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さつまいも

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橘靖竜
その日は朝から雨が降っていた。
そこまで強い雨ではなく、しかし真綿で首を絞めるかのように、しつこく、じわじわと降り続けるような雨。
この雨の中、傘をささない時点で、もう心は限界だったのかもしれない。
ユキ
ユキ
ユキ
入社当初こそ、ばっちりと化粧をして出社していた。
化粧品会社の社員という自覚があり、また身だしなみを整えるのは、一般的な常識だと考えていたから。
だが、人間というものは、やはりいざとなったら生存することに全ての舵を切ってしまうらしい。
身なりを整えるよりも睡眠――いや、休息を体は求めていた。
ユキ
家に帰っても休息はない。
上司は時間なんて関係なく、思いついたかのようにメールをしてくる。
携帯電話が当たり前となり、無料で簡単に連絡が取れてしまうツールが出てきてしまった。
一昔前は、職場から離れてしまえば、一時的に解放された。
しかし――今の時代は24時間拘束のようなものだ。
利便性が確実に働き方を変えてしまった。
ユキ
ユキ
ユキ
ユキ
日本人は勤勉である。
毎日、決められた時間に出社――しかも、場合によっては数時間も前に出社し、しかし決められた時間には帰らない。
正確には帰れない。
出社時間は厳守しなければならないのに、退社時間は平気で過ぎてしまう。
質ではなく量で評価するところも多く、仕事を効率的に進める人間よりも、非効率的で手際の悪い人間のほうが評価される。
同じ仕事を半日で終えて帰る人間よりも、夜遅くまで残ってこなしたほうが高く評価されるなんて、あまりにも馬鹿らしい。
しかし、それを良しとする風潮が残っているのが、残念ながら日本の現状だ。
ユキ
国も労働環境の改善に動いてはいるが、その動きこそが労働者の首を絞めていることには、お偉い方々は気付かない。
残業時間に制限をかければ、制限にかからないように働くようになる。
仕事量が多くとも、残業時間が限られてくるため、申請せずに残業をするようになる。
逆説的に申請をしずらい環境が出来上がる。
有給休暇を年間で5日は取得しなければならない決まりがあるわけだが、それだって表向きは取得したことにして、当たり前に出勤させるところも多い。
ユキ
追い詰められた人間は、逃げる――という当たり前の行動をしなくなる。
逃げたら弱者、敗者であることを、嫌というほど叩き込まれているから。
「お前なんて、どこに行っても通用しない」
そんな言葉を、その会社しか勤めたことのない人間が平気で言い放つ。
よそを見たことも経験したもないのに、平然と言い放つ人種が、確かに存在しているのだ。
ユキ
ユキ
ユキ
彼女は自らを奮い立たせ、しかし重い足取りで、いつもの戦場へと赴いた。
会社に到着すると、名ばかりのタイムカードを押す。
まだ始業時間までは時間があり、こうして早めに出てきたのは、最終的に確認したい仕事があったからだ。
ユキ
ユキ
その資料だって、定時間際に上司から指示され、遅くまで残って修正したものだった。
ユキ
休む間もなく始業時間がやってくる。
それに合わせて、他の同僚はようやく出勤。
ユキノ
デスクにいつもの彼女がやってくる。
その時点で嫌な予感しかしなかった。
ユキ
ユキノ
ユキノ
ユキ
ユキノ
ユキノ
ユキノ
ユキノはそう言うと、ユキの耳元で続ける。
ユキノ
ユキ
ユキ
ユキノ
ユキノ
言い返せないユキを尻目に、ユキノは自分のデスクへと行ってしまった。
ユキ
自然と涙が溢れてくる。
なぜ、自分だけがこんな目に遭っているのか。
ミノリカワ
今度は上司の不機嫌そうな言葉。
手にしているのは、ユキが作った資料だった。
ユキ
ミノリカワ
恐る恐ると課長のデスクへ向かうと、いきなり資料を投げつけられた。
ミノリカワ
ミノリカワ
ユキ
修正の指示があった場所ではなかった。
そもそも、この資料だって、ユキノが途中で投げ出したやつを押し付けられたものなのに。
ミノリカワ
ミノリカワ
ミノリカワ
ユキ
ミノリカワはわざとらしい溜め息を漏らす。
ミノリカワ
ユキノ
ユキ
ミノリカワ
部署内から冷たい視線を向けられているのが分かる。
ユキ
言葉を遮るかのように、ボールペンが投げつけられた。
ミノリカワ
ミノリカワ
ミノリカワ
ユキ
ミノリカワ
ミノリカワ
ミノリカワ
ユキ
ユキ
ミノリカワ
ミノリカワ
ミノリカワ
ユキは拳を小さく握りしめて我慢する。
でも、すでにこの時、心は限界だった。
限界だったのに、あんなことが起きてしまったのだ。
コメント
2件
これ見たらコイツラって最初から救いようのねぇ奴等だったんだな… 不倫してるから絶対口裏合わせてやってんだろ?どうせ笑 アレ見た後じゃざまぁとしか思えんけどな