奈緒
日のよく当たる図書館
奥の方に本棚にもたれている人─。
奈緒
この図書館に通うようになったのは
彼に会えるから
彼の名前も学校も知らない
けど…
美しい横顔に、私の頬は赤くなった
いつもこの図書館で本を読んでいる彼
見ているだけでも幸せだった
この感情は
”恋”というのだろうか
奈緒
本棚を見るふりをして近くに歩み寄る
彼が読んでいる本に視線を向ける
奈緒
見た事のあるタイトル
きっとあの子が読んでる本のこと
奈緒
翌日、確認してみると
あの子が読んでいる本のタイトルと
昨日彼が読んでいた本のタイトルは一致していた
奈緒
あの子─。
それは冴島 紗枝のこと
良く言えば真面目な優等生
悪く言えば影が薄い地味な女子
休み時間、本をよく読んでて
外見も内面も真面目
奈緒
奈緒
突然声を掛けてみる
突然すぎたのか、少し驚かれた
奈緒
奈緒
奈緒
紗枝
紗枝
紗枝
奈緒
どんな知り合いかは知らないが
きっとその知り合いも真面目な人なんだろう
奈緒
その時冴島さんは眼鏡を取った
眼鏡についた埃を払い
眼鏡をかけ直す
冴島さんがその数秒間の作業をしている間
私は、冴島さんが眼鏡を外した姿に驚いていた
華があった
可愛らしかった
眼鏡を外しただけで
あそこまで顔が変わるのかと思うくらいに
奈緒
奈緒
わがままな考えだって事は分かってる
彼女の眼鏡無しの顔は可愛すぎた
でも私の心はどんより曇り空
私の今の感情は”嫉妬”だろうか
奈緒
奈緒
今から彼に会えるんだから、と
曇り空の私の心に傘をさして
図書館へ足を運んだ
奈緒
奥の方のカウンターに座り
静かに本を読んでいる彼を見つけた
奈緒
もっと近くで見たい、と
私は彼の近くの本棚に近寄った
奈緒
本の世界に入っているのだろう
すぐ近くに人が─
私がいるのに
全く気付かない
私は彼に恋をしている
でも、結ばれたいとは思わない
不思議と、見つめているだけでいい
私の存在なんて知らなくても
彼の姿を見るだけで心が満たされる
見つめるだけで
それだけでいい
奈緒
その時
彼が視線の向きを変えた
奈緒
一瞬気付かれたのか心配になったが
そんな心配は一切いらなかったようだ
?
彼
彼の表情がぱっと明るくなる
彼の視線の先には─
女の子が立っていた
奈緒
奈緒
その瞬間、私の心の中に
バケツの水をひっくり返したような雨が降った
傘をさしていても、濡れてしまうほどに
奈緒
結ばれたいとは思わない
…なんて思ってたけど
いざ彼が恋をしていたとなると
やはり辛いもので。
奈緒
奈緒
1番の後悔は
冴島さんが眼鏡を外した姿を見てしまったこと
もしもあの姿を見てなかったら
今はきっとあまり辛くなかったと思う
失恋した、という感情だけで良かったのに
私はこの恋の主人公にはなれない
むしろ恋の邪魔をする悪役だ
?
?
彼
?
?
彼
彼
?
?
彼
?
彼
彼
彼
彼
?
?
2人が主人公のラブストーリーは続いていく
誰かに想われ、誰かに嫉妬されていたことに
2人は気付かないままで