この状況で当たりを引く方法?)
セイヤ
(そんなものがあるのか?)
セイヤの疑問をよそに、ツヨシはおもむろに抽選箱へと手を突っ込む。
ツヨシ
くじを引けるのは1人につき3回までだ。
ツヨシ
でもよ、志賀。
お前は言ってないよな?
ツヨシ
1回につき、引いていい玉は1玉だけだなんてよ。
そう言いながらも抽選箱から出されたツヨシの手には、いくつもの玉が乗っていた。
ただ、遠目で見た限り、当たりは入っていないらしい。
志賀先生
……はっはっはっは!
なるほど、考えたなぁ。
志賀先生
でもなツヨシ、常識って知ってるか?
志賀先生
文脈から常識に当てはめて物事を考える。
志賀先生
これって、社会に出てる大人達が当たり前にやってることな。
志賀先生
もっと分かりやすく言うなら、空気を読むってことだ。
志賀先生
わざわざ言わずとも、わざわざ説明せずとも、自身の中にある常識と照らし合わせる。
志賀先生
まぁ、お前達は命がかかってるわけだし、揚げ足取りみたいなことをしたくなる気持ちも分かる。
志賀先生
だから、今の行為は不問とさせてもらおう。
志賀先生
当たりを引いたわけでもないからな。
志賀先生
ただ、次からは駄目だ。
志賀先生
ルールに付け足すことにしよう。
志賀先生
いいか?
一度の抽選で引ける玉は、それぞれ1玉のみだ。
志賀先生
さぁ、ツヨシ。
玉を外れの箱に移して席に戻れ。
ツヨシ
……ちっ、うまく裏をかいたと思ったのによ。
確かに、担任は一度の抽選で1玉しか引いてはいけないというルールを明言はしなかった。
しかしながら、それは暗黙の了解というやつであって、ツヨシのやったことは揚げ足取りでしかない。
志賀先生
よし、それじゃあさっさと進めよう。
イチカ
先生、ちょっといい?
志賀先生
なんだろうか?
イチカ
結果的に外れを引いたから良かったですけど、今さっきツヨシ達の班は、予定されていたよりも多くの抽選を受けたわけじゃないですか?
志賀先生
あぁ、そうなるなぁ。
ニコ
そもそもなんだけどさ、抽選を受けられるのって、1班が4人編成で、それぞれ3回ずつなんだからさ、全部で12回しかないわけじゃん?
ナンバーズの主張に、セイヤは嫌な予感しか抱けなかった。
このような時の嫌な予感ほど、よく当たるものはない。
イチカ
だからさ、もう引いちゃったと思わない?
イチカ
さっきのツヨシで抽選12回分くらい。
志賀先生
なるほど、確かにそうだなぁ。
ニコ
じゃあ、ツヨシ達の班はもう――くじ引かなくてもいいよね?
ヒメ
えっ?
マドカ
えっ?
ツヨシ
はぁ?
ヒメとマドカがシンクロして、そこにツヨシが首を傾げる。
志賀先生
あー、そうだよなぁ。
そうしないと不公平だもんな。
志賀先生
それじゃ、ツヨシ達の班は3周目まで抽選を終えたってことで。
志賀先生
抽選は残りの班で行うことにしよう。
ツヨシ
てめぇ!
ふざけんなよ!
志賀先生
ツヨシ、これは決定事項だよ。
これまでと同じように抽選させたら不公平になるだろ?
志賀先生
だから、お前達に抽選権はもうない。
マドカ
そんな……抽選できないってことは、絶対に当たりを引くことはないってことよね?
ヒメ
そして、当たりを引けなかったら私達は……。
ツヨシ
すまん!
こんなことになるとは思ってもいなかったんだ!
マドカ
今さら謝ってもどうにもならないわよ。
ヒメ
自信満々でくじを引いたと思ったら、こんなのあり?
だっさ。
ツヨシが謝ったところで、マドカとヒメの怒りはおさまらない。
セイヤ
俺達はもう手出しができないってことか。
ツヨシ
セイヤ!
本当にすまん!
セイヤ
担任の様子……なんだかものすごく違和感があるんだよな。
セイヤ
さっきだって、ツヨシが予定より多くの抽選を受けたのに、むしろ担任は笑っていた。
セイヤ
下手をすれば、あそこで当たりを引かれていたかもしれないのに……。
セイヤ
いや、ちょっと待てよ。
セイヤの頭の中では、ゲームの説明をしている担任の姿が再生されていた。
セイヤ
(あの時、当たりの玉を俺達に見せたあと、担任はそれをどこにやった?)
セイヤ
(そのまま抽選箱の中?)
セイヤ
(いや、抽選箱の中に当たりが入れられた記憶はない)
セイヤ
(まさか……)
マドカ
どうしたのよ、セイヤ。
鳩がキャメルクラッチ喰らったみたいな顔をして。
セイヤ
それを言うなら豆鉄砲だろ。
マドカに返すと、ツヨシのほうへと改めて向き直るセイヤ。
セイヤ
ツヨシ、おかげである可能性に考えつくことができたよ。
ヒメ
ある可能性?
それって?
マドカ
頼むわよセイヤ。
もう、あんたしか頼れないんだから。
セイヤ
その可能性とは……。
セイヤは教壇の上の抽選箱を睨みつけながら続けたのであった。
セイヤ
そもそも、抽選箱に当たりが入っていない――そんな可能性だよ。