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わぁ〜すっごく続きが気になりますっ!✨
気になるぅぅぅぅうう!
もしや……幼馴染ではなく、 先生に恋、するのかな……!!
17歳だった。
日々、当たり前のように
傍にいる存在が
いなくなることなんて
考えもせず。
それを受け止められるほど
大人でもなく。
泣きじゃくるほど子供でもなく。
ただ、ただ
青い空を映し輝く水面に
失った笑顔を探した__
◇
◇
『遥(はるか)ー。帰るぞー』
手の中に収めていたスマホを
振るわせたのは、幼なじみからの
短いメッセージだった。
どうやら私はいつの間にか
眠っていたらしい。
スマホを握り締めたまま
机に預けていた上半身を起こすと
窓から差し込む温かい
陽射しに目を細めた。
窓の外で波打ち揺れる一面の緑。
換気の為に僅かに開いた窓からは
葉が擦れ合う音。
私はそれをBGMにしながら
室内を見渡した。
静かな図書館には、私と
カウンター当番の女生徒
だけのようだ。
私は幼なじみに今から
そっちに行くことを返信し
読みかけだった本を閉じて
元あった場所にしまうと
鞄を手に図書館をあとにした。
図書館はこの高校に入学して
すぐにお気に入りになった場所。
窓際に設置された長机の
右端付近は日当たりが良くて
放課後、予定がなかったり
暇を潰す時には
いつもそこで過ごしている。
◇
第1章 〜先生〜
◇
1年の時、親友に
『そんなに図書館が気に入ったなら
図書委員にでもなればどう?』
なんて言われたけど
それは即却下した。
だって、図書委員なんかになったら
あのぬくぬくポジションで
幸せな時間を過ごせなくなる。
私が気に入ってるのは
図書館という本に囲まれた
環境ではない。
図書館にある、あの一角なのだ。
なので、今日のホームルームで
行われた委員決めでは
保健委員に立候補した私。
本当は何もやりたくないのが
本音だったけど、2年にもなると
進学のこととか就職のこととか
考えないといけないし
何かやっておいた方が
いいだろいと思って
なんとなく保健委員に。
川本 遥
欠伸をひとつし、放課後の
人気のない廊下を歩く。
まだ脳が覚醒しきってないようだ。
そんな感覚を持ちながら
私はゆっくりと3階から
2階へと階段を下っていく。
その途中、私はふと視線を
階段の踊り場の窓へと向けた。
実はここからは、つい先週まで
満開の桜が見えていたのだ。
けれど今はもう葉桜となって
しまっていて、薄紅色の
花びらはよく目を凝らせないと
見えない程になっている。
芽吹き、花を咲かせて
満開となり散っていく。
桜の見頃はあっという間すぎて
少し寂しい。
ぼんやりと、その光景を
思い返しながら階段を
下っていたのがいけなかった。
階段に着地した右足が
不安定さを覚えて。
危ない。そう思った刹那。
___ガクン。
身体のコントロールがとれなくなり
手すりに手を伸ばそうとした
努力もむなしく
私は階段から転がり落ち……
て、ない?
身体は前に傾いて
右足も踏み外したままだけど
私は落ちていなかった。
手は手すりに届いてはいない。
なのに、落ちていないのは
どういうことなのか。
一瞬、わけがわからずに
ただただ心臓をバクバクさせていたら。
横谷 悠真
耳元で、程よく低く
かつ甘さを持った声が聞こえて。
そちらへと顔を向けると思ったより
至近距離にあったのは……
川本 遥
横谷 悠真
呆れの混じった声で注意される。
そこでやっと
自分が助けられたことを悟った。
私の腹部に回された腕は
一見細く見える彼にしては逞しく。
鼻をくすぐるコロンの香りは
柔らかく爽やかで。
踏み外したままの右足を
階段に乗せ、バランスが
取れるようになると
私はようやく安堵の息を吐き出した。
すると、それを合図にしたように
離れていく腕と香り。
私は、私より2階ほど
上にいる彼を見上げた。
間一髪で私を助けてくれたこの人は
この高校の数学教師
横谷 悠真(よこや ゆうま)。
容姿端麗でクール。
まだ20代半ばの若い教師で
女生徒からの人気が高く
告白されることも
あるとかないとか。
まあ確かに……イケメンだよね。
私も入学して間もなく
横谷先生を初めて見た時は
ちょっと興奮したし。
横谷 悠真
川本 遥
突然、何かを尋ねられて。
でもそれが何を指しているのか
わからずに首を傾げると
横谷先生は
横谷 悠真
と聞いてきた。
そういえば、最初に
質問されたんだっけ。
私は足ふみしてみたり
ほぐすように足首を
まわしてみたりして痛みを確かめる。
川本 遥
横谷 悠真
横谷 悠真
川本 遥
川本 遥
忠告に返事をし
助けてもらったことに礼を告げる。
すると、横谷先生は
私の横を通り過ぎる際
大きなその手を私の頭に乗せて
優しく撫で、さっき間近で
感じたコロンの香りを残し
階段を下りていった。
私は、撫でられた頭に
自分の手を乗せる。
……ちょっと、驚いた。
私の中の……というか
ほとんどの生徒の中にある
イメージは、真面目で
クールな印象だろう。
だから、こんな風に軽くでも
頭を撫でられるなんて
想像もできなかった。
なんだか胸の奥がくすぐったくて。
私は制服のブレザーの上から
胸元をそっと押さえながら
首を長くして待っているだろう
幼なじみの元へと
歩き出したのだった。