場所が変わると同時に、相手方の絵本の情報が流れ込んでくる。
一宮
(あっちの絵本はシンデレラ。話のボリュームもそこそこあるし、ストーリーも組みやすい)

これまで何度かバトルを経験してきて、幾つか分かったことがある。
まず、所有している絵本によって、バトルの展開に有利に働く場合と、不利に働く場合があること。
一宮の桃太郎はまだいい方だが、それこそ四ツ谷の金太郎となると、話自体のボリュームがないため、ストーリーが組みにくい。
そう言う点で考えれば、シンデレラはかなりのバリエーションをつけることのできる絵本と言えよう。
九条
改めまして、僕は九条です。

九条
この状況で、すでにお察しかと思いますが、絵本の所有者になります。

九条
今日は伍代という馬鹿がお世話になったかと思います。

一宮
あいつなら、俺じゃなくて四ツ谷って男と一緒だ。残念だったな。

九条
残念?

九条
いえ、むしろあんなやつの顔見たくないので、ラッキーです。

九条
四ツ谷さん……ということは、うちの二ツ木が会いに行ってると思います。

九条
はっきり言って彼女は強い。

九条
多分きっと、四ツ谷さんという方とは、会うこともないんだろうなぁ。

九条
まぁ、僕もそこそこやるんですけど、ここで一宮さんに提案があります。

九条
僕達、徹底的に一宮さん達を潰そうと思ってるんですけどね、もしここで一宮さんが絵本を譲ってくれるのであれば――手を引いてもいいと僕は考えています。

九条
僕達の目的は、あくまでもあなた方の持っている絵本であって、少なくとも僕はあなた達の命に興味はありません。

九条
冷たいようですが、あなたが死のうが生きようが関係ないのです。

一宮
四ツ谷のところにも刺客が?

一宮
でも、あんまりあいつを舐めてかからないほうがいい。

一宮
あの男だって充分に強い。

一宮
逆にそっちのお仲間が返り討ちにあうかもな。

九条
仲間?

九条
仲間なんていませんよ。

九条
ただ、同じ目的を持っているというだけで、僕は彼女に対してそれ以上の感情は抱かないし、それ以下の感情も抱きません。

九条
ただ、お互いに都合が良いからそうしているだけであって、だから僕は彼女が負けようが、最悪死んでしまおうが、全然構わないんです。

九条
まぁ、もちろんまるでコミニケーションを取らないわけではありませんが、僕としては相手と円滑なやり取りをしたいだけであって、仲良くなろうという気はありません。

一宮
(こいつ、本気で言ってるのかよ……)

九条
それで、どうされますか?

九条
僕と勝負をして、わざと負けてくれれば命の保証はします。

九条
あなたは私に絵本を譲渡し、普通の生活に戻るんですよ。

九条
いや、ここまで素晴らしい提案があります?

九条
あなたは日常の生活に戻ることができる。

九条
僕は絵本を手に入れることができる。

九条
絵本を手に入れてから、色々と大変なんじゃないですか?

九条
次から次へと、絵本を狙われて。

九条
そろそろ、面倒な生活はやめて、元の生活に戻られたら?

一宮
確かに、絵本を手に取るまでは、平凡なサラリーマンだったよ。

一宮
もちろん、元の生活に戻れるのであれば、それに越したことはないさ。

一宮
でも、こういった絵本があることを知ってしまった以上、そして力を貸して欲しいとお願いした仲間がいる以上、俺はここで逃げ出すわけにはいかない。

九条
そうですか。

九条
ならば、四ツ谷さんという方は完膚なきまでに叩き潰されるでしょうね。

九条
その次は――えっと、七星さんでしたっけ?

九条
僕の提案を聞いておけば良かったと思う日が、いずれ来ると思いますよ。

一宮
お前達の好きにはさせない。

一宮
ここで俺が勝てば問題ないだろ?

九条
まさか、僕に勝てるとでも思ってます?

九条
まぁ、いいでしょう。

九条
今回行うのは――ダウト戦です。

一宮
ダウト戦?

九条
ルールはいたってシンプルです。

九条
お互い、相手に踏ませたいストーリーをセットする……までは、これまでのやり方と変わりません。

九条
本来なら自分の仕掛けたストーリーを相手に踏ませれば勝ちなのですが、それに加えて――相手の仕掛けたストーリーをダウトすることでも勝ちとなります。

九条
相手を踏ませたいストーリーに露骨に誘導しようとすると、逆にダウトされるかもしれない。

九条
勝利に近づくにつれて、敗北のリスクも高くなるゲームです。

九条
ちなみに、ダウトが可能なのはお互いに3回まで。
3回ダウトをして決着がつかなかった時は、ダウトなしで戦わねばなりません。

一宮
自分のストーリーを踏ませるか、相手のストーリーを見破れば勝ちってことか。

九条
その通りです。

九条
下手なストーリーを組んでしまうと、一発でダウトされてしまうかもしれませんね。

一宮
(本来なら踏ませなければならないストーリーを、相手に看破されないように展開させる必要があるってことか)

一宮
いいだろう。

一宮
受けて立つ。

一宮が戦う意志を示したからか、気がつくと絵本が辺りを浮遊していた。
九条
僕の【シンデレラ】は、分かりやすさを重視した日本のお伽話とはわけが違いますよ……。

九条
ストーリーセット!

一宮
ストーリーセット!

一宮
絶対に勝つ!

一宮
(だから四ツ谷、どうか無事でいてくれ)
