柚
…
日向
柚。
柚
日向…
日向
今日退院だろ?
柚
うん…
日向
柚?
柚
日向…あのね?…考えてみたら、
怖くなっちゃった。
怖くなっちゃった。
日向
何が?
柚
…30年後でも…明日でも…"いつか"
あたし達はいなくなるんだよね。
あたし達はいなくなるんだよね。
日向
…そうだな
柚
いつかいつかって思ってても…今日や
明日になると絶望を感じる。"いつか"
死ぬって分かってても、どうして人間
は人間であることに…人間として宇宙
に生まれおちたことに、絶望しないで
生きてるのかな…?
明日になると絶望を感じる。"いつか"
死ぬって分かってても、どうして人間
は人間であることに…人間として宇宙
に生まれおちたことに、絶望しないで
生きてるのかな…?
夜空に瞬く星野のうち… たった一つだけが一瞬、 きらりと光った。 そう。 ーーーーーーその答えは… 君が教えてくれた。
柚
日向…?
日向
…ッ…守りたいものが、あるから
じゃねえの?
じゃねえの?
ギュッ
柚
ひな…た?
気がつけば俺は抱きしめていた。 今はもう夜で… 夜風にサラ…と揺れる柚の髪は、 かすかに温かくて、 いい匂いがした。
柚
ッ…
日向
いーじゃん。明日死んでも。多分また
"いつか"…この気まぐれな宇宙に、
堕とされるから
"いつか"…この気まぐれな宇宙に、
堕とされるから
そのときは種さえ、 違うかもしれない。 国籍も性別も何もかも全て。 また会える。 その可能性はきっと、 計り知れないほど、 わずかなものに、 決まってる。仕方ない。 そういうもんなんだから。 …だからこそ余計に、 今を幸せに感じる。 この地球という名の星に。 この時代に。この場所に。 この足持ち名前を持ち。 かけがえのない、 ものに出会い。 かけがえのない、 ものに出会ったことを。 …どんな絶望の波に、 飲まれそうになっても。 それだけは後悔しないから。
柚
日向…
きっと人は死や喪失に、 直面して初めて、 生きるということは、 どんなことなのかを知るんだな。 後幸福はどんなに、 暖かいものなのかを。
柚
今日は泊まるの?
日向
あぁ。
柚
あっという間に夜だね。
日向
結局一日延ばしてもらったもんな。
柚
うん。
柚
消灯したね。
日向
あぁ。
柚
明日も早いから、よく休んでね
日向
ん。…おやすみ
柚
おやすみぃ〜
暗闇の中で聞く柚の声は、 いつも以上に愛しく温かった。 …柚が眠った後、 俺はしばらく夜空を眺め続けて、 流れ星を待っていた。
ーーーーーー今なら。 君は何を願いますか?