月ノ瀬アキ
胸が苦しい
少し走っただけなのに
こんなんじゃ間に合わない じゃないか
時間が減っていく一方だ
月ノ瀬アキ
月ノ瀬アキ
壁に手を付きながら進んでいく
まだ
まだ君に
たくさん話したいことがあるのに
あんなに時間があったのに
何故
大事なことを 言えなかったのだろう
彼女にはもう
時間がないんだ
彼女の身体がもう二度と
動かなくなる前に
僕が伝えたいこと
伝えなきゃいけないこと
ためらわず
恥ずかしがらずに
伝えないと
黄葉カエデ
病室のベッドにカエデは 座っていた
カエデは自分の運命を 受け入れてるんだ
平然とした顔で
むしろ僕より生き生きとして
こちらに手を振っていた
黄葉カエデ
黄葉カエデ
もしかしたら察した のかもしれない
僕の顔を見ればわかるだろう
明らかに動揺している顔
月ノ瀬アキ
聞きたいことがあった
どうして僕に話しといてくれ と赤峰さんに頼んだのだろう
どうしてカエデは、そんなに 明るくいられるんだろう
どうして驚かないんだ
死が
もう、すぐそこだというのに
どうして…?
月ノ瀬アキ
聞きたいことは山ほどある
喉にまで出かけているのに 声にならなかった
月ノ瀬アキ
黄葉カエデ
黄葉カエデ
カエデが覗き込んでくる
僕は泣きたくなった
月ノ瀬アキ
カエデはベッドにバタン と仰向けに倒れ込んだ
黄葉カエデ
黄葉カエデ
黄葉カエデ
月ノ瀬アキ
黄葉カエデ
その笑い声は かすれていて
どこか寂しげに感じた
黄葉カエデ
黄葉カエデ
黄葉カエデ
月ノ瀬アキ
月ノ瀬アキ
今はもう
後悔しかない
黄葉カエデ
黄葉カエデ
カエデは天井に手を伸ばし
閉じたり広げたりして
病気が急激に進行している ことを思い知った
黄葉カエデ
カエデは体を起こして 動かなくなった足を見つめる
黄葉カエデ
カエデの瞳から涙が ぽたりと落ちて
淡い水色のズボンにシミを作る
黄葉カエデ
僕は目を見開いた
いつも笑顔で、何事も ポジティブに捉えていた彼女の
泣いている顔を初めて見たから
カエデは袖で涙を拭いて 僕に向き直る
黄葉カエデ
黄葉カエデ
黄葉カエデ
月ノ瀬アキ
黄葉カエデ
黄葉カエデ
月ノ瀬アキ
僕達は病院の中庭に来ていた
僕は車椅子を押す
完全に動かなくなったカエデ の足では歩くことができない
座っているだからだが
カエデが小さく見えた
ザクザクと落ち葉一面の道をゆく
他に人はあまり居ない
当たり前だ
昼食の時間に こっそり病室から来たのだから
黄葉カエデ
月ノ瀬アキ
黄葉カエデ
黄葉カエデ
月ノ瀬アキ
僕は昨日より少し 平常を取り戻した
いや、カエデの前では 明るくいようと思った
月ノ瀬アキ
黄葉カエデ
月ノ瀬アキ
黄葉カエデ
黄葉カエデ
月ノ瀬アキ
月ノ瀬アキ
月ノ瀬アキ
黄葉カエデ
黄葉カエデ
カエデは車椅子からベンチ に移り、腰を掛けた
僕も隣に腰を下ろす
風が頬を撫でる
秋の暖かいような 冷たいような
短い季節のこそばゆさを 肌で感じた
月ノ瀬アキ
黄葉カエデ
月ノ瀬アキ
黄葉カエデ
黄葉カエデ
黄葉カエデ
病室の窓からは星が 遠くて見えない
少しでも空に近い場所を 僕は知っていた
月ノ瀬アキ
月ノ瀬アキ
黄葉カエデ
黄葉カエデ
月ノ瀬アキ
黄葉カエデ
カエデは空気をめいいっぱい 吸い込んで
空を仰いだ
月ノ瀬アキ
月ノ瀬アキ
黄葉カエデ
黄葉カエデ
黄葉カエデ
月ノ瀬アキ
月ノ瀬アキ
黄葉カエデ
月ノ瀬アキ
