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心緒響命病

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心緒響命病

4 - 君との約束

♥

200

2022年10月05日

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月ノ瀬アキ

はあっ…ッ…!

胸が苦しい

少し走っただけなのに

こんなんじゃ間に合わない じゃないか

時間が減っていく一方だ

月ノ瀬アキ

くッ…な…んでっ

月ノ瀬アキ

痛み…おさまれっ…

壁に手を付きながら進んでいく

まだ

まだ君に

たくさん話したいことがあるのに

あんなに時間があったのに

何故

大事なことを 言えなかったのだろう

彼女にはもう

時間がないんだ

彼女の身体がもう二度と

動かなくなる前に

僕が伝えたいこと

伝えなきゃいけないこと

ためらわず

恥ずかしがらずに

伝えないと

黄葉カエデ

あ!おっかえり〜

病室のベッドにカエデは 座っていた

カエデは自分の運命を 受け入れてるんだ

平然とした顔で

むしろ僕より生き生きとして

こちらに手を振っていた

黄葉カエデ

もぉ、遅いよ

黄葉カエデ

誰かと話してたの?

もしかしたら察した のかもしれない

僕の顔を見ればわかるだろう

明らかに動揺している顔

月ノ瀬アキ

あ…えっ…と……

聞きたいことがあった

どうして僕に話しといてくれ と赤峰さんに頼んだのだろう

どうしてカエデは、そんなに 明るくいられるんだろう

どうして驚かないんだ

死が

もう、すぐそこだというのに

どうして…?

月ノ瀬アキ

な…でも……ないよ…

聞きたいことは山ほどある

喉にまで出かけているのに 声にならなかった

月ノ瀬アキ

ケホッ…

黄葉カエデ

ちょっとアキくん?

黄葉カエデ

ホントに大丈夫?

カエデが覗き込んでくる

僕は泣きたくなった

月ノ瀬アキ

ゔ…ん……

カエデはベッドにバタン と仰向けに倒れ込んだ

黄葉カエデ

……………

黄葉カエデ

聞いたんだね

黄葉カエデ

でしょ?

月ノ瀬アキ

…………!

黄葉カエデ

あはは…

その笑い声は かすれていて

どこか寂しげに感じた

黄葉カエデ

もっと楽しんどけば
よかったなー…

黄葉カエデ

アキくんと話したい
こと、まだあるのに…

黄葉カエデ

沢山…ね

月ノ瀬アキ

……ごめん

月ノ瀬アキ

なんで今になって
気づいたんだろ…

今はもう

後悔しかない

黄葉カエデ

アキくん…

黄葉カエデ

私の体、どんどん
動かなくなってる…

カエデは天井に手を伸ばし

閉じたり広げたりして

病気が急激に進行している ことを思い知った

黄葉カエデ

歩けなくなっちゃった

カエデは体を起こして 動かなくなった足を見つめる

黄葉カエデ

ははっ…はっ……

カエデの瞳から涙が ぽたりと落ちて

淡い水色のズボンにシミを作る

黄葉カエデ

こうなること…
わかってたのに……

僕は目を見開いた

いつも笑顔で、何事も ポジティブに捉えていた彼女の

泣いている顔を初めて見たから

カエデは袖で涙を拭いて 僕に向き直る

黄葉カエデ

アキくん…

黄葉カエデ

私のお願い

黄葉カエデ

聞いてくれる?

月ノ瀬アキ

うん…何…?

黄葉カエデ

わあー………

黄葉カエデ

綺麗……すっごく…

月ノ瀬アキ

うん……だね

僕達は病院の中庭に来ていた

僕は車椅子を押す

完全に動かなくなったカエデ の足では歩くことができない

座っているだからだが

カエデが小さく見えた

ザクザクと落ち葉一面の道をゆく

他に人はあまり居ない

当たり前だ

昼食の時間に こっそり病室から来たのだから

黄葉カエデ

一度は見とかないとね
この美しさ!

月ノ瀬アキ

桜…じゃなくて?

黄葉カエデ

何を言うアキくん

黄葉カエデ

秋の紅葉ほど綺麗な
もの、私知らないよ

月ノ瀬アキ

たしかに…

僕は昨日より少し 平常を取り戻した

いや、カエデの前では 明るくいようと思った

月ノ瀬アキ

これが…お願い?

黄葉カエデ

うん…ありがとね
アキくん

月ノ瀬アキ

こんなので
いいの?

黄葉カエデ

だって…病院の外には
行けないでしょ

黄葉カエデ

アキくんだって
病人だし

月ノ瀬アキ

僕はいいよ

月ノ瀬アキ

カエデにできるだけ
思い出を残して
あげたいんだ………

月ノ瀬アキ

いつ死ぬかわから
ないんでしょ?

黄葉カエデ

男前になったなぁ
アキくんも…

黄葉カエデ

いよっ……と

カエデは車椅子からベンチ に移り、腰を掛けた

僕も隣に腰を下ろす

風が頬を撫でる

秋の暖かいような 冷たいような

短い季節のこそばゆさを 肌で感じた

月ノ瀬アキ

カエデ

黄葉カエデ

んー?

月ノ瀬アキ

今夜、星空を
見に行こうよ

黄葉カエデ

星空…?

黄葉カエデ

そんなの

黄葉カエデ

見れるの…!?

病室の窓からは星が 遠くて見えない

少しでも空に近い場所を 僕は知っていた

月ノ瀬アキ

うん

月ノ瀬アキ

僕が…連れて
いってあげる

黄葉カエデ

嬉しい…

黄葉カエデ

楽しみにする!

月ノ瀬アキ

うん…じゃ、
帰ろっか

黄葉カエデ

そうだね…
目に焼き付けとこっ

カエデは空気をめいいっぱい 吸い込んで

空を仰いだ

月ノ瀬アキ

カエデ…

月ノ瀬アキ

寝ちゃった?

黄葉カエデ

ううん

黄葉カエデ

ぜーんぜん!

黄葉カエデ

眠れないもん

月ノ瀬アキ

そろそろ見回りも
終わると思うから

月ノ瀬アキ

少し待ってね

黄葉カエデ

ふーん

月ノ瀬アキ

……?

黄葉カエデ

私が死ぬって
知ってから

黄葉カエデ

アキくん積極的
になったよねー

黄葉カエデ

もっと前から
なっといてよ笑

それは

僕も後悔している

もっと勇気があれば…

月ノ瀬アキ

大丈夫

黄葉カエデ

………?

月ノ瀬アキ

今からだから

いつ、この時間が終わるか 分からないが

僕にはもう

時間なんて関係なかった

月ノ瀬アキ

行くよ…カエデ

黄葉カエデ

あっ…でも……

黄葉カエデ

車椅子用のエレベーター

黄葉カエデ

夜は動いてないよね…?

月ノ瀬アキ

必要ないよ

月ノ瀬アキ

僕がおぶってく

黄葉カエデ

へっ…!?

月ノ瀬アキ

ほら…

カエデの前に僕はしゃがみ込んだ

黄葉カエデ

えっ…と……

黄葉カエデ

………っ…

黄葉カエデ

し、仕方ない…か

カエデが肩を掴んで 背中に乗った

月ノ瀬アキ

よっ……と

黄葉カエデ

ご、ごめん…
重たいよね

月ノ瀬アキ

ううん…全然

カエデは下半身がほとんど 動かなくなっていた

僕に体重を預けるしかなかった

全然重たく感じなかった

むしろ軽い

そう、僕は思った

月ノ瀬アキ

どう?カエデ

黄葉カエデ

きれい……

屋上にあったベンチに僕は カエデを座らせた

黄葉カエデ

静か…だね

月ノ瀬アキ

うん……

月ノ瀬アキ

ここ立入禁止
だけどね…

黄葉カエデ

やっぱりー

黄葉カエデ

病院の屋上が行ける
なんて聞いたこと
一度もないもん…

黄葉カエデ

悪い子だな

黄葉カエデ

君も、私も

月ノ瀬アキ

ごめんね

月ノ瀬アキ

でも、見れて
よかったでしょ?

黄葉カエデ

それは……
そうだけど?

月ノ瀬アキ

あはっ…よかった

黄葉カエデ

……………

黄葉カエデ

アキくん…

黄葉カエデ

なんか隠してない?

