ソウヤが死んだ
一瞬の出来事だった
信じられない
信じたくない
だが、現実は無常だ
恐らくあの時のソウヤは即死だった
目も当てられないような姿に一瞬で変貌した
俺はあの時、あまりの衝撃で意識が朦朧とした
その時ルカがやって来て、俺とソウヤを抱え上げて
何処かへと逃げるかのようにルカは走った
楽園
かつて此処は、そんな風に呼ばれた事もあったらしい
今の有様を見るに、到底思えないけどね
『エルカディア』
自称世界最強国家とかいう……ふざけた場所
島全体は約50メートル程の高い壁で囲われている
その中でも更に国民の住む場所は分けられている
上級国民の住む「セニア」中級国民の住む「ジェネラル」下民の住む「ガビッジ」
セニアの人間は毎日遊び呆け、この国の政治をする権利を持つ
ジェネラルの人間は生まれた瞬間から上級国民を守る義務が与えられる
待遇はセニアよりは劣るが、楽な生活さ
ガビッジの人間に人権は無い
殺されようが、過酷な労働を強いられようが、苦言を呈する事は許されない
中級国民はいくら下民に暴力を振るったって裁かれない
ほんと、最低な自称最強国家さんだよ
で、こんな生活を強いられる下民は勿論反乱を起こそうとしたり……
この国からの脱出を試みようとする
まあ、そんな事到底不可能だけど
中級兵
シグレ
慣れた手つきでシグレは液晶画面に触れ、監視システムに映り込む人物を確認する
監視システムに映り込む人物をズームする
シグレ
服装などから察するに、ガビッジに住む下民の様に思えた
シグレ
シグレ
中級兵
この俺、シグレは中級兵として主に下民の監視・監視システムの管理を行なっている
この国エルカディアは、島全体を厳重な警備システムで常に監視し続けている
島には約500万個もの監視用カメラが散りばめられており、カメラに映り込んだ人物が不審な動きをした場合、直ちにカメラに付いた監視アラートが作動するシステムとなっている
アラートが反応したカメラを中級兵が調べ、必要に応じて怪しい人物の殺害や監視対象認定を行う
これも全て、セニアの人間を守る為に作られた設備だ
万が一「下民が反乱を起こした場合」このシステムで一斉殺戮を開始する事が可能である
このシステムは国のトップのとある人物の強い希望により、十数年前に導入された
勿論「下民が国からの脱出を図った場合」にもこの機能は作動する
さっき言った「到底不可能」っていうのはこのシステム所為だね
更に、セニアの方の警備はもっと厳重だ
セニアの周りは勿論中級兵にも監視されていて
セニアの近くを下民が通っただけで銃殺される
それ程までに敏感で、厳重な警備になっている
そんな警備を、俺は毎日行なって日々過ごしている
シグレ
シグレ
シグレ
???
唐突に背後から数メートル程離れた場所から声が響く
その瞬間、場の空気がピリつく
直ちにシグレは立ち上がり、声の主の方へと視線を向ける
その他の中級兵も僅か2秒の間に、一斉に声の主へと体を向ける
シグレ含めた中級兵は声の主へと一礼しする
???
シグレ達一向の前に立つ男はピリピリとした空気を発しながら、此方に威圧的な目を向けている
睨まれたら一瞬で石になってしまいそうな程の鋭い視線を此方に向ける
中級兵
フェデラーと呼ばれた男は相変わらず鋭い目つきで此方を見ている
フェデラー
中級兵はびくりと肩を振るわす
フェデラー
フェデラー
フェデラーは冷たくそう言った
フェデラー
フェデラー
フェデラー
場に冷たい空気が流れる
フェデラー
フェデラー
フェデラーはそう言って此方に背を向ける
背からも刺々しい殺気が放たれている
シグレ
シグレ
シグレ
シグレは再び液晶画面に目を向ける
シグレ
シグレ
シグレ
シグレ
シグレ
シグレ
シグレ
シグレ
シグレ
そう言ってシグレは再び液晶画面へと視線を戻した
冷たい雨音で目を覚ました
ミスターレッド
辺りは真っ暗で何も見えない
目を凝らそうが凝らさなかろうが、何も変わらないだろう
レッドは藁でできているであろう、小屋のような場所の下に寝かせられている
一度も見たことの無い場所だった
ミスターレッド
身を起き上がらせ、あたりを見回す
土砂降りの雨でよく見えない
ミスターレッド
頭をポリポリと掻く
その時、手にべっとりとして何かが付着する
ミスターレッド
手に付着したものを確認する
…………赤い
ミスターレッド
ミスターレッド
赤い
ミスターレッド
ミスターレッド
その瞬間、自身が目覚める前の出来事が全て蘇る
ソウヤの身を照らす夕焼け、赤い赤い血飛沫
ミスターレッド
思い出すだけで吐き気がする
中級兵の叫び、目の前で倒れるソウヤ
現実のものとは思えない
ミスターレッド
息が吸えない
苦しい
ミスターレッド
ミスターレッド
ミスターレッド
レッドは地面に顔を伏せ、細々しい声を出す
ミスターレッド
ミスターレッド
ミスターレッド
ミスターレッド
レッドは地面を叩きつける
泥と化した地面がバチャりと音を立てる
レッドを嘲笑うかのように雨音が強くなる
ミスターレッド
ミスターレッド
何度も地面を叩きつける
泥が何度も飛び散る
激しい雨がレッドを叩きつける
ミスターレッド
ミスターレッド
何度も地面を叩きつける
ミスターレッド
ミスターレッド
ミスターレッド
ミスターレッド
声が震え、まともに喋る事もできない
苦しい
ミスターレッド
ミスターレッド
ミスターレッド
ミスターレッド
レッドは自身への怒りを込めて叫んだ
だが、雨音にかき消されてしまう
ミスターレッド
ミスターレッド
レッドは再び腕に顔を埋める
ミスターレッド
ルカ
背後から声がする
もう振り返る気にすらなれなかった
ルカ
ルカ
ルカ
ルカ
ルカ
もう何も話す気力すら湧かなかった
レッドは腕に顔を伏せ続けている
ルカ
ルカ
ルカ
ルカ
ルカ
ルカ
沈黙が走る
激しい雨音が耳を突き刺す
レッドは何の反応も示さない
ルカは再びレッドに声を掛けようとする
だが、レッドの様子を見て
ルカ
そう一言言って、何処かへと歩き出した
体が雨に打たれ続ける
だが、それ以上に自身を打ち付けるのは自責の念
レッドは何度も何度も自身を責め続けた
何度も
何度も
微かな雨音でレッドは目を覚ます
雨が肌を伝う
冷たい
完全に体は冷え切っていた
ミスターレッド
目が腫れている
無意識のうちに泣いていたのだろうか
目を開けるのすら大変なほどに瞼が腫れ上がっていた
レッドの体をポツポツと降る雨が伝う
直線上にひんやりとした雫が肌をつたって落ちていく
目に入り込んだ景色は森だった
今更だが、此処は何処なのだろうか
…………分からない
そんな事すら考える気力が削がれる
ミスターレッド
雨の冷たさを感じ、自身が生きている事を感じる
肌は冷たいが、僅かな温もりも感じる
自身が生きているという事実を突きつける
ミスターレッド
頭が痛む
きっと泣いた所為だろう
ミスターレッド
ミスターレッド
レッドは少し辺りを見回す
ミスターレッド
すると、数メートル程先に小川があるのを見つける
ミスターレッド
レッドは重い体をゆっくりと立ち上がらせ、小川へと歩き始める
小川に着くと手で水を掬い取り、顔にぱちゃりとつける
冷たい
少し………ほんの少しだけスッキリとした
ミスターレッド
もう一度水を汲み取ろうとする
その時、自身の上着がビッチョリと濡れている事に気がつく
ミスターレッド
あまりにビッチョリと濡れていた為、一旦上着を脱ぐ
脱いだ上着を川原に置く
ミスターレッド
先程まで降っていた雨は降り止みつつある
だが、未だ空が曇っていることには変わりない
レッドは再び立ち上がる
その時、何処かから物音がする
ミスターレッド
ミスターレッド
レッドは物音のした方へと視線を向け、その方向へ歩き始める
物音の先には、小さな小さな小屋があった
その小屋の裏で、何者かが何かをしている
レッドは物音を出来るだけ立てぬよう、ゆっくりと近づく
ミスターレッド
物音の正体を確認する
物音を出している人物は、肩をびくりとさせた
此方に気がついた様だ
ミスターレッド
ルカ
ルカは背を向けたまま此方に返事を返す
ミスターレッド
ルカは棒の様な物を使い、地面に穴を掘っている
ルカ
ルカ
その穴は、人1人入る程の大きさに掘られていた
ミスターレッド
ルカ
ルカ
ミスターレッド
暫しの沈黙が走る
ルカは穴を掘り続けている
ルカ
ミスターレッド
ルカ
ルカ
ミスターレッド
ルカ
ルカ
ルカ
ルカ
ルカ
ルカ
ルカ
ルカは言葉に詰まり、何も話さなくなる
ルカ
ルカはもう一度話し始める
ルカ
ルカ
ミスターレッド
ルカ
ルカ
ミスターレッド
ルカ
ルカ
ルカ
ルカ
ルカ
ルカ
ルカ
ミスターレッド
確かにあの時、ソウヤはレッドに礼言った
結果的に、ソウヤは死んでしまった
でも………きっと…
ソウヤは人を守る事ができて幸せだった
それなのに
自身が死ねばよかった
そんな事を思っても良いのだろうか
命を賭けて守ってくれた相手を思うが為に、自分が死ねばよかった
そんな事を思っても良いのだろうか
きっと……それは違う
ミスターレッド
ルカ
ルカ
ルカ
ルカ
ミスターレッド
レッドは真っ直ぐにルカに向き合ってそう言った
自身が今できるせめてもの行為
ルカ
ルカ
ミスターレッド
ルカの指差した方向を見る
そこには、怪我した場所を布で隠されたソウヤの姿があった
レッドはソウヤに近づき、手に触れる
冷たい
自身の冷えた肌とは違った、冷たさ
ソウヤはもう既に居ない現実を突きつける
ルカ
ミスターレッド
ルカ
レッドとルカは息を合わせ、ソウヤを持ち上げる
そして、穴の中へとソウヤを埋葬する
ソウヤの上に土を被せ、その上に石を乗せる
簡易的な墓の様な物を作る
そして墓の上に花を置き、手を合わせる
ミスターレッド
ミスターレッド
ミスターレッド
ミスターレッド
ミスターレッド
ミスターレッド
ミスターレッド
ルカも同様に、手を合わせている
ルカは……何を思っているのだろうか
レッドは先程川原に干しておいた上着を手に取り、再び羽織る
晴れた空の下で干したお陰もあり、多少の汚れはあれど綺麗に乾き切っていた
ミスターレッド
ミスターレッド
先程お墓を建てた場所に立っているルカに語り掛ける
ルカ
ルカ
ルカ
ルカ
ルカは名残惜しそうに墓を見つめている
ルカ
ルカはそう言ってレッドの方へと歩き出す
その時
ある事を思い出したかの様に再び墓の方へと歩き出す
ミスターレッド
ルカ
ルカ
ミスターレッド
ミスターレッド
そう言ってレッドもルカの方へと歩き出す
小屋のドアへと手を掛け、小屋の中へと足を踏み出す
ミスターレッド
ミスターレッド
ルカ
そう言ってルカは部屋の中をぶらぶらと歩き始める
ルカ
ルカ
ルカは部屋の中にある引き出しなどを片っ端から開けている
ミスターレッド
そう言ってレッドも辺りを散策し始める
地面には多少のゴミは落ちているが、綺麗だ
あの廃墟群に比べれば相当マシだろう
その時、一つの紙切れが目につく
ミスターレッド
紙を拾い上げ、紙に何か書いてあるか確認する
ミスターレッド
紙には細かい黒文字がびっしりと書かれていた
その中でも更に一際大きく目立つ太字が目につく
ミスターレッド
コメント
8件
めっちゃ続き気になるんだが! 応援しています! フォロー失礼します!
うああああああああああ え、シグレさん…!! 優しいな😭 それにしても…ソウヤさん亡くなってしまいましたね…… この先どうなるか…