黄葉カエデ
黄葉カエデ
黄葉カエデ
それは
僕も後悔している
もっと勇気があれば…
月ノ瀬アキ
黄葉カエデ
月ノ瀬アキ
いつ、この時間が終わるか 分からないが
僕にはもう
時間なんて関係なかった
月ノ瀬アキ
黄葉カエデ
黄葉カエデ
黄葉カエデ
月ノ瀬アキ
月ノ瀬アキ
黄葉カエデ
月ノ瀬アキ
カエデの前に僕はしゃがみ込んだ
黄葉カエデ
黄葉カエデ
黄葉カエデ
カエデが肩を掴んで 背中に乗った
月ノ瀬アキ
黄葉カエデ
月ノ瀬アキ
カエデは下半身がほとんど 動かなくなっていた
僕に体重を預けるしかなかった
全然重たく感じなかった
むしろ軽い
そう、僕は思った
月ノ瀬アキ
黄葉カエデ
屋上にあったベンチに僕は カエデを座らせた
黄葉カエデ
月ノ瀬アキ
月ノ瀬アキ
黄葉カエデ
黄葉カエデ
黄葉カエデ
黄葉カエデ
月ノ瀬アキ
月ノ瀬アキ
黄葉カエデ
月ノ瀬アキ
黄葉カエデ
黄葉カエデ
黄葉カエデ
カエデは空を見上げたまま そう言った
月ノ瀬アキ
しばらくの間沈黙が流れる
月ノ瀬アキ
月ノ瀬アキ
黄葉カエデ
僕はカエデの顔を見ずに
立ち上がってフェンスに近づいた
ここは4階
確実だ
僕はカエデの方に振り返って
口を開いた
月ノ瀬アキ
黄葉カエデ
皆
僕の前からいなくなった
仲の良かった友達も
家族も
母さんも
カエデももうすぐいなくなる
ああ
またこの感覚
僕だけが残されていく
なんて残酷な世界だ
前にカエデが言った 言葉を思い出す
今ならわかるよ
胸が張り裂けそうなほど思うよ
いっそ殺してくれ、って
月ノ瀬アキ
月ノ瀬アキ
月ノ瀬アキ
月ノ瀬アキ
月ノ瀬アキ
月ノ瀬アキ
黄葉カエデ
カエデは立ち上がろうとしたが 地面に倒れ込んだ
月ノ瀬アキ
僕はすぐに駆け寄って 手を差し出す
黄葉カエデ
カエデはパシッと僕の 手を跳ね除けた
黄葉カエデ
真っ直ぐ目が合う
必死な眼差し
月ノ瀬アキ
黄葉カエデ
黄葉カエデ
黄葉カエデ
月ノ瀬アキ
黄葉カエデ
黄葉カエデ
黄葉カエデ
信じられなかった
カエデからそんな 言葉が出るとは
黄葉カエデ
黄葉カエデ
黄葉カエデ
黄葉カエデ
カエデは俯き
黄葉カエデ
真っ直ぐ僕を睨んだ
そんなふうに思っていたなんて
思いもしなかった
黄葉カエデ
黄葉カエデ
黄葉カエデ
黄葉カエデ
黄葉カエデ
黄葉カエデ
黄葉カエデ
黄葉カエデ
黄葉カエデ
言葉の意味が理解できなかった
カエデを見つめたまま
僕は固まった
月ノ瀬アキ
黄葉カエデ
黄葉カエデ
黄葉カエデ
月ノ瀬アキ
月ノ瀬アキ
月ノ瀬アキ
カエデは ずいっと僕に近づいた
黄葉カエデ
黄葉カエデ
黄葉カエデ
黄葉カエデ
黄葉カエデ
黄葉カエデ
黄葉カエデ
月ノ瀬アキ
黄葉カエデ
黄葉カエデ
黄葉カエデ
黄葉カエデ
黄葉カエデ
黄葉カエデ
月ノ瀬アキ
黄葉カエデ
黄葉カエデ
黄葉カエデ
黄葉カエデ
黄葉カエデ
黄葉カエデ
月ノ瀬アキ
涙が溢れた
僕は何してるんだ
結局死ぬ口実のための
自己満だったんじゃないか
彼女は本気で
僕に何かしてあげたい と思っていたんだ
断る理由がどこにある?
彼女からのプレゼント
それはとても
脆く
儚く
すぐ壊れそうになるもの
でも、それ以上に
美しい
僕は
静かに彼女を抱きしめた
コメント
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うわぁぁぁぁあぁぁ切ないぃぃ、!!、!