テラーノベル
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新曲を出すたびにチャートの頂点を塗り替え、街を歩けば自分たちのポスターが溢れている。目黒蓮は、かつて泥の中にいた自分を忘れてしまうほど、眩しい光の中にいた。
照
蓮
岩本の声に、蓮は一瞬の空白を置いて返事をした。 最近、脳の奥に霧が立ち込めるような感覚がある。言葉が耳に届いてから、その意味を理解するまでに数秒のラグが生じるのだ。
疲れてるだけだ。寝れば治る
自分にそう言い聞かせ、蓮は鏡に向き直った。しかし、昨日まで何百回と繰り返してきたはずのステップが、突然「知らない動き」に見える。
足の運び方、腕の角度。砂時計から砂が零れ落ちるように、自分の中から大切な何かが失われていく恐怖。
翔太
翔太がタオルを首にかけながら近づいてくる。その鋭い瞳に見透かされそうで、蓮は慌てて顔を背け、無理やり口角を上げた。
蓮
翔太
翔太は納得いかない表情を見せたが、それ以上は踏み込んでこなかった。
蓮は胸を撫で下ろす。
メンバーには絶対に知られてはいけない。
この最強の9人から、欠陥品として排除されることだけは、死ぬよりも怖かった。
だが、、、
異変は、より深刻な形で現れ始めた。
ある日のバラエティ番組の収録前。楽屋で台本を読んでいた蓮は、隣に座ったメンバーを見て、心臓が止まりそうになった。
……え?
そこにいるのは、いつも一緒に笑っているはずの仲間だ。 オレンジ色の服を着た、明るい彼。
……名前が、出てこない。
真都
蓮
向井康二。そうだ、康二だ。 脳内の引き出しを力任せにこじ開けて、ようやくその名に辿り着く。
冷や汗が背中を伝う。一秒前まで、自分にとって家族同然の男が「知らない誰か」に見えたのだ。
(主)夜です。
その夜、蓮は一人で夜間診療の病院を訪れた。
薄暗い診察室。医師が提示したレントゲン写真には、彼の脳の奥深く、神経を圧迫するように居座る大きな影が映っていた。
医者
医師の言葉が、遠くの方で鳴っている鐘の音のように聞こえた。
蓮
医者
蓮
病院の帰り道
蓮
蓮
蓮はあの日、みんなで叫んだ言葉を呟いた。 でも、今の俺は、みんなの「最強」を壊す足枷でしかない。
ある日の午後。雑誌の撮影現場でのことだ。
カメラマン
カメラマンの明るい声がスタジオに響く。
蓮
蓮の思考が、ふっと白く濁った。数万人を前に、全身全霊で踊りきったはずの光景が、まるで他人の夢を覗き見ているかのように遠い。
翔太
隣にいた渡辺翔太が、訝しげに蓮の顔を覗き込んだ。 その瞬間、蓮の脳内で不協和音が鳴り響いた。
……え?
目の前にいる、肌の綺麗な、涼しげな瞳をした男。
知っている。間違いなく、俺にとって世界で一番大切な人だ。なのに、その「名前」というラベルだけが、どこを探しても見当たらない。
蓮
蓮の口から、冷たい言葉がこぼれ落ちた。 スタジオの空気が凍りつく。翔太の瞳が、見たこともないほど大きく見開かれた。
翔太
翔太の喉が、引き攣るように動く。 その恐怖に満ちた表情を見た瞬間、蓮の脳の奥で、カチリとパズルのピースが噛み合った。
……翔太くん。渡辺翔太だ。俺、今、なんてことを——
蓮
蓮は無理やり喉を鳴らして笑った。背中には、氷水を浴びせられたような冷や汗が流れている。
翔太
翔太は顔を真っ赤にして怒鳴ったが、その手は微かに震えていた。
蓮
蓮は必死に笑い続けた。心臓が痛いほど脈打っている。自分でも気づかないうちに、一線を超えてしまった。
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コメント
2件
うわ……第5話、読んでて胸が締め付けられました。脳腫瘍の診断を受けた後の蓮くんの「治るんですか」って問いかけ、医師の返答に対して「そうですか、、笑」と笑うところが、何よりも辛かったです。あの笑顔の裏にある諦めと恐怖、そして「ここしか居場所がない」という葛藤。もしかするとこの世界観、「アイドルであること」と「人間として生きること」の板挟みを描こうとしてるのかな、と思いました。翔太くんを忘れてしまうラストの展開、ゾッとしました……続きが気になる。