沢田マリカ
井川静(じん)
井川静(じん)
静(じん)さんはあすみさんの失声に気づいていなかった
私がその事を告げた瞬間
とても驚いた顔をしていた
井川静(じん)
井川静(じん)
あすみさんの声が聞こえなくなったことは
ご近所の方からの証言にもあったが
私達が助け出した時には声は微かだがちゃんと出ていた
一度は失声状態になったが
優真さんと引き離される際に声を取り戻し
それ以降は声を失うことはなかったようだ
再び虐待された際に声を出さなかったのは
単に我慢していただけなのかもしれない
あの日の放課後
下校する生徒に混じって歩くあすみさんの姿を
静さんは教室の窓から眺めていた
家に戻ればまた
あすみさんを傷つけなければいけなくなる
そう思うと家に戻るのが辛かった
何人かの同級生が
同級生A
そう声をかけてきたが
静さんはそれに答えることができず
同級生達は訝しげな表情を浮かべて去っていった
しばらくして重い足取りで何とか学校を出た静さんは
それでも真っ直ぐ家に帰る気になれず
わざと遠回りをしていつもよりも大分遅い時間に帰宅
玄関の扉を開くと
待ち構えていたかすみさんに頬を叩かれ
井川かすみ
烈火の如く怒るかすみさんに怒鳴られた
井川かすみ
かすみさんのその言葉に静さんは驚き
慌ててあの部屋へ向かうも人の気配はなく
静さんの寝室にも両親の寝室にもあすみさんの姿はなかった
井川かすみ
井川悟志
井川悟志
井川かすみ
井川かすみ
井川悟志
かすみさんは既に亡くなっているはずの義母を気にして
まるでまだ義母が生きているかのように話し続ける
その姿に困惑した悟志さんが静さんに声をかけたが
静さんはあすみさんのことが気になりそれどころではなかった
井川静(じん)
一時間
二時間
徐々に経過していく時間と共に
静さんはあることを考えるようになった
井川静(じん)
このまま家に戻らなければ
傷つくことはなくなる
どこかに逃げて身を隠して
そうすればもう
自分が手を下す必要もなくなって
例え自分が標的になったとしても
妹を守れるならそれでいい
静さんは覚悟を決めて
かすみさんに向かって言葉を投げ掛ける
井川静(じん)
井川かすみ
井川静(じん)
井川かすみ
井川静(じん)
井川静(じん)
井川かすみ
井川かすみ
井川かすみ
井川かすみ
かすみさんの冷たい言葉に
静さんは胸がぎゅっと締め付けられる気がした
何とかかすみさんを納得させたが
心の奥底では祈り続けていた
心から愛してしまった妹の無事を
心から愛する妹が
他の男の腕の中で愛されているとも知らずに
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