猫
(突然だが僕は黒猫である)
猫
(ただの黒猫ではない)
猫
(本当に不幸を呼ぶ黒猫だ)
猫
(何度か拾われたこともあったがみんな何かしら不幸な目にあって)
猫
(最終的に僕1匹になる)
猫
(だから僕は人と関わりを持ちたくない)
猫
(僕と関わればみんな不幸になる)
猫
(僕と合わなければ幸せになれるんだから)
猫
(相手がいくら人間といえど居なくなるのは僕も悲しい)
猫
(お互いが得しないなら最初から関係を作らなければいい)
猫
(僕はそんな考えに至って今を生きてる)
猫
(たった1匹でこの寒空の下……)
カケル
はぁ…
カケル
よーやくバイト終わった
カケル
あのクソ店長何普通にタイムカード切った後に働かせようとしてくれてんだよ
カケル
無賃金で働くとかアホだろ…
猫
(人の子か…)
猫
(見つかるとまずい…)
猫
(足早にこの場を去らないと…)
猫
猫
(くっ……)
猫
(長らく何も食べてないから視界がぼやける)
猫
(それに体にも力が入らない)
猫
(まずい……)
猫
(このままだと僕は……)
猫
(いや、でも……)
猫
(僕が消えれば誰も不幸にならない)
猫
(なら……それでも………いい…………や)
猫
猫
(ここは?)
猫
(見たことない……場所)
猫
(外じゃない…)
猫
(てことは僕は今……)
カケル
……とりあえずこれでいいのか?
猫
!
猫
(あれはさっきの人の子)
猫
(まさか僕を拾って介護をする気か!?)
猫
(やめろ!)
猫
(もう僕は誰も失いたくない!)
猫
にゃー!!
猫
にゃ!!
カケル
んぁ!?
カケル
あんだよお前…
カケル
死にかけてたから助けてやったのに
カケル
切れんなって…
カケル
ほらまずは飯やるから落ち着け、な?
猫
(施しなんて僕は……)
猫
猫
(猫缶美味しそう……)
猫
(いやでも食べたら…)
カケル
やっぱ警戒されるか
カケル
まぁ俺が見てる見てない関係なしに飯は食えよな
カケル
目の前で死なれちゃァ目覚めが悪いし
猫
(それはこっちのセリフだ)
カケル
さて、んじゃ名前でも決めるか
カケル
安直にクロでもいいけど
カケル
俺の好きな歌に黒猫のKていう単語あるし
カケル
お前にはKって名ずけようかな
猫
(K…それが僕の名前…)
カケル
さてと、それじゃあ俺は寝るからな
猫
(この男もまたいなくなるんだ)
猫
(だって僕は不幸を呼ぶ猫)
猫
(早くここを立ち去らないと…)
猫
(ふぅ…)
猫
(あの男がずさんな管理をしてくれてたおかげで抜け出せた)
猫
(ご飯は美味しく頂いけどあそこには居られないからね)
猫
(また僕の寝床でも探すかな)
人通りの少ない住宅街をKは歩く
この地域の地理は頭の中に入っているようで元いた公園までの道のりは完璧だ
より人通りの少ない細道をぬけて信号を渡ったその先が公園だ
車が来てないことを確認し公園まで続く歩道を歩いていると
信号無視をした車が真っ直ぐKの方に突っ込んでいく
猫
(く、車!?)
猫
(ダメだ…走っても逃げられない…)
猫
(もう僕はここで……)
自分の死を悟り歩む足を止めその瞬間をただ待とうとしたその時だった
急に体がふわっと浮いて自分の後ろからは車が通り過ぎる音が聞こえた
何が起こったのか分かってなかったKは少しの間思考が止まっていたが
自分が誰かに抱き抱えられてると認識した時一人の男の顔が思い浮かぶ
そして見上げたところに顔があると思い見上げるとそこに居たのは先程自分を拾った
あの男だった
カケル
あっぶねぇなあのクソ野郎が!!
カケル
信号無視だけでなくひき逃げまでしようとしやがって
カケル
ざけんなよゴミムシが!
猫
(な、なぜこの男は僕を助けた?)
猫
(なぜ……)
カケル
マジでお前もお前だわ
カケル
勝手に抜け出してそのうえ死にかけんなや
カケル
死なれたら俺も目覚めが悪いって言ったろ
カケル
世話のかかる猫だなお前
猫
(僕は……)
猫
(僕は今久しぶりに優しさに触れた気がする)
猫
(僕のせいでみんなが不幸になると知った時から僕は)
猫
(人の優しさを無碍に扱っていた)
猫
(だって僕にはもう関係ないと思ってたから)
猫
(久しぶりだな……)
猫
(人の優しさをこうして感じるのは)
カケル
抵抗しても無駄だからなこのくそ猫
カケル
意地でもお前を連れて帰る
カケル
もうお前を”一人”にはしねぇよ
猫
(!?)
猫
(ま、まさかこの男)
カケル
わかったか?
カケル
俺は動物の声が聞こえるんだわ
カケル
不幸を呼ぶ猫だとか知らねぇよ
カケル
仮にそうだとしたらその因果俺が断ち切ってやるよ
カケル
だから勝手に抜け出して孤独になろうとすんな
カケル
これは俺との約束だ
カケル
わかったな”K”?
猫
(そうだな……)
猫
(久しぶりに真っ当に生きてみるのも悪くないかもな)