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仕事の説明を終えた僕は

百さんに紅茶を入れるため ティーポットを持ってくる

来夢

今説明した中で

来夢

不明な点は
ありますか?

いえ

とても
分かりやすかったです

…………って

お待ちください!

終始穏やかだった百さんが 初めて慌てた様子で声を張る

来夢

はい?

体調が悪くて
僕を呼んだのでしょう?

お茶は結構ですから
休んでくださいませ来夢様

制止するように腕を抑えられる

軽く触れているはずなのに ティーポットを持った僕の手はビクとも しない

ち、力強っ…

来夢

そ、そういう訳にはいきませんよ、お客様ですし

そうは言っても僕も
仕事をしに来ているわけで…

百さんは僕の腕を掴んだまま 正面に回り込み

まるで主人に使える従者のように 片膝を付いてしゃがみ、諭すように続ける

……

来夢様のように優雅な方の入れる紅茶はさぞ本格的で美味しいものなのでしょう

来夢

え、あ……

しかしながら

来夢様は体調不良でいらっしゃいます

もし差し支えなければ
次また来た時にでもご馳走して頂けませんか?

来夢

えと……それは……

来夢

もちろんなのですが…

先程まで顔もみられないほど 恥ずかしがっていた青年とは違う

柔らかく目を細め真っ直ぐ僕を見つめる

そんな風に言われたら反論できない

…………あれ

僕の見ながら答えを待っていた百さんは

何かに気づいたように小さな声を漏らす

来夢

え…

その声に僕が反応しかけた時

愛衣

お邪魔しまーす

図書館の正面ドアが開き聞きなれた声が エントランスに響く

ずっと聞きたかった、恋しかったその声に 思わず少し涙腺が緩む

来夢

愛衣ちゃん……!

お客様ですか……?

来夢

僕の彼女です

えっ

来夢

あっ

すごく自然な流れで百さんに話した後 「しまった!」と顔を背ける

愛衣

愛衣

なにをしてるんですか?

僕が迎えに行くよりも早く

愛衣ちゃんはいつの間にか 部屋の入口に立っていた

ティーポットを持ったまま呆けている僕と

片膝をついて僕の手を握っている百さん

これは

勘違いされそうである……

愛衣

なるほど……

愛衣

そういう事だったのですね

愛衣ちゃんは僕の話を全て聞き終えると

「誤解とかは別にしていませんからね!」 と明るく付け加える

愛衣

百さんって言うんですね

愛衣

はじめまして

こちらこそ

変な場面をお見せしてしまい申し訳ございません

愛衣

お気になさらず!

愛衣

来夢くん、こういう時
頑固ですからね〜

来夢

うっ

彼女には僕の全てを見透かされているよう な気がしてぐうの音も出ない

愛衣

百さんにお仕事を教えたのでしょう?

愛衣

来夢くんは部屋に行った行った!

来夢

や、でも

正直

愛衣ちゃんが来てくれたというのにという 後ろ髪を引かれる思い

そして百さんと2人きりにしてしまうという ジェラシーで(小声)

僕はもう少し居座ろうと 愛衣ちゃんの背中を押す手に抵抗する

来夢

せっかく愛衣ちゃんが
来てくれましたし……

愛衣

ダメですっ!

愛衣

ただでさえ普段から激務なのに!

愛衣

それに私も手伝いますから

来夢

うう……

それがちょっと嫌なんだって……と 心の中で呟く

その時

あの

愛衣様は来夢様のお傍に
居てあげてくださいませ

思わぬところから助け舟

愛衣

えっ……でも

僕は大丈夫ですから
仕事も覚えましたし

それに

百さんは僕に向き直る

来夢様

悪夢を見たでしょう?

来夢

えっ

来夢

どうしてそれを

悪夢の話は留宇にしかしていない

留宇が百さんに話したことも考えられるが

百さんが「体調不良」と表現していることからその線は薄そうだ

百さんは僕と愛衣ちゃんに座るよう促すと 話し出す

夢属性ってご存知ですか?

愛衣

夢属性?

来夢

えっ……

来夢

本で読んだことがあります

来夢

非常に珍しい属性だと
記憶しているのですが

その通りで御座います

僕はその夢属性なんです

来夢

……!

愛衣

すごい属性なんですか?

愛衣ちゃんは異能力や魔法にほとんど 触れてこなかった人だ

それでも

僕や留宇達ひまわりーずが 能力者である事を不思議なほどすんなりと 受け入れる柔軟な感性を持っている

今だって「気になって仕方がない」という キラキラした目線を僕に向けている

こんな所も僕が愛衣ちゃんに惹かれた 理由のひとつなのだろう

来夢

夢属性は世界でも20人程度

来夢

日本には3人と
言われている属性です

愛衣

そんなに珍しいんですか…!

来夢

僕の記憶だと

来夢

他人の夢に入り込み
夢を操る力を持つそうです

僕の話を聞いて百さんは驚いたように 目を見開いて僕を見つめる

お詳しいんですね

加えて僕は夢に入らずとも他人の見た夢が見えるのです

来夢

夢が……見える…

血の気が引くのを感じた

人の夢を見ることが出来 更に人の夢を自在に操作することも可能

つまり人の潜在的なトラウマを覗き見て 利用することもできるということ

来夢

僕の夢も……
見えてるんですか……

昨夜の夢を思い出し足がすくむ

愛衣

来夢くん……?

