TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

ファウル・ファイブ

一覧ページ

「ファウル・ファイブ」のメインビジュアル

ファウル・ファイブ

21 - ガール・ミーツ・セクハラボーイ~ソフトタッチは突然に~

♥

19

2020年08月05日

シェアするシェアする
報告する

昼休み。

 わたしはやおみんと奈琴を引き連れ、食堂に来ていた。

 いつもならもう一人いるのだが、今日はサボりなのでここにはいない。品行方正を旨とするわたしとは正反対である。

矢臣(やおみ)

じゃあ、いつも通り確保よろしくね

木崎姫歌(きさき ひめうた)

あー、はいはい

 列に並び出すやおみんと奈琴を尻目に、わたしは三人分の空いている席を探し始めた。

 わたし一人が毎日弁当を持って来ている為、これはもはや日課である。

 果たして、席はすぐに見つかった。

 我が校はその特色上、親元を離れて生活している生徒が多い。それはイコール「弁当持参者が少ない」ということでもあるので、実は席の確保くらいは朝飯前なのだ。

木崎姫歌(きさき ひめうた)

あー、疲れたぁ……

 席に突っ伏し、暇潰しに辺りを見渡す。

 食堂内には続々と生徒が集まって来ていた。購買のパンは高い為、食堂の方が人気が高いのだ。

 ちなみに購買のパンが高い理由は簡単で、離島ゆえの輸送費込み仕様だからである。

木崎姫歌(きさき ひめうた)

コンビニまで行くのは面倒だしなぁ……

 我が校の生徒の為に作られた割に、学校から微妙に遠いところに建っており、昼休み中の利用には適していないのだ。

 ちなみに地元民たるわたしは、じいちゃんばあちゃんにいちいち呼び止められ時間がかかってしまう為、更に利用頻度は少ない。

 今日も奈琴と会うまでに、「ヒメちゃん、美人さんになったねぇ」と何度も声をかけられた。人間歳を取ると、皆言うことは同じになるのだろうか?

 と、そんな益体もないことを考えていると、

相羽吾蓮(あいば あれん)

おい、変態女

木崎姫歌(きさき ひめうた)

んあ?

 背後から声をかけられた。

木崎姫歌(きさき ひめうた)

吾蓮か

相羽吾蓮(あいば あれん)

おう。って、せめて振り向けよ

木崎姫歌(きさき ひめうた)

背後から変態のオーラを感じてな。振り向くのが躊躇われた

相羽吾蓮(あいば あれん)

おい

木崎姫歌(きさき ひめうた)

で、何の用だ?

 わたしは振り向いて訊ねた。

 すると、吾蓮は気まずそうな顔をして言った。

相羽吾蓮(あいば あれん)

い、いや、何て言うか、会って欲しいやつが、いるんだ、けど……

木崎姫歌(きさき ひめうた)

断る

相羽吾蓮(あいば あれん)

まあ、そうだよなぁ。って、おい、即答かよ

木崎姫歌(きさき ひめうた)

当然

 正直、そういう輩はもううんざりだ。

 溜息を吐いて再び机に突っ伏す。

木崎姫歌(きさき ひめうた)

大体、同年代の男共はクソにたかるハエのように近付いて来るくせに、いざ話してみると逃げるように去っていく。まったく、失礼にも程がある

相羽吾蓮(あいば あれん)

おい、ここ食堂だぞ

木崎姫歌(きさき ひめうた)

食堂だな

相羽吾蓮(あいば あれん)

……

 呆れた様な顔をする吾蓮。

 やがてたっぷりと諦観の籠った溜息を吐くと、吾蓮は再び口を開いた。

相羽吾蓮(あいば あれん)

つーか、男が逃げていくのはお前が原因だろ

木崎姫歌(きさき ひめうた)

そうか? わたしは「黙れウジ虫が。人に告白する前に、まずはそのドブの様な匂いのする口をどうにかしたらどうだ?と言っただけだがな」

相羽吾蓮(あいば あれん)

明らかにそれが原因だろ! そりゃ皆泣いて逃げ出すわ!

木崎姫歌(きさき ひめうた)

はっ、それで泣いて逃げ出すようでは、わたしの恋人は務まらんな

相羽吾蓮(あいば あれん)

何、そのドS精神!?

木崎姫歌(きさき ひめうた)

ま、その条件に当てはまる男がいるのなら、会ってやってもいいがな

 そう言って、わたしは微笑を浮かべた。

 しかし次の瞬間、その笑みはすぐに消え去った。何故なら、

相羽吾蓮(あいば あれん)

うおぉっ!?

木崎姫歌(きさき ひめうた)

っ――!

 急いでいた他の生徒にぶつかり、吾蓮がこちらに覆い被さって来たからだ。

木崎姫歌(きさき ひめうた)

……

 それと同時、思い起こされる昨日の衝撃。

 心臓が早鐘を打ち、顔が茹でダコのように真っ赤に染まっていく。

相羽吾蓮(あいば あれん)

――ととっ、大丈夫か、木崎?

