芥子菜 未来
芥子菜 未来(からしな みらい)は深い眠りから覚めた。
辺り一面真っ白な世界で暖かく柔らかな空気に包まれながら、
未来は上体をそっと起こし、つい先ほどまでドップリ沈んでいた、
衝撃的な悪夢を思い返し、僅かに体を震わせた。
芥子菜 未来
純白の清潔なシーツと枕。
消毒薬の匂いが微かに漂うベッド。
そこで眠っていた学ラン姿の自分。
芥子菜 未来
よくよく考えればおかしなシチュエーションに気づき、
未来は唾を飲み込み、周囲に目線を走らせた。
すると、澄んだ大きな瞳が印象的な少女と視線が交わった。
???
少女は柔らかく微笑み、未来との距離を詰めた。
そしてベッド脇に備え付けられている、
簡素なキャビネットに置かれていたリモコンを手にし、
壁掛けディスプレイに向けた。
瞬間、あの女の顔がドアップで映し出された。
そう…。
『引きこもり対策室室長』を名乗る、梔子 六花(くちなし ろっか)の顔が。
梔子 六花
梔子 六花
梔子 六花
都心を思わせるビジネス街にある、どこかのビル。
その屋上で、広報アドバルーンを背に六花がマイクを手にしている。
アドバルーンには『目指そう!引きこもりゼロ社会!』の文字と、
クマかタヌキを思わせる、センスのないユルキャラが描かれている。
芥子菜 未来
梔子 六花
梔子 六花
梔子 六花
芥子菜 未来
芥子菜 未来
未来はシーツを蹴飛ばし、黒革のローファーに足を突っ込んだ。
そして、よろけながら壁という壁に手を這わせた。
芥子菜 未来
3面を白い壁で、そして1面を嫌味なぐらい純白のスライドドアで囲んだ部屋。
その全ての壁を確かめ、ドアを乱暴に開いた。
しかし、ドアの向こうに広がっていたのは、
シャッターで封鎖された窓が並ぶ、白壁の廊下だった。
芥子菜 未来
芥子菜 未来
???
ひとり無様に戸惑う未来を、静かに見守っていた少女が口を開く。
コミュニケーション下手な未来は、声も出せずただ首を上下させた。
芥子菜 未来
脂汗を額に滲ませ、絞り出すように尋ねる。
だが、少女は柔和な表情を崩さない。
それどころか未来の手を華奢な指で包み込み、
敵意がないことを伝えるかのように微笑んだ。
明日葉 芹
明日葉 芹
芥子菜 未来
明日葉 芹
芹(せり)と名乗った少女は、唇から白い歯を覗かせながら、
ベッドのパイプにぶら下がっているネームプレートを指差した。
そこには未来の名前、年齢、血液型や家族構成、
引きこもり年数等の個人情報が記載されていた。
明日葉 芹
明日葉 芹
芥子菜 未来
芥子菜 未来
芥子菜 未来
状況さえ違えば人懐こさと愛らしさに惹かれかもしれないが、
今この状況では気味の悪さが先行し、サイコパスなのでは?と疑ってしまう。
が…そんな未来の心理を読み取ったのか、
芹は不意に表情を引き締めた。
そして、秘め事でも語るみたいに声を潜めた。
明日葉 芹
明日葉 芹
明日葉 芹
芥子菜 未来
芥子菜 未来
芥子菜 未来
明日葉 芹
芥子菜 未来
明日葉 芹
明日葉 芹
明日葉 芹
芥子菜 未来
明日葉 芹
明日葉 芹
芥子菜 未来
明日葉 芹
芹は廊下に立つ人影に視線を向け、
親しい友人を見つけた時のように相好を崩した。
だが、芹の瞳に映る人物を認めた未来は、
目を見開き、唇を戦慄かせた。
紙袋
紙袋
なぜなら、自分を看ていたという少女が、
頭に紙袋をかぶっていたから。
芥子菜 未来
明日葉 芹
芥子菜 未来
紙袋
明日葉 芹
明日葉 芹
明日葉 芹
紙袋
紙袋
紙袋
芥子菜 未来
そう言いかけて口ごもる。
なぜなら実際に体験したから。
容赦なく人の命を奪う悪魔の所業を。
芥子菜 未来
芥子菜 未来
醜態をさらし、所構わず喚き散らしたくなる。
だが、そんな未来の感情を煽るみたいに…。
キーンコーンカーンコーン…。
ノイズ交じりの始業ベルが鳴り響いた。
明日葉 芹
芥子菜 未来
紙袋
紙袋
芥子菜 未来
5日のブランクと5日のアドバンテージか、
すっかり環境に順応している芹と紙袋に圧倒され、
未来は惨めに吠えることしかできずにいた。
と──その時。
???
黒髪に白メッシュを入れた少年が、廊下を横切った。
それに続き、学ランやブレザーを着た少年少女が、
正体不明の施設内にある部屋の扉を開き続々と姿を見せた。
芥子菜 未来
プログラム参加少女
プログラム参加少年
芥子菜 未来
自分と似た後ろ向き思考の少年少女を見かけ、
安堵の息を吐く自分が嫌になるが、これが自分なのだから仕方がない。
そんなことを考えていた、次の瞬間。
梔子 六花
梔子 六花
ハンドメガホンを持った六花が現れ、
無感情な眼差しを未来達に浴びせた。
梔子 六花
梔子 六花
芥子菜 未来
芥子菜 未来
梔子 六花
梔子 六花
梔子 六花
芥子菜 未来
芥子菜 未来
芥子菜 未来
芥子菜 未来
腸が煮えくり返る程の怒りが血液をたぎらせる。
未来は奥歯を軋ませながら、生き残り必ず復讐することを、
ドス黒い腹の底で誓うのだった。