現在・西元会病院
???
――――、――なさい
???
―――い、―きさなさい
???
先生、起きなさいっての!
パシンッ
春川 修司
痛ぁ!
筧 桜子
まったく…
筧 桜子
夜勤明けとはいえ、勤務時間中だよ?
春川 修司
す、すみません、桜子さん…
筧 桜子
”さん”?
春川 修司
ご、ごめん、桜子…
春川 修司
(桜子さん…さん付け、というか年上扱いを嫌がるんだよな)
春川 修司
(僕よりベテラン……ってことは絶対年上なのに)
筧 桜子
どうせまた、9年前のデータでも漁ってたんでしょ?
春川 修司
……まあ……はい
筧 桜子
……気持ちはわかるけど
筧 桜子
あくまでも君の仕事は医者なんだからね?
筧 桜子
ミスは絶対許されない
筧 桜子
……おわかり?
春川 修司
はい…すみません……
筧 桜子
ん、よろしい
筧 桜子
ということで、新しいお仕事ですよっと
春川 修司
ああ、わざわざありがとうございます
筧 桜子
いえいえ、これも看護師の仕事ですからねえ、春川先生?
春川 修司
含みのある言い方をしますね?
筧 桜子
そりゃあね
筧 桜子
何年か前に研修で来てた君が、いまや先生様ですもの
筧 桜子
突っつきたくなるのが、おばちゃん根性ってやつよ
春川 修司
……その20代みたいな見た目で、おばちゃん根性ですか
筧 桜子
女性に年齢の話は禁句だよ?
春川 修司
自分から振っておいて!?
筧 桜子
女心は難しいのよ。学び励みなさい、先生?
春川 修司
心理分野は専門外ですよ、僕は
春川 修司
それで、カルテの内容は、っと…
春川 修司
…………
春川 修司
これは…………
筧 桜子
ああ、なんか、『主治医を春川君に』って本人の希望らしくて…
筧 桜子
……春川くん?
数分後・病室
筧 桜子
最上階の個室って……
筧 桜子
私、ここに勤めてから初めて入ったわ…
春川 修司
僕もですよ
春川 修司
(いっそ嫌味なほど豪華な内装)
春川 修司
(病院に必要とは思えないけれど)
コンコン
春川 修司
失礼します
儚げな女性
あら、やっと来てくれた
筧 桜子
お待たせして申し訳ありません
筧 桜子
これが、ちょっと、これしてたもので
春川 修司
僕の頭を小突きながら、適当言うのやめてくれません?
儚げな女性
あらあら、”これ”してたなら仕方ないですね
儚げな女性
ともかく、お会いできて嬉しいです
儚げな女性
春川修司先生?
春川 修司
(ああ、そうだな、僕もだよ)
春川 修司
……ええ、よろしくお願いします
儚げな女性
あ、こちらは私のお付きの社木 京
儚げな女性
私共々、よろしくお願いいたします
社木 京
この度はご迷惑をおかけいたします
筧 桜子
いえいえ、そんなご丁寧に
筧 桜子
看護師の筧 桜子と申します。
筧 桜子
気軽に桜子と呼び捨ててください。マジで
儚げな女性
あら、では遠慮なく『桜子』と
筧 桜子
―――――
筧 桜子
(春川くん、これがコミュ力の高さだよ…!)
筧 桜子
(君も見習った方がいいよ…!)
春川 修司
(やかましいです、桜子さん)
筧 桜子
さん付けをやめろー!
儚げな女性
?
筧 桜子
あー…失礼しました
春川 修司
とりあえず――
儚げな女性
春川先生は、何故この病院に?
春川 修司
え…?
春川 修司
(なんだ、この女)
春川 修司
(何かを探っている…?)
春川 修司
(そもそも、無名の僕を主治医に指定したことといい、何か変だ)
儚げな女性
地元だから…と言うところでしょうか?
春川 修司
ま、まあ、そうですね
春川 修司
(とりあえずそう言っておこう)
儚げな女性
ふぅん……
社木 京
…お嬢様、僭越ながら、自己紹介がまだ…
儚げな女性
ああ、そうでした
儚げな女性
大変失礼いたしました
筧 桜子
いえいえ!どうせ病室の名札見て知ってますし!
儚げな女性
いえ、ですが礼儀として……
十束 雪華
十束 雪華と申します
十束 雪華
趣味は読書、特技は書道
十束 雪華
血液型はなんと、希少なRH-です
筧 桜子
おお、春川くんと同じ…!
春川 修司
(……!)
十束 雪華
あら、それは”奇遇”ですね
十束 雪華
よろしくお願いいたします、先生?
春川 修司
……ええ、よろしくお願いします
握手を求めてきた手を、握り返す
そのまま握りつぶしてやりたい 心からそう思った