カエデは空を見上げたまま そう言った

月ノ瀬アキ

…………………

しばらくの間沈黙が流れる

月ノ瀬アキ

二人で死のうよ

月ノ瀬アキ

ここから

黄葉カエデ

…………

僕はカエデの顔を見ずに

立ち上がってフェンスに近づいた

ここは4階

確実だ

僕はカエデの方に振り返って

口を開いた

月ノ瀬アキ

また…僕だけ置いて
いかれるんだ……

黄葉カエデ

アキ…くん……

僕の前からいなくなった

仲の良かった友達も

家族も

母さんも

カエデももうすぐいなくなる

ああ

またこの感覚

僕だけが残されていく

なんて残酷な世界だ

前にカエデが言った 言葉を思い出す

今ならわかるよ

胸が張り裂けそうなほど思うよ

いっそ殺してくれ、って

月ノ瀬アキ

それか…

月ノ瀬アキ

僕だけ先に逝くよ

月ノ瀬アキ

カエデがあとから、
追いかけてきた時に

月ノ瀬アキ

あの世で二人

月ノ瀬アキ

沢山

月ノ瀬アキ

色んな話をしよう

黄葉カエデ

そんなの嫌だ!

カエデは立ち上がろうとしたが 地面に倒れ込んだ

月ノ瀬アキ

カエデ…!

僕はすぐに駆け寄って 手を差し出す

黄葉カエデ

いいよ!手なんて
貸さなくて!

カエデはパシッと僕の 手を跳ね除けた

黄葉カエデ

聞いて!アキくん

真っ直ぐ目が合う

必死な眼差し

月ノ瀬アキ

…………

黄葉カエデ

言いたいこと、
数え切れない程
あるけど…

黄葉カエデ

これだけは伝えないと
いけないから……ッ…

黄葉カエデ

どうしても
伝えたいから…!

月ノ瀬アキ

……!?

黄葉カエデ

私……

黄葉カエデ

私ね、幸せだよ

黄葉カエデ

これ以上ない最高
の人生だったの

信じられなかった

カエデからそんな 言葉が出るとは

黄葉カエデ

でも…っ…

黄葉カエデ

アキくんがいなく
なったら本当に…

黄葉カエデ

本当に何も残ら
なくなる…!

黄葉カエデ

そんな残酷な未来…

カエデは俯き

黄葉カエデ

死んでも嫌!

真っ直ぐ僕を睨んだ

そんなふうに思っていたなんて

思いもしなかった

黄葉カエデ

それだけは絶対
嫌だと思った

黄葉カエデ

だから…だからっ…!

黄葉カエデ

死なないで…

黄葉カエデ

ううん…違う

黄葉カエデ

幸せになってよ

黄葉カエデ

今度はアキくんが
幸せになってよ!

黄葉カエデ

私はいなくなら
ないから…!!

黄葉カエデ

アキくんの中で

黄葉カエデ

生き続けるからっ…!

言葉の意味が理解できなかった

カエデを見つめたまま

僕は固まった

月ノ瀬アキ

僕の……中で…?

黄葉カエデ

ねえ、アキくん

黄葉カエデ

私の心臓

黄葉カエデ

もらってほしい…

月ノ瀬アキ

はっ…?何……
言ってるの?

月ノ瀬アキ

そんなの…

月ノ瀬アキ

駄目に決まってる!

カエデは ずいっと僕に近づいた

黄葉カエデ

お願い…もう時間が
ないの…………

黄葉カエデ

結局、私

黄葉カエデ

誰かに提供しよう
と思ってるの

黄葉カエデ

でもね

黄葉カエデ

その誰かは

黄葉カエデ

君だったらいいなって

黄葉カエデ

ずっと思ってきたの

月ノ瀬アキ

カエ…デ…

黄葉カエデ

私の一部が

黄葉カエデ

アキくんの中で

黄葉カエデ

一部となって

黄葉カエデ

大切な役割を
果たすのって

黄葉カエデ

すっごく………

黄葉カエデ

ロマンチックで、
素敵じゃない?

月ノ瀬アキ

本気なの?

黄葉カエデ

うん…

黄葉カエデ

これは

黄葉カエデ

ブラックジョーク
なんかじゃない

黄葉カエデ

君が私に何かしてやり
たいと思ったように

黄葉カエデ

私も、君に……

黄葉カエデ

そう思ったんだよ

月ノ瀬アキ

そんな…っ…

涙が溢れた

僕は何してるんだ

結局死ぬ口実のための

自己満だったんじゃないか

彼女は本気で

僕に何かしてあげたい と思っていたんだ

断る理由がどこにある?

彼女からのプレゼント

それはとても

脆く

儚く

すぐ壊れそうになるもの

でも、それ以上に

美しい

僕は

静かに彼女を抱きしめた

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