偽人

蓮は浮気相手の美波を

立ったまま強引に抱き寄せると

髪の毛をかき分けながらキスをした。

大きな蓮の手のひらが

美波の背中を撫でる。

真琴というのは、蓮の恋人で

美波の親友だった。

蓮は美波の赤いニットを、脱がせようとした。

──と。そこで美波のスマホが鳴った。

スマホを手にした

美波の顔色が変わった。

美波は真琴に

いいよ、と返信した。

すぐに真琴から

美波のスマホに、電話がかかってくる。

美波はベッドに腰を下ろすと電話に出た。

蓮はニヤつきながら隣に座ると

美波の髪をかき分けて

耳元に息を吹きかけた。

蓮は、美波の反応を見て

面白そうにニヤついている。

さらにイタズラをしようと美波に手をかけたが

美波からの本気の睨みに

蓮は離れた。

思わず、蓮も美波のスマホから漏れる声に

じっと耳を澄ませた。

蓮が美波の肩を叩き

口の動きで、来るのか？

と美波に尋ねる。

振り向いた美波は大きく2回頷いた。

美波はベッドから立ち上がると

驚いた顔で、蓮へ振り返った。

思わず、蓮は声を漏らしてしまった。

幸いにも、その声は

受話器の向こうには届いていないようだった。