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約束の日 私はいつもより少し時間をかけてメイクをした。
髪も丁寧にセットして 鏡の前で服を何度もチェックする。
千夏
千夏
普段の私より、ほんの少しだけ大人っぽい格好。
冬馬の隣に並んでも恥ずかしくないように。
待ち合わせの駅に着くと、冬馬はすでに待っていた。
冬馬
軽く口角を上げながら、私を見て言う。
千夏
照れを隠しながらそう返すと 冬馬は楽しそうに笑った。
冬馬
その言葉だけで、体温が少し上がる。
連れて行かれたのは、落ち着いた雰囲気のバー。
冬馬
グラスを軽く揺らしながら、冬馬が尋ねる。
千夏
冬馬
千夏
冬馬
冬馬は意味ありげに笑って 私のグラスに自分のグラスを軽く当てた。
冬馬
冬馬
心臓が跳ねる。
この人、こんな簡単に『好き』なんて言うんだ。
なのに、嫌な気持ちにはならない。
むしろ、心がふわふわと浮いていくような感覚。
お酒のせい? それとも——。
その夜、私は完全に冬馬に落ちた。
それから、冬馬とは頻繁に会うようになった。
呼ばれたらすぐに行って 隣にいるだけで幸せだった。
冬馬
千夏
千夏
冬馬が誘えば、私は必ず頷いた。
でも、それが当たり前になったころ。 私はふと、不安になった。
——冬馬にとって、私は何なんだろう?
恋人? それとも、ただの遊び相手?
聞きたいのに、聞けなかった。
だって、もし違うって言われたら 私はもう冬馬のそばにいられなくなる。
だから、見ないふりをした。
でも、本当は気づいていた。
冬馬のスマホに届く、知らない女の名前。
どこかよそよそしい態度の日があること。
全部、気づいていたのに。
それでも私は、冬馬のそばにいたかった。
もう、抜け出せない。
彼の言葉一つで喜んで 傷つけられても手を離せない。
これが恋なら、私はきっと間違っている。
でも、どうしてもやめられなかった——。
そんなある日。
真尋
バイト先のカフェで シフトが被るようになった真尋(まひろ) が声をかけてきた。
千夏
最近、新しく入った大学生の男の子。
年齢は同じだけど どこか年下っぽい無邪気な笑顔が印象的だった。
真尋
千夏
真尋
笑顔でそう言われて、思わず目を逸らした。
冬馬にはそんなふうに言われたことがない。
冬馬は私を可愛いとは言うけど 頼りにしてくれることはなかった。
真尋は、誰に対しても分け隔てなく優しい人だった。
真尋
冬馬の『おいで』とは違う 当たり前のような気遣い。
それが心地よくて 最近はバイトに行くのが少し楽しみになっていた。
そんなある日
仕事終わりに真尋と一緒に帰ることになった。
真尋
思わぬ質問に、足が止まる。
千夏
真尋
真尋
真尋
答えようとして、喉が詰まる。
冬馬は彼氏——なの?
ちゃんと付き合おうなんて言われたことはない。
でも、彼のそばにいたいと思って、何も聞けなくて。
千夏
千夏
気づいたら、そんなふうに答えていた。
すると、真尋はほっとしたように笑った。
真尋
真尋
真尋
千夏
真尋
真尋
冗談めかして言いながら、真尋は前を歩いていく。
でも、その言葉がなぜか胸に残った。
——私は、冬馬にとっても『いい子』なんだろうか?
それとも、ただの都合のいい女?
そんなことを考えてしまう自分に 少しだけ自己嫌悪した。
でも、それ以上に。
真尋の言葉が、優しくて温かくて。
私は、少しだけ救われた気がした。