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商店街の真ん中あたり、空き店舗の軒先に期間限定のたい焼き屋が出ていた。

ユイ

回転が、致命的に遅いわね

ユイが腕を組み、行列を睨みつけるようにして言う。

職人さんが一枚ずつ焼いてるんだから、早くはないだろ

ユイ

効率の問題よ。行列の長さと生産能力のバランスが取れてないわ

小学生が日常で使う言葉か、それ

焼き型の上で、溢れた生地がじゅうと音を立てて香ばしく焦げる。

ユイ

……高校生。時間はある?

うん、並ぼうか

ユイ

即決。加点

ユイが、人さし指を立て歯を見せて笑う

ただ腹が減ってるだけだよ

​前に三人。

生地の焦げる匂いが、冬の重い空気に乗ってゆっくりと漂ってくる。

ユイ

ねえ

ん?

ユイ

待つのって、嫌い?

……まあ、わりとな。退屈だし、時間の無駄だし

ユイ

即、減点ね

だろうね

​ユイは、型の中から現れる、きつね色の『魚』たちをじっと見つめている。

ユイ

でもね

ん?

ユイ

待っているときが、人間は一番“ちゃんとしてる”のよ

どういう意味だよ

ユイ

まだ手に入っていないから、期待が壊れていない。可能性に投資しているこの瞬間こそが、最も誠実なの

……難しいな。早く食べたいだけだよ、俺は

​ようやく順番が回ってきた。

おじさん、二つください

​受け取った紙袋は、内側からほかほかと生命力のような熱を放っていた。

近くのベンチに腰を下ろす。

熱っち……

ユイ

学習しなさい。熱量は敬意を持って扱うべきよ…あつっ

そう言うユイは、たい焼きを左右の手の間で、忙しなく往復させている

そっちだって熱そうじゃん。落とすなよ

​二人で並んで、ふぅふぅと息を吹きかける。

白い湯気が、グレーの冬空に溶けては消えていく。

今日の点数は?

ユイ

待ちなさい。まだ食べていないから、保留

判定まで待たせるのかよ。厳しいな

​端っこから、一口かじる。

はみ出した熱いあんこが、凍えた身体に染みる。ちょうどいい甘さだった。

ユイが、小さく何度もうなずく。

ユイ

……プラス1ね

理由は?

ユイ

ちゃんと、期待を裏切らない味まで待てたから。いわば我慢料よ

​たい焼きのしっぽが、ぱきっと乾いた音を立てて割れた。

商店街の向こうで、誰かの自転車のベルが鳴る。

​世界に特別なことなんて、何一つ起きていない。

けれど、たい焼きを持った指先だけは、ちゃんと、確かな熱を感じていた。

ランドセルは置いてきた

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