夜の空気がわずかに揺れた。それだけで分かった。来ている。
るなはそっと空へ羽を広げ風の音さえ消すように静かに高く飛ぶ。
下には鬼殺隊。まだこちらに気づいていない。
一瞬迷いが胸をかすめる。でも玉壺の言葉が脳裏をよぎった。
感情を理解できていない、だから揺れる。
でもそれが人をもっと苦しめる時だってあるのも知った。
今の私はちゃんと選べる。るなは目を伏せ小さく息を吸う。
月
血鬼術 静奏 終眠 …
囁くように言葉を落とし歌を口ずさむ。
音は広がらず溶けるように夜へ染みていった。
それは旋律というより祈りに近かった。
優しく穏やかで抗えない音。
ひとりが膝をついた。理解できないまま視界が滲み刀を落とす。
鬼殺隊
なに…これ、
声にならない声。次の瞬間隣の者もその隣も同じように崩れた。
意識が沈み思考が止まり抵抗する暇もなく終わりが訪れる。
るなは静かに降り立つ。羽音ひとつ立てず影のように。
全員がもう動かない。胸の奥がざわつく。
でも以前のような震えはなかった。
――できた。迷わず確実に。空を見上げる。
月は何も語らず光っている。るなはもう一度羽を広げ夜へ戻った。
その背中には確かに“鬼”としての覚悟が宿っていた。
月
…おやすみ