木崎姫歌(きさき ひめうた)

……

相羽吾蓮(あいば あれん)

木崎?

 パクパクと口を開閉させるわたしに顔を寄せてくる吾蓮……って、近い近い!

 お前にはデリカシーという言葉がないのか!?

相羽吾蓮(あいば あれん)

 本気でわからないという顔をしている吾蓮。

 わたしの顔の赤さに気付かないのだろうか?

 そう、心中で苦言を呈した時だった。吾蓮は閃いたという顔で言った。

相羽吾蓮(あいば あれん)

あ、お前まさか、まだホテルでのこと気にしてんのか?

木崎姫歌(きさき ひめうた)

――っ!?

 しーん………………。

 食堂中が、凍った。

 吾蓮の発言に空間が凍結される。誰一人として、口を開けなかった。

 ちなみに、「しーん」という擬音を作ったのは夏目漱石だそうだ。

 漫画家で初めて使ったのは手塚治虫。勉強になったね。 ……って、今は冷静に豆知識を語っている場合じゃない!

 どうする? どうするこの状況!?

え? ちょっと、今のどういうこと?

聞き間違い、だよな……?

そ、そうよ! 吾蓮君は女になんか興味ないんだから!

 周囲もにわかに騒ぎ始めた。

 最後の発言は気になったが、些事にかかずらっている暇はない。

 わたしは焦りながらも、IQ180の知能を総動員し、弁解を試みた。

木崎姫歌(きさき ひめうた)

大丈夫! 初めてじゃなかったから!

相羽吾蓮(あいば あれん)

……

 しーん………………。

 再び訪れる沈黙。

 周囲を見渡すと、もれなく全員が口を開け、あんぐりしていた。

木崎姫歌(きさき ひめうた)

 …………。

 しまったぁぁぁぁああああああぁぁぁぁぁあああああああぁぁぁぁぁぁあああああっ!

 これじゃただの痴女じゃないか!

 て言うか何が「初めてじゃないから大丈夫」だ!?

 何が大丈夫なんだ!? 誰的に大丈夫なんだ!? 誰も大丈夫じゃないわ!

非処女!? やはり木崎は非処女なのか!?

いやぁぁぁあああっ! 吾蓮君が! 吾蓮君がビッチの餌食に!

ダメよ吾蓮君! あなたの息子は女ごときに穢されていいものじゃないわ!

 誰がビッチやねん!

 心中で叫ぶが、そんなことを言える状況でもない。口を開くことは、即処死刑を意味する。

 て言うか吾蓮、女子に人気あり過ぎるだろ。逆に引くわ。半分わたしに寄こしなさい。

 しかし、黙っていても事態は好転しなかった。むしろ女子からの殺気が天井知らずに高まっていく。

木崎姫歌(きさき ひめうた)

……………

 ダラダラダラダラダラ……。

 汗が止めどなく流れ始めた。焦ってとんでもないことを口走ってしまったぞ。

 どうする?

死ね死ね死ね死ね死ね……

木崎姫歌(きさき ひめうた)

うおいっ!

 物騒なことを言うんじゃない! わたしにも家族がいるんだぞ!

 しかし口に出さなくては伝わらない。だが口に出すことも叶わない。

 状況はあまりにも悪い。何か、何かこの状況を打開する方法は?

 そう、思った瞬間だった。

甲尾莱亜(こうび らいあ)

任せて

木崎姫歌(きさき ひめうた)

――っ!?

 耳元で、何者かに声をかけられた。

甲尾莱亜(こうび らいあ)

騒がしいね。どうしたの?

 一言、そいつは一言そう言った。それだけなのに、

 しーん………………。

 食堂中が、静まり返った。

相羽吾蓮(あいば あれん)

莱亜(らいあ)……?

 最初にそう言ったのは吾蓮。

 それに続き、周囲も喧騒を取り戻す。

こ、甲尾(こうび)君

甲尾君……

 しかし、先程とはどこか違う喧騒。

 憧憬と畏怖が混じり合っているかのようだった。

 だがそれもそのはず。男は高身長、長い手足、暗めの茶髪と切れ長の目という、近寄りがたい雰囲気の美男子だったからだ。

 男――甲尾莱亜というらしい(ふざけた名前だ)はわたしに近付き、言った。

甲尾莱亜(こうび らいあ)

お、意外と可愛いの穿いてるね

 しゃがんで、わたしのスカートを捲り上げて。

木崎姫歌(きさき ひめうた)

……はい?

相羽吾蓮(あいば あれん)

なっ!?

はいいいいいぃぃぃぃぃいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいっ!?

 その叫びは、食堂中に響き渡った。

ファウル・ファイブ

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

19

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