僕の様子を見た愛衣ちゃんが 心配そうに顔を覗き込む

体が震え冷や汗が止まらない

これは……まずいかも……

そう思った時

大丈夫

落ち着いてくださいませ

百さんのひとまわり大きな手が 僕の手を包む

そのじんわりと伝わる温かさに 少し意識が引き戻された気がした

恐らく直近で見た夢と

僕の能力について
良くない利用をされる事を
考えたと予想します

百さんは、夢属性特有の渦を巻いた様な 瞳を真っ直ぐ僕に向ける

ですが来夢様

その逆もしかり……
でございます

来夢

逆……

回りくどい言い方をしてしまいましたね…すみません

来夢様の悪夢は僕がいただきます

その代わりに安らかな夢を
お見せすると約束しましょう

来夢

あ……

僕としたことが

悪夢に引きずられ 思考まで沈んでしまっていたようだ

恐らく留宇は僕の夢の話を聞いて 他の誰でもない百さんが最適だと判断したのだろう

信頼している友人の信頼する人を 疑ってしまった

そんな罪悪感で百さんから目を逸らす

来夢様

初対面の人間を信用しろという方が難しい話でしょう

来夢

すみません……

来夢

本当に……

どうか謝らないでくださいませ

悪夢というものは現実でも
思考や精神を沈ませるもの

百さんは上着の内ポケットから キセルを取り出す

本物の煙草ではなく
僕の能力道具です

本日はゆっくり
おやすみなさいませ

お香のような優しく懐かしい

不思議な香りが強烈な眠気を誘う

来夢

愛衣ちゃん……すみません

来夢

また……

愛衣

来夢くん

愛衣

ゆっくり休んでくださいね

愛衣ちゃんの優しい声を最後に

僕の意識は途切れた

……では

愛衣さん、あとは
頼みましたよ

愛衣

わかりました

愛衣

任せてください!

とても心が温まる夢を見た

彼女と初めて出会った日のこと

好きな本について語り合ったこと

お互いの気持ちを確かめあった日のこと

そして

未来の僕が望む日々のこと

来夢

来夢

今すごく幸せなんだ

過去には嫌な記憶も沢山ある

けれど

それが愛衣ちゃんと出会うための試練だと言うのなら

そんな過去なんて余裕でチャラに出来るくらい

僕は幸せなんだ

憂鬱な気持ちが解けていくのを感じると同時に、どこからか百さんの囁く声がする

もう大丈夫

あとは疲れが取れるまで
ゆっくりお休みなさいませ

来夢様の悪夢
ご馳走様でした

バリバリバリ……

来夢

う…………ん……

遠ざかっていく聞きなれない バイクの排気音で目を覚ます

愛衣

あっ!来夢くん!

愛衣

起きたんですね!

来夢

愛衣ちゃん……!?

来夢

まだ居てくれてたんですか!?

愛衣

当たり前じゃないですか

愛衣

来夢くんが元気になるまで居座るつもりでしたよ!

来夢

えぅ……

寝起きのせいか何ともカッコつかない マヌケな返事をしてしまう

窓の外を見ると既に日は沈んでおり

木々の間から三日月が覗いていた

来夢

今何時でしょうか…

愛衣

5時くらいでしょうか…

寝る前まであれほど重かった気持ちが

まるで元から無かったかのようにスッキリしていた

来夢

そんな長い間寝ていたんですね……

愛衣

あっ丁度紅茶をいれたので
飲みませんか?

愛衣

百さんからクリスマスアールグレイをいただいたんです!

来夢

えっ…百さんが?

ベルガモットと柑橘の優しくフルーティな香りが鼻をくすぐる

来夢

良いですね

愛衣

すごくいい香りなんです!

愛衣

私も一緒にいただいても?

来夢

もちろんです

来夢

もう夕食も近いですが
お菓子も用意しましょうか

そう言いながらベッドから足を下ろすと

愛衣

そう言うと思って蛍さんから貰ってきたんです♪

来夢

ふふ

来夢

以心伝心ってやつですね

じゃじゃ〜ん!と大袈裟にクッキー缶を掲げる彼女に

思わず笑みが零れる

愛衣

明日は…その……

愛衣

大丈夫ですか?

来夢

ええ

来夢

この通り元気になりました

来夢

ご心配をおかけしました

愛衣

よかった……!

カップを用意し終えた愛衣ちゃんは ベッド脇の椅子に座りかけて

何かを思い出したように立ち上がった

愛衣

百さんからこれを預かっていたんです

4つ折りのルーズリーフを受け取り 中を見る

そこには達筆な字で百さんからの気遣いと

電話番号、メッセージのIDが書かれていた

来夢

今度こそお礼をしなくてはですね……

来夢様

ろくにご挨拶せず帰ってしまい 申し訳ございません

来館人数……〇〇人 貸出……〇〇〇冊 返却……〇〇冊 内訳は管理台帳をご確認ください

体調はいかがでしょうか

来夢様の悪夢をいただき、幸せな夢に 書き換えさせていただきました

本当に愛衣様の事を大切に思っていらっしゃるのですね。 とても微笑ましく思います。

紅茶がお好きとの事でしたので 丁度先日購入したクリスマスアールグレイを置いていきます。

ひまわり依頼所の紅茶好きの仲間からオススメされたものですので、お口に合うと幸いです。

いつか来夢様のいれた紅茶もいただきたいですね^_^

僕がお役に立てることがあれば いつでも遠慮なく呼び出してください。

来夢様の夢に 幸多からんことを

百済 百

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