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翌朝。 一同が揃った食卓で、朝食を頂きながら、
弥生
千秋
誇らしげな様子の弥生の隣で、未登録者改め、千秋は緊張しながら頭を下げた。
深山桜
弥生
浄海入道
弥生
桜には得意げに、浄海には不満げに弥生は鼻を鳴らす。
千秋
千秋
弥生
千秋
隣で縮こまる千秋は、ホロリと片目をこする。
弥生
自分より身長の高い彼女を、弥生はまるで妹のようになだめる。
浄海入道
ガブッ
浄海は昨日獲れたスズキの塩焼きに頭からかぶりつく。
弥生
浄海入道
深山桜
お頭をバリバリと噛み砕きながら、浄海はこともなげに話した。
弥生
浄海入道
浄海入道
弥生
浄海入道
大口を叩いて、浄海は小鉢を掴み、傾けて浅漬けを口に放り込む。
深山桜
浄海入道
浄海入道
浄海入道
浄海入道
ヒョイッ バリバリバリ
浄海は弥生の皿から、骨と皮とお頭だけになったスズキを勝手に箸で掴み、一息で口に放り込んでしまう。
弥生
浄海入道
弥生
浄海入道
弥生
千秋
深山桜
2人の諍いを他所に、桜は思案する。
息長姫子
隣の姫子が静かに声をかけてくる。
息長姫子
深山桜
深山桜
深山桜
息長姫子
姫子はぎこちなく頭を下げる。
元から余り威勢が良くない彼女だが、なぜか彼女は、昨日よりどこかしおらしいような雰囲気が漂っていた。
朝食を終えたあと、千秋が皿洗いを申し出た。
千秋
彼女の言葉に甘えて、一行は後片付けを任せる。
深山桜
浄海入道
ゴッ ゴッ ゴッ
浄海は上を向いて口をガバっと開け、食後のドデカミンを、捨てるように喉に流し込む。
深山桜
深山桜
浄海入道
弥生
ガシャガシャ
ドデカミンを飲み干した浄海は、ふすまを開けて何やらゴソゴソやっている。
ドン
浄海入道
大きめのダンボールを取り出し、桜の目の前に置いた。
銃、刃物、鈍器……物々しい武器が、ガラクタのように乱雑に詰め込まれている。
浄海入道
深山桜
ダンボールの中の一つ一つが、どれも容易く人の命を奪うことの出来る凶器……それを理解した桜は、黙って首を振る。
深山桜
浄海入道
深山桜
浄海入道
深山桜
深山桜
浄海入道
ふすまの方に戻った浄海が、一回り小さなダンボールを持ってきて、隣に置いた。
一番上には青のウエストポーチ。 その下には、スタンガンや催涙スプレー、タクティカルペンといった護身用品だった。
浄海入道
深山桜
準備を終えた桜は外に出た。
千秋
弥生
千秋だけでなく、弥生も不安げに見送る。 沈んだ雰囲気の彼女を見るのは、余り覚えがない。
深山桜
息長姫子
息長姫子
深山桜
脳内に響いた姫子の声を、桜は2人に代弁する。 今回、姫子は最初から桜の身体に憑依して戦う予定だ。
だが、Z'feelには佐渡レベルの猛者が数多所属していると浄海から聞かされた。 姫子に任せきりにする訳にはいかないだろう。
深山桜
桜は気合を入れ直す。
少し経って、裏庭に回っていた浄海が、ガシャガシャという物音と共に玄関前に戻ってくる。
浄海入道
ガシャンと置いたのは……2台の自転車。
深山桜
浄海入道
お手製と見られる、頑丈そうな廃材を繋ぎ合わせた大型の無骨な自転車に、浄海はどっこいしょとまたがる。
深山桜
文句は抱けど口には出さずに、桜は隣のシティサイクルにまたがった。
浄海入道
ポキポキと手を鳴らしてから、挨拶も何もなく、その辺に買い物に行くような勢いで、浄海は漕ぎ出す。
あっという間にスピードが乗り、雑草をなぎ倒して草むらを進んでいく。
深山桜
桜も立ち漕ぎで後を追う。
深山桜
弥生
勢い良く手を降る弥生に、桜は手を振り返してから、桜は前を向いた。
隠れ家を出た2人は、自転車で東原中央病院へと向かう。
シャーーーーー……
