紫 side
何度目かわからない
薄暗い書庫の中を一人で歩く
イルマ
ただ、静かに俺の足音だけが響いた
この城への潜入を開始してから、早1ヶ月
普通にらんの護衛という役割も板についてきたが、俺の本来の目的は依頼をこなすことだ
イルマ
イルマ
ある本のタイトルが目に入ると、静かにそれを抜き出す
〝生贄の花嫁〟
それは、歴代何代にもわたり引き継がれてきた変えられぬ運命である
何百年かに一度寿命を迎える
神から与えられし桜の木
不思議な力持つその木がなくては、
本来枯れ果てた地であるこのシクスフォニアは生命を保つことができない
その生命を延命させるのが、選ばれし花嫁
花嫁であることは、まさにこの国の〝誇り〟である
生まれた頃から誰よりも桜の花が似合うその容姿は、まるで作り込まれた人形であるかのように美しく…
イルマ
そこまで読んだところで俺は静かに本を閉じた
どうしようもなく居心地が悪くなったからだ
イルマ
同時に、微かな怒りも湧いてくる
何故かはわからない
けど、花嫁であることを誇りなんて言い方をする本を馬鹿馬鹿しく感じた
イルマ
城の領地の隅に用意された、騎士専用の宿舎
自室に戻っても、不快感が消えることはなかった
イルマ
桜の花嫁であることを嫌がっているらんの隣にいるから
イルマ
イルマ
イルマ
らんは気づいていないのかもしれない
けど、
ラン
ラン
イルマ
イルマ
イルマ
ラン
イルマ
イルマ
なのに、
ラン
イルマ
それが、ここまで桜花妃を探ってみてわかったことだ
幼い頃からお前は生贄になるのだと教えて込まれてきたのもあるのだろう
けどきっとあれは、
イルマ
わからない、俺には
ひどい恐怖を感じながらも受け入れていることが
イルマ
馬鹿だ
俺だったら受け入れることなんてできない
でも、
イルマ
イルマ
そう頭によぎったが、すぐに思考を停止させる
イルマ
桜花妃につくことになったのは、依頼をこなす上で計画通りだった
だけど
イルマ
自分に半ば呆れながら静かに目を瞑る
一旦全てを忘れようと、その日は床についた