雨の夜だった。
車のワイパーが忙しなく動く音の中、助手席の星野恵梨は何度もため息をついた。
星野恵梨
星野恵梨
隣の男――白川琉叶は、ぼんやりと窓の外を見つめながら言った。
白川琉叶
星野恵梨
恵梨が呟いたとき、車はゆっくりと止まった。
フロントガラス越しに見えるのは、霧に包まれた古びた館。
重たい鉄の門と濡れた石畳。どこか、不吉な匂いがした。
琉叶が傘をさして玄関のドアをノックすると、中から出てきたのは一人の女性だった。
白いドレスを着たその人は、涙の跡を残したまま、震える声で言った。
望月杏南
案内されて入った館の中は静かで、時計の針の音だけが響いていた。
彼女はリビングの椅子に腰を下ろし、両手を強く握りしめた。
望月杏南
望月杏南
琉叶は、少し首を傾げた。
白川琉叶
白川琉叶
二階の一番奥の部屋。
厚いカーペットの上に、男が倒れていた。
望月舞呂――杏南の兄だという。
額に銃痕、机の上には一発だけ弾の抜けた拳銃。
鍵は内側に刺さったまま、窓には鉄格子。
外からの侵入は不可能。まさに密室。
恵梨がつぶやく。
星野恵梨
白川琉叶
琉叶はしゃがみ込み、机の上の紅茶カップを見た。
飲みかけの紅茶の表面に、薄く油が浮いている。
星野恵梨
と恵梨。
白川琉叶
琉叶はカップの持ち手を指差した。
白川琉叶
杏南が小さく頷いた。
望月杏南
白川琉叶
琉叶は部屋をゆっくり見回した。
そして一枚の絵に目を留めた。
壁に掛けられた「女の肖像画」。
白川琉叶
望月杏南
琉叶は絵の裏に手を伸ばした。
額縁の角を押すと、小さな金属音が鳴った。
――カチリ。
その瞬間、机の引き出しがわずかに開く。
中から小さな金属の筒が転がり出た。
白川琉叶
琉叶は微笑む。
白川琉叶
白川琉叶
白川琉叶
杏南が顔をこわばらせた。
望月杏南
白川琉叶
琉叶の視線が再び、“女の肖像”に向く。
白川琉叶
白川琉叶
静寂。
恵梨がごくりと唾をのむ。
星野恵梨
琉叶はゆっくり立ち上がり、微笑んだ。
白川琉叶
杏南の表情が凍りつく。
望月杏南
白川琉叶
白川琉叶
白川琉叶
長い沈黙ののち、杏南はゆっくりと笑った。
涙が頬を伝う。
望月杏南
そのまま彼女は、静かに両手を差し出した。
館を出たあと、夜明けの風が吹いた。
恵梨が黙ったまま歩いている琉叶に言う。
星野恵梨
白川琉叶
琉叶はそう言って、空を見上げた。
白川琉叶
雨が上がり、朝日が薄く差し込む。
そして次の事件の予感を残して、二人は街へと戻っていった。
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