好景気でたっぷり得られた税金を元に、無駄に整備された綺麗な舗装路を、2人は高速で駆け抜けていく。
ピルロイドに加え、姫子の魂も手伝ってくれるお陰で、漕ぐ足がとても軽い。 桜自身が怖くなってしまう程の速度で、左車線を爆走する。
流石に自動車並みの速度は出ないが、効率で考えれば自転車が一番だった。
途中で三叉路に差し掛かる。 方角的には右に曲がるべきだが、2人は左に曲がる。
出発前に浄海が示した病院までのルートは、やや遠回りしながら、裏路地や無人街を伝って向かうというものだ。
途中で敵の襲撃に会った際、一般市民を巻き込まないように、あえて治安の悪い地域を進む。
生まれも育ちも東原の桜だが、浄海が示したルートのどの区域にも、足を踏み入れたことは一度もなかった。
浄海入道
先を走っていた浄海が、速度を落として桜の自転車に並ぶ。
浄海入道
深山桜
桜は何も話さない。 今にして考えれば、深夜の現実離れした出来事は、夢でも見ていたのではないかと思っていたからだ。
ただ、戦意と妹への想いで揺れていた桜の心が、あの時のやり取りで固まったのは事実だ。
深山桜
深山桜
深山桜
浄海入道
浄海入道
深山桜
概ね自分の考えと合っていた浄海の方針に、桜はホッとした気持ちで頷く。 その時……。
息長姫子
深山桜
脳内の姫子の声に、桜は虚を突かれた。
浄海入道
深山桜
息長姫子
深山桜
浄海入道
それきり、彼女は何も言わなくなる。 浄海はまた前へ移動していった。
普通なら自転車でも数十分はかかりそうな距離を、2人は十数分で飛ばしていく。
田園地帯を抜け、市街地に近付いてきた。
浄海入道
浄海入道
深山桜
浄海入道
深山桜
ハンドルを持つ手に力がこもる。 辺りに警戒を払いながら、桜はペダルを漕ぎ続けた。
速度を緩めて、2人は再開発地域に進む。 おぼろげながら人影が見えてきた。
一番近い場所に居るのは、整った格好で道端をとぼとぼと歩く中年男性。
一見生活には不自由していなさそうなその服装に反して、生活困窮者のような、弱々しい雰囲気が背中から滲み出ている。
向こうを向いていた男性が、自転車の音に気付いてこちらを振り返り、
男性
あらん限りの叫びを上げて、脱兎のごとく走り出す。
『ワアアアアア──!!』
その途端に、向こうに見える人影全てが、言葉にならない悲鳴を上げて、一斉に逃げ惑い始める。
浄海入道
深山桜
2人は自転車を降り、この街に住む市民……未登録者達を刺激しないよう、ゆっくり歩いていった。
一般市民が暮らす地域と、ブランド達が根城にする無法地帯の間に存在するこの場所は、未登録者達が暮らす街として有名である。
ここだけでなく日本各地に、未登録者達が大半を占める街が存在しており、万能細胞によって激変した日本の負の側面として、世界各国から好起の視線を浴びせられている。
綺麗に舗装された、歩道を桜と浄海は進んでいく。
桜の住む街と同様に、街の道路や公共施設は綺麗に整えられており、一見過ごしやすい街のように見える。
それにも関わらず……無人と化したこの街は、息苦しいような閉塞感がこもっているような気がした。
深山桜
浄海入道
浄海入道
浄海入道
シャアアアア……
水音が道路の向こう側から聞こえてきた。
反対側の歩道で、生々しく広がった大きな血溜まりを、複数台の掃除用ロボットが機械的に清掃していた。
スプリンクラーのように周囲に水を撒き散らしながら、ブラシの着いたタイヤで忙しく動き回る。
あれ程の出血量では、被害者はもう生きていないだろう。 死体は既に片付けられたのか、どこにも見当たらなかった。
深山桜
浄海入道
血溜まりに顔を向けながら、浄海はきっぱりと言い切った。
浄海入道
浄海入道
深山桜
浄海入道
浄海入道
深山桜
浄海入道
昔を懐かしむように、浄海は大きなため息を着いた。
ドシャアアアン!!
『きゃああああ!!』
破砕音と悲鳴。 2人は前方を見る。
ティガーラック社員
WildCowrus社員
ガシャアアアアア!!
未登録者
未登録者
深山桜
見覚えのある顔。 昨日桜を襲ったティガーラックとWildCowrusの社員が、一軒のアパートを打ち壊し始めたのだ。
人力、それもたった2人だというのに、尋常ならざるパワーを無節操に振るい、柱や壁を次々と打ち砕いていく。
2人の近くで、住民と思わしき2人の男女が泣き叫んでいるが、蛮行がそれで緩むことはない。
浄海入道
深山桜
言葉の先は行動で示す。 自転車にまたがり、猛スピードでペダルを漕いだ。
シャアアアア
深山桜
WildCowrus社員
ティガーラック社員
一行の元に来た桜は、自転車を降りて対峙する。
深山桜
WildCowrus社員
WildCowrus社員
ティガーラック社員
未登録者
ティガーラック社員
ドガッ!!
未登録者
未登録者
すがりよる未登録者の男性を、ティガーラックの社員は踏みつける。 女性の悲痛な叫びが響く。
WildCowrus社員
ティガーラック社員
ティガーラック社員
ガスッ!! ドガッ!!
未登録者
ティガーラック社員
WildCowrus社員
吐き気をもよおすような悪意を垂れ流して、ブランドの暴漢達は未登録者の男性を乱暴に踏みつける。
もう許せない──! 桜が踏み出した瞬間、
息長姫子
深山桜
姫子の声に、桜は従った。 腰を落とした0.5秒後に、
ブゥン!!
頭上を影が飛んだ。
浄海──
いや、自転車。
ドガシャアッ!!
ティガーラック社員
WildCowrus社員
浄海が乗っていた自転車が、放物線を描いて、社員達の胸元辺りにぶち当たる。 2人まとめてぶっ飛んだ。
浄海入道
ずんずんと、浄海が隣に歩いてくる。
浄海入道
浄海入道
ティガーラック社員
起き上がった社員2人は、揃って不敵な笑いを浮かべる。
WildCowrus社員
ティガーラック社員
昨日の佐渡(と思い込んでいた千秋)と同じ脅し文句をぶつけてくる。
昨日相手にしたブランド達が手を組むことは予想していたが、まさか揃ってZ'feelの傘下になるとは……。
深山桜
未登録者の夫婦の前に、桜はかばうように立つ。
例えどれだけ困難な道のりになろうと、妹の仇は取ってみせる。 そう心に誓ったから。
深山桜
深山桜
ティガーラック社員
深山桜
深山桜
ティガーラック社員
桜が毅然とした態度で言い返すと、社員達は歯がゆそうな表情でたじろいだ。
浄海入道
浄海は腕組みをして、自信満々に問いかける。
浄海入道
浄海入道
WildCowrus社員
ダダッ
実力差を痛感したのか、2人は揃って逃げ出す。
ティガーラック社員
WildCowrus社員
ダッ ダッ ダッ
浄海入道
高笑いする浄海を他所に、桜は未登録者の夫婦の元に駆け寄る。
深山桜
何度も蹴られていた夫の人に、万能細胞の成分を練り込んだ丸薬を渡す。
未登録者
夫婦は何度も頭を下げる。 子供の命が無事で良かった……そう声をかけようとして、
ゴシャアアアアアアア……!!!
背中から聞こえてきた、土砂崩れのような轟音に、言葉が止まった。
未登録者
未登録者
娘の名前を呼ぶ、夫婦の叫びが、街中に響き渡った。
社員達の暴力によって崩れかけていた住宅が、限界を迎えて崩れ落ちたのだ。
崩落したのは全体の3割ほど──だが、夫婦の反応から、娘がどこに居たのかは明らかだった。
浄海入道
浄海はすぐに崩落した家屋に駆け寄る。
未登録者
深山桜
近寄ろうとする2人を制止する。 残った部分が倒壊したら、彼等の命も危うい。
桜と浄海は2人で瓦礫の撤去を始める。
轟音を聞きつけて付近の未登録者達が集まってきたが、崩落に巻き込まれるのを恐れてか、はたまたブランドの自分達が恐ろしいのか、遠巻きに眺めるばかりだ。
深山桜
浄海入道
未登録者
夫の方が話した外見的特徴を手がかりに、2人は捜索を続ける。
深山桜
瓦礫の山の下、ひっくり返って破損したベビーベッドを見つける。 わずかに見える隙間から、小さな左手が見える。
瓦礫を退けてやりたいが、幾重にも積み重なっていて、簡単には取り除けそうにない。
浄海入道
深山桜
桜はしゃがみこんで、わずかに開いている隙間に、腕を差し込む。
体温を感じる。 意識はないようだが、出血の気配は感じられない。
深山桜
桜は一縷の望みを抱きながら、そっと赤ん坊を引っ張る。
ガッ
引っかかる手応えを感じた瞬間、桜は酷い胸騒ぎを覚えた。
隙間の上に、引っ張る前は見えていなかった、鉄筋が見えた。
赤子の身体を引っ張って、鉄筋が移動した。 それがベビーベッドに引っかかったのだ。
突っかかった鉄筋を、桜は震えた手で外し……もう一度引っ張った。
身体は無事だった。
頭に深々と、鉄筋が突き刺さっていた。
安っぽい、赤錆びた鉄筋が、小さな頭の骨をあっさりと貫いていた。
桜は声が出なかった。
全身を引っ張り上げる前に、腕の力が抜けてしまう。
浄海入道
浄海の言葉も、途中で止まる。
苦しむことはなかったのだろう。 安らかに目を閉じて、お昼寝を楽しむかのような、ゆったりとした表情で……息絶えていた。
ドサッ
子供の隣に、小さな布袋が置かれた。 出発前に浄海が万能細胞を詰めていたのを思い出す。
ガシャガシャガシャ
浄海入道
未登録者
浄海入道
白々しい演技をしながら、もう退ける必要のない瓦礫を、1つずつ取り除いていく。
彼の意図が分かった。 夫婦に気付かれない内に治せ──そういう事なのだろう。
両目の熱と痛みをこらえて、桜は鉄筋を引き抜き、ぽっかりと開いた穴に、万能細胞を擦り込んでいった……。
オギャア! オギャア!
元気な泣き声が響く。 子供の頭はまるで、最初から無傷だったかのように綺麗にふさがっている。
未登録者
未登録者
我が子を胸に抱きながら、夫婦は桜達に何度も頭を下げた。
深山桜
柔らかい笑みを浮かべて、桜は首を降る。 真実は2人に話せなかった。
未登録者
未登録者
深山桜
未登録者
未登録者
浄海入道
肩を落とす夫婦に、浄海は発破をかける。
浄海入道
未登録者
未登録者
深山桜
涙声で何度も頭を下げる夫婦に、桜は何も話せなかった。
夫婦に別れを告げ、2人は東原病院までの道を走り出す。
先程の救出劇で多少は心を許してくれたのか、未登録者の人達は、自分達から逃げる様子はない。
深山桜
緩く並走しながら、桜は小さく吐き出す。
深山桜
息長姫子
深山桜
今までずっと黙っていた姫子の声が、突如として聞こえてきた。
心の奥深くに問いかけるような、ゆっくりとした口調の声だった。
息長姫子
息長姫子
息長姫子
深山桜
息長姫子
息長姫子
息長姫子
深山桜
姫子は淡々とした口調で語りかけてきた。
桜は答えが出ない。 確かにあの夫婦を始め、周囲の人達が誰も気付かなければ、このままずっと、あの子の死の事実は明らかにされないだろう。
深山桜
深山桜
深山桜
息長姫子
押し黙る桜を慮ったのか、脳内に姫子の心苦しそうな声が、じんわりと広